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歌手藤圭子さん(宇多田ヒカルさんの母親)自殺報道から考える自殺予防

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
とても残念です。素晴らしい歌手であり、魅力的な人でした。(gagilas)

■宇多田ヒカルさんの母 藤圭子さん自殺報道

22日午前7時ごろ、東京都新宿区西新宿のマンション前の路上で、歌手の藤圭子さん(62)があおむけの状態で倒れているのが見つかった。警視庁新宿署によると、藤さんは病院に搬送されたが、頭などを強く打っており間もなく死亡した。

マンション13階の一室に藤さんの知人の30代男性が住んでおり、ベランダにスリッパの片側が落ちていたことなどから、同署は藤さんが男性宅を訪れていて飛び降り自殺したとみて、詳しい経緯を調べている。遺書などは見つかっていないという。

出典:歌手の藤圭子さん自殺か マンションから転落死 Y!産経新聞 8月22日(木)12時17分配信

■藤圭子さん

昭和の歌姫でした。1970年の「圭子の夢は夜ひらく」の印象は強烈です。10週連続1位を獲得77万枚売上げる大ヒットでした。小学生だった私も、♪「15、16、17と私の人生暗かった」と意味も分からず歌っていました。

他の華やかな歌手とは違う、ドスのきいたハスキーボイス、ストイックな生き方を感じさせる魅惑的な表情が魅力的でした。

その後、1979年に突然の引退声明、アメリカへ渡ります。若い世代にとっては、歌手宇多田ヒカルさんの母親として有名でしょう。

今日、8月22日、マンション敷地内で死亡しているのが発見されました。マンションからの飛び降り自殺かと報道されています。動機については、現段階では全く報道されていません。

ご冥福をお祈りいたします。

■藤圭子さん自殺報道

テレビ、新聞のネットニュースで、次々と第一報が報道されています。ネット掲示板でもスレットが立ち上がり、投稿が続いています。おそらく、テレビのスタッフやレポーター、芸能ニュース記者は、現地に向かって走っていることでしょう。

過去の映像を集め、最近の様子を話してくれる人を求め、電話を駆け回っていることでしょう。

昼間のテレビを見たり、スポーツ新聞を買う世代にとっては、とても印象深い歌手ですから、明日の番組、紙面では、多くの時間、スペースが割かれることでしょう。

■自殺報道と自殺連鎖

心理学自殺予防の研究によれば、自殺は連鎖します。大きな自殺報道、センセーショナルな自殺報道の後は、自殺が増えます。あるいは事故死が増えたりします。

不用意な報道を行うと、自殺報道に影響を受けて、自殺を考える人が増えてしまいます。

また、私の知人はこんなことを言っていました。「自殺を考えていたとき、毎日バイパス道路を車で走りながら、あの壁に衝突しようか、この壁にぶつかろうかと思いながら、運転していた」。この人が、実際に壁に激突して亡くなれば、交通事故死扱いですが、実は心の中で自殺への思いがあったことになります。

このような心の動きがあるために、大きな自殺報道の後には事故死が増えることがあるのです。

■自殺報道で注意すべきこと

  • 自殺の具体的方法や手段等を詳細に報じることは控える。

  • 自殺現場を繰り返し映したり、不用意に遺書を公開したりしない。

  • 自殺を美化もしくは正当化するような報道はしない。

  • 自殺した人を責めない。

  • 自殺を単純な因果関係(いじめ自殺、リストラ自殺など)で報道しない。

  • 必要以上にセンセーショナルな報道の仕方をしない。

  • 大きな自殺報道をする際には、自殺予防に関する報道も加える。

自殺方法の詳細報道は、まねをする人を生みます。潔い死とか、死んで問題が解決したといった報道は、同じ悩みの人を死に導きます。また、自殺された方を責めてしまうと、同じ問題を抱えて人の心をさらに追い詰めます。

報道は必要です。しかし同時に、報道が悪影響を与えないような配慮も必要ではないでしょうか。まだまだ可能性があり、希望があるはずの人を、死に導いてはいけません。

■有名人の自殺報道

特に有名人の自殺は、影響力が大きいですから、特段の注意が必要です。WHO(世界保健機関)は、次のように注意を促しています。

「特に有名人が関係している場合は、センセーショナルな報道は徹底して避けるべきである。記事は可能な限り小さくすること。その有名人が持っていたかもしれない、あらゆる精神衛生上の問題を認めねばならない。誇張を避けるために、あらゆる努力を払うこと。故人や、自殺の方法、自殺の光景の写真は公表しない。第一面のヘッドラインは、自殺報道のための絶好の位置では決してない。」

■マスコミ人関係者と市民のみなさんにお願いしたいこと

藤圭子さんはすばらし歌手でしたから、亡くなられて、功績を忍ぶことは悪いことではないと思います。しかし、必要以上に自殺に焦点をあてることは、注意しなくてはなりません。

私は、多くのマスメディアの方とも話しをします。私が思うに、ほとんどのメディアの方は、視聴率や販売数のことを考えつつも、同時に世のため人のための仕事がしたいと願っている方々です。

それなのに、大きな自殺報道(長い時間の放送、大きな紙面)に、ほんの少しの自殺予防情報を加えないことが多々あります。

報道関係者には、上記の配慮を希望しますが、同時に視聴者読者の私たちが、その配慮が当然だと考えたいと思います。メディアは、視聴者読者スポンサーを大切にするのですから。

■宇多田ヒカルさんをはじめ、自死遺族の方へ

家族の死は辛いものです。ましてや、自死など特別な死別の辛さは、他人には分からないほどでしょう。自殺予防の情報ですら、自死遺族は辛い思いをしています。さらに、有名人の場合は大きく報道されてしまいます。報道されたくないことまで報道されてしまいます。遺族にも取材がやってきます。

葬儀には、関係者が大勢やってきます。遺族の中に芸能関係者がいれば、しっかりと対応しなければなりません。悲しむ余裕すらありません。

有名人として、取材に応じる義務があるかもしれません。それと同時に、一人の自死遺族として、守られなければなりません。

自死ではありませんが、歌手の安室奈美恵さんは、母親を殺害された殺人事件の被害者遺族です。当時、安室奈美恵さんは気丈に対応をされていて、さすがにりっぱだと報道されていましたが、その後もとの元気を取り戻すのには、時間がかかっています。

がんばっている人ほど、みんなで守る必要があるのです。

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いのちの電話

NPO法人 国際ビフレンダーズ東京自殺防止センター

自殺予防総合対策センター

自殺と自殺予防の心理学(こころの散歩道)

ウクレレ漫談家の牧伸二さん自殺報道から考える自殺予防:Yahoo!「心理学でお散歩」

漫画家佐渡川準さん自殺報道:自殺連鎖と夏休みの子ども自殺予防:Yahoo!「心理学でお散歩」

自殺は不名誉ではない:世界自殺予防デー・自殺予防週間に考える私たちにとっての自殺問題:Yahoo!「心理学でお散歩」

『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』 碓井真史著

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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