歌手藤圭子さん(宇多田ヒカルさんの母親)自殺報道から考える自殺予防
■宇多田ヒカルさんの母 藤圭子さん自殺報道
■藤圭子さん
昭和の歌姫でした。1970年の「圭子の夢は夜ひらく」の印象は強烈です。10週連続1位を獲得77万枚売上げる大ヒットでした。小学生だった私も、♪「15、16、17と私の人生暗かった」と意味も分からず歌っていました。
他の華やかな歌手とは違う、ドスのきいたハスキーボイス、ストイックな生き方を感じさせる魅惑的な表情が魅力的でした。
その後、1979年に突然の引退声明、アメリカへ渡ります。若い世代にとっては、歌手宇多田ヒカルさんの母親として有名でしょう。
今日、8月22日、マンション敷地内で死亡しているのが発見されました。マンションからの飛び降り自殺かと報道されています。動機については、現段階では全く報道されていません。
ご冥福をお祈りいたします。
■藤圭子さん自殺報道
テレビ、新聞のネットニュースで、次々と第一報が報道されています。ネット掲示板でもスレットが立ち上がり、投稿が続いています。おそらく、テレビのスタッフやレポーター、芸能ニュース記者は、現地に向かって走っていることでしょう。
過去の映像を集め、最近の様子を話してくれる人を求め、電話を駆け回っていることでしょう。
昼間のテレビを見たり、スポーツ新聞を買う世代にとっては、とても印象深い歌手ですから、明日の番組、紙面では、多くの時間、スペースが割かれることでしょう。
■自殺報道と自殺連鎖
心理学の自殺予防の研究によれば、自殺は連鎖します。大きな自殺報道、センセーショナルな自殺報道の後は、自殺が増えます。あるいは事故死が増えたりします。
不用意な報道を行うと、自殺報道に影響を受けて、自殺を考える人が増えてしまいます。
また、私の知人はこんなことを言っていました。「自殺を考えていたとき、毎日バイパス道路を車で走りながら、あの壁に衝突しようか、この壁にぶつかろうかと思いながら、運転していた」。この人が、実際に壁に激突して亡くなれば、交通事故死扱いですが、実は心の中で自殺への思いがあったことになります。
このような心の動きがあるために、大きな自殺報道の後には事故死が増えることがあるのです。
■自殺報道で注意すべきこと
- 自殺の具体的方法や手段等を詳細に報じることは控える。
- 自殺現場を繰り返し映したり、不用意に遺書を公開したりしない。
- 自殺を美化もしくは正当化するような報道はしない。
- 自殺した人を責めない。
- 自殺を単純な因果関係(いじめ自殺、リストラ自殺など)で報道しない。
- 必要以上にセンセーショナルな報道の仕方をしない。
- 大きな自殺報道をする際には、自殺予防に関する報道も加える。
自殺方法の詳細報道は、まねをする人を生みます。潔い死とか、死んで問題が解決したといった報道は、同じ悩みの人を死に導きます。また、自殺された方を責めてしまうと、同じ問題を抱えて人の心をさらに追い詰めます。
報道は必要です。しかし同時に、報道が悪影響を与えないような配慮も必要ではないでしょうか。まだまだ可能性があり、希望があるはずの人を、死に導いてはいけません。
■有名人の自殺報道
特に有名人の自殺は、影響力が大きいですから、特段の注意が必要です。WHO(世界保健機関)は、次のように注意を促しています。
「特に有名人が関係している場合は、センセーショナルな報道は徹底して避けるべきである。記事は可能な限り小さくすること。その有名人が持っていたかもしれない、あらゆる精神衛生上の問題を認めねばならない。誇張を避けるために、あらゆる努力を払うこと。故人や、自殺の方法、自殺の光景の写真は公表しない。第一面のヘッドラインは、自殺報道のための絶好の位置では決してない。」
■マスコミ人関係者と市民のみなさんにお願いしたいこと
藤圭子さんはすばらし歌手でしたから、亡くなられて、功績を忍ぶことは悪いことではないと思います。しかし、必要以上に自殺に焦点をあてることは、注意しなくてはなりません。
私は、多くのマスメディアの方とも話しをします。私が思うに、ほとんどのメディアの方は、視聴率や販売数のことを考えつつも、同時に世のため人のための仕事がしたいと願っている方々です。
それなのに、大きな自殺報道(長い時間の放送、大きな紙面)に、ほんの少しの自殺予防情報を加えないことが多々あります。
報道関係者には、上記の配慮を希望しますが、同時に視聴者読者の私たちが、その配慮が当然だと考えたいと思います。メディアは、視聴者読者スポンサーを大切にするのですから。
■宇多田ヒカルさんをはじめ、自死遺族の方へ
家族の死は辛いものです。ましてや、自死など特別な死別の辛さは、他人には分からないほどでしょう。自殺予防の情報ですら、自死遺族は辛い思いをしています。さらに、有名人の場合は大きく報道されてしまいます。報道されたくないことまで報道されてしまいます。遺族にも取材がやってきます。
葬儀には、関係者が大勢やってきます。遺族の中に芸能関係者がいれば、しっかりと対応しなければなりません。悲しむ余裕すらありません。
有名人として、取材に応じる義務があるかもしれません。それと同時に、一人の自死遺族として、守られなければなりません。
自死ではありませんが、歌手の安室奈美恵さんは、母親を殺害された殺人事件の被害者遺族です。当時、安室奈美恵さんは気丈に対応をされていて、さすがにりっぱだと報道されていましたが、その後もとの元気を取り戻すのには、時間がかかっています。
がんばっている人ほど、みんなで守る必要があるのです。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ウクレレ漫談家の牧伸二さん自殺報道から考える自殺予防:Yahoo!「心理学でお散歩」
漫画家佐渡川準さん自殺報道:自殺連鎖と夏休みの子ども自殺予防:Yahoo!「心理学でお散歩」
自殺は不名誉ではない:世界自殺予防デー・自殺予防週間に考える私たちにとっての自殺問題:Yahoo!「心理学でお散歩」
『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』 碓井真史著