データで見る「党首力」 党首とそのライバルを取り巻く世論=JX通信社独自調査
岸田文雄首相が内閣改造・自民党役員人事を行い、解散総選挙の時期にも関心が集まる中、自民党内では「次の首相」候補として様々な政治家の名前が語られている。一方の野党も、選挙を通じた連携や競争を通じて、誰が与党に対抗する力を得るのかが注目されている。
そこで、報道ベンチャーのJX通信社では、インターネットを通じた全国規模の調査を実施した。今回は、このうち主要な政党の党首、代表をはじめとする著名政治家への世論の「期待度」の調査結果を紹介する。
政治家への「期待度」の調査にあたっては、報道各社の世論調査で示された各党の支持率に概ね比例する形で、自民党から7名、立憲民主党と日本維新の会からそれぞれ3名、公明党と共産党から2名、れいわ新選組と国民民主党、社民党、参政党から各1名の計21名の政治家の名前を挙げて質問した。
全体では維新吉村氏、自民河野氏・石破氏らが上位に
回答者全体では、日本維新の会共同代表の吉村洋文大阪府知事がトップで29%、次いで自民党の河野太郎デジタル大臣が24%、石破茂元幹事長が23%、小泉進次郎元環境相が21%などと続いた。岸田文雄首相は17%で6位に留まった。
吉村氏以外の野党政治家では、国民民主党の玉木雄一郎氏が14%、れいわ新選組の山本太郎代表が13%、立憲民主党の野田佳彦元首相、枝野幸男前代表が12%などとなった。
「大いに期待する」「やや期待する」を合計した期待度が「あまり期待しない」「まったく期待しない」の合計を上回る政治家はゼロだった。
自民党支持層では岸田氏トップ、石破氏には野党支持層から期待
与野党それぞれの政治家について、各党支持層ごとに分析するとまた違った様相が見えてくる。
まず自民党の7名の政治家について、期待度を自民党支持層に絞って分析すると、全体とは順位が大きく変わった。トップは岸田文雄首相で56%、次いで河野太郎デジタル大臣が49%、小泉進次郎元環境相が43%と続いた。回答者全体では期待度が3位(自民党政治家の中では河野氏に次ぐ2位)だった石破茂元幹事長は、自民党支持層に絞ると5位に留まっている。
全体では上位の石破氏が、自民党支持層の中では下位に沈む理由は、石破氏が野党支持層の期待を集める存在だからだ。
例えば、立憲民主党支持層では岸田氏への期待度は10%にとどまるが、石破氏への期待度は36%に上る。同じく野党である日本維新の会支持層でも31%、共産党支持層でも23%に上っており、他の自民党所属の政治家を大きく上回っている。安倍政権の時代から、政権に物申す「党内野党」的立場での発信が目立っていたことが影響し、非自民の傾向の強い有権者の期待を集めやすい存在となっている可能性がある。
この他、2021年の自民党総裁選に出馬した高市早苗経済安全保障担当大臣は、自民党支持層から一定の期待がある一方で、「保守」の立ち位置が明確ゆえ立憲民主党など野党支持層からの期待度は低い。茂木敏充幹事長は「ポスト岸田」の有力候補と目されているが、次の首相候補としての全国的知名度には大いに課題がありそうだ。
立憲・泉代表への期待度は枝野前代表や国民・玉木代表、れいわ・山本代表を下回る
野党の政治家についても、それぞれの党の支持層に絞って分析すると興味深い結果が見えてくる。
まず注目すべきは、野党第一党である立憲民主党の泉健太代表への期待度だ。メディアでの露出量や知名度で優る維新・吉村氏はさておくとしても、立憲よりも党の規模で劣る国民民主党の玉木雄一郎代表や、れいわ新選組の山本太郎代表にも劣後し、共産党の志位和夫委員長と同水準となっている。立憲民主党の議席数や支持率からすると心もとない。
その一因は、足元の立憲民主党支持層から泉氏への期待度の弱さだ。
今回の調査では、立憲からは泉氏のほかに枝野幸男前代表、野田佳彦元首相の3名の名前を挙げて質問した。それぞれへの期待度の回答を立憲民主党支持層に絞り込むと、枝野氏に期待するとした人が64%と最多で、次いで泉氏が49%、野田氏が40%と続いた。「大いに期待する」とした人のみで比べると、枝野11%に対して泉氏と野田氏は6%と倍近い差がある。
枝野氏は2017年に旧立憲民主党に立ち上げた「創業者」だ。2021年の衆院選で立憲の獲得議席数が伸び悩んだ責任をとって交代したが、最近は「枝野ビジョン2023」を発表するなど発信を強めている。そして、野田氏には首相経験者としての知名度に加えて、自民党など他党支持層からの期待度も一定程度ある。その2人と比べると、泉氏への期待度の低さは自然と見ることもできる。
だが、立憲よりも議席数や支持率で劣る政党の代表がより高い期待度を集めている実態を踏まえれば、泉氏への期待度や発信力をめぐる課題は、立憲が自らの支持層のみならず、無党派層や他党支持層に支持を訴えかけるうえで大きなハードルになり得る。
所属政党の支持層からの期待度に課題があるのは、日本維新の会の馬場伸幸代表も同じだ。
野党第一党を目指す維新が、今後もし政権をとることになれば、代表を務めている馬場氏は総理大臣にさえなり得る立場だ。だが、維新支持層からの馬場氏への期待度は共同代表を務める吉村氏の半分程度にとどまる。加えて、維新の次のリーダーと目される藤田文武幹事長についても質問したが、馬場氏と同様の期待度だった。
維新支持層に留まらず、全体でもトップの期待度だった吉村氏は、各党支持層から満遍なく期待を集めている点が特徴だ。
野党第一党争いで激しく競い合う立憲の支持層でも、31%が吉村氏に期待すると答えている。衆院選で勢力拡大を図る今の維新にとって、吉村氏の高い知名度や期待度が大きな武器となることは間違いない。
今回の調査で、吉村氏同様に所属政党の支持層を超える期待を集めたのは、国民民主党の玉木雄一郎代表とれいわ新選組の山本太郎代表だ。2人は、野党政治家の中では吉村氏に次ぐ2位、3位の期待度だった。
この2人に共通するのは、他党支持層以前に所属政党の支持層からかなり強い期待を集めていることだ。玉木氏については、国民民主党支持層の77%が期待すると答えている。「大いに期待する」に絞っても、なお41%に上る。そして、山本氏に至ってはれいわ新選組支持層の90%が期待すると回答した。「大いに期待する」に絞っても57%に達する。2人とも、所属政党の支持層から党の「創業者」ならではの強い期待を背負っていると言えそうだ。
その点、共産党の志位和夫委員長は共産党支持層で77%の期待度があるが、他党では立憲、社民支持層で3割前後の期待度を得るに留まっており、その他の政党支持層や無党派からの期待度は限定的だ。
こうした「党首力」の差が、次期総選挙における野党同士の連携や競争の結果に影響するかもしれない。
調査の概要
・対象:日本国内の20歳以上の男女3,334人
・調査方法:大手リサーチ会社に登録したモニターを対象にインターネットで実施。世代差を分析するため、20代、30代、40代、50代、60代、70代以上で均等になるよう回収した。
・回答期間:2023年8月17日〜18日