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<ガンバ大阪・定期便46>我らがキャプテン、倉田秋に牽引されて戦い抜いた激動の2022シーズン。

高村美砂フリーランス・スポーツライター
どんな時も変わらず、キャプテンとしての姿を示し続けた。写真提供/ガンバ大阪

■久しぶりの先発出場。「みんながいい笑顔で終われてホッとしています」

「めっちゃ楽しかった」

 11月19日のプレシーズンマッチ、アイントラハト・フランクフルト戦を戦い終え、ミックスゾーンに出てきた倉田秋は開口一番、そう言って笑顔を覗かせた。

「45分で交代することは最初から決まっていたので、その時間をやりきろう、楽しもうと思っていました。点は入らなかったけどいい形は作れていたし、今シーズン最後の試合でチームが勝って終われたのもよかったです。個人的には久しぶりの先発でしたが、とにかく全力で戦うことと、勝つことだけを考えて純粋に楽しもうと思っていました。チームとしても個人としても苦しいシーズンでしたけど最後、みんながいい笑顔で終われてホッとしています」

 彼にとって先発のピッチは、7月30日のJ1リーグ・京都サンガF.C.戦以来、約3ヶ月半ぶり。近年はコンスタントに先発出場を続けながらチームを牽引してきたことや、今シーズンは初めてキャプテンを任されていたことを思えば、彼がその事実にどれほど悔しさを募らせていたのかは容易に想像できる。肉離れで1ヶ月半ほど戦列を離れた時期もあったとはいえ復帰後は、順調にコンディションを高めていたと考えれば尚更だろう。それでも一切の不満を漏らすことなく、先頭に立って戦い続けた。

「試合には出ることができていないけど、毎日、サッカーは楽しくやっています。もちろん、サッカー選手としての1番の楽しみは公式戦のピッチで活躍することやけど、選ぶのは監督で、僕ら選手は選ばれる側やから。選ばれる選手になるために、普段の練習から精一杯、やり続けるのはプロとして当たり前だし、これまでもそうやって戦い続けることを諦めなかったから今がある。だからこそ、試合に出られなくなったからといって自分の気持ちを傾かせるようなことは絶対にしたくない。正直に言うと、一時期は感情のコントロールがうまくいかず、練習では普通に振る舞っていても家に帰ったら落ち込んだり、どうしたらわからず考え込んだりしたこともあります。でも、そういう気持ちでいるうちは自分では出していないつもりでも、どこかできっと態度やプレーに出てしまうはずだし、それは自分にとってもチームにとってもプラスじゃない。そう考え直してからは、今、できることを精一杯することだけに気持ちを向けられるようになった。というか、それをできないようでは、この先プロとしてやっていけないと思うので。だからこそ、どんな状況に置かれても、真っ直ぐにサッカーに向き合って、自分の精一杯で目の前に出ることだけに気持ちを注ごうと思っているし、それが今はできている実感があるから、変わらずサッカーを楽しめているんだと思う」

■仲間が絶賛し、信頼を寄せた、倉田秋のキャプテンシー。

 そんな話を聞いたのはリーグ戦も佳境に突入した30節・ヴィッセル神戸戦後のこと。結果的にこの試合を最後に、倉田は控えメンバーからも遠ざかることになったが、彼がその覚悟を失うことなく戦い続けていたことは、リーグ終盤、いろんなチームメイトから倉田の名前が繰り返し聞こえてきたことからも明白だった。

「この終盤戦はメンバーも固定されつつある中で僕自身、試合に出られない、チームの力になれない状況には悔しさしかないです。でも、そのことに気持ちを持っていかれてプレーがおろそかになるとか、チームにマイナスの影響になるようなことは絶対にあってはいけないと思う。それを、秋くんがずっと背中で見せてくれているというか。秋くんだってきっと複雑な気持ちでいるはずやけど、一切そんなことは感じさせずに明るく振る舞っているし、試合に出られない僕らにも目を配って声を掛けてくれる。そんな秋くんを見ているから僕もやらなアカンって気持ちになる。それはきっと僕だけじゃないと思いますよ。秋くんの姿を見て何も感じていない選手はいないはずです(10月6日/奥野耕平)」

「柏レイソル戦から秋くん(倉田)の代わりにキャプテンマークをつけさせてもらっている以上、自分が全責任を負う覚悟でピッチに立っています。ただ、試合のメンバーが発表されるたびに秋くんにも『預かっているだけですから』と伝えてある通り、あくまでガンバのキャプテンは秋くんなので。試合前日にメンバーが発表されて、そこに自分の名前がなくても、態度はもちろん顔色ひとつ変えずにチームメイトみんなに声をかけて回っている姿も僕は秋くんのキャプテンシーだと受け止めている。選手である以上、試合に出られないとなれば悔しさもあって当然やし、秋くんが胸の中で抱えているものも…僕には計り知れない、いろんな思いがあるはずやけど、そんなことは一切見せずに日々のトレーニングに全力で取り組んで、仲間に声をかけながら戦い続けている姿にはリスペクトしかない。であればこそ、秋くんを降格したシーズンのキャプテンにするわけにはいかない。絶対にJ1に残留して最後は『厳しいシーズンやったけど、秋くんを中心に戦い抜けたよね』と言えるシーズンにするのが自分の責任やと思う(10月14日/宇佐美貴史)」

「どんな時も、一番頑張って、誰よりも周りに声を掛けているのが秋くん。メンバーに入っても入らなくても、一切何も変わらないし、練習でも絶対に手を抜かない。その姿勢にどれだけの選手が励まされてきたか。この終盤戦はメンバーにすら入れていない状況が続いていますけど、ピッチにいなくても、いつも僕らは秋くんとともに戦ってきたし、秋くんに支えられ、牽引されてきた。そう言い切れるくらい普段の練習から秋くんのキャプテンシーを感じているし、その心強さが厳しい終盤戦を戦う力にもなっています(10月15日/昌子源)」

「自分が置かれている状況に関係なく、常にチームのことを考えて、気持ちを切らさずに練習に取り組んだり、試合前には声を掛けてくれたり。試合に出られない悔しさは絶対にあるはずなのに、それを表に出さず、常にチームのことを考えて行動してくれている。本当にリスペクトしかないです。今シーズン、宇佐美(貴史)くんもピッチにいない時は僕がキャプテンマークを巻かせてもらっていたけど、いつも心のどこかで秋くんがキャプテンでいてくれる心強さを感じていたし、副キャプテンとしてキャプテンを支えるという意味でも、常に秋くんのために自分のできることをやろうという思いでピッチに立ってきた。試合に出ても出ていなくても僕らのキャプテンは秋くん。最終戦もメンバーはまだどうなるかわかりませんが、秋くんのもと全員で戦いたいと思います(11月1日/三浦弦太)」

■どんな時もチームのために。ホーム最終戦での挨拶に込めた思い。

 そういえば、J1リーグ33節・ジュビロ磐田戦後の『ホーム最終戦セレモニー』でも倉田のキャプテンシーに触れた一幕があった。この試合も彼はメンバーに入ることはできなかったが、チームを代表して挨拶に立つと、力強い言葉を響かせた。

「今シーズンもコロナ禍の中たくさんの応援、本当にありがとうございました。皆様のサポートのおかげでここまで戦ってくることができました。しかし、まだ今シーズンの大事な試合が残っています。僕たちは1つになって、全てを懸けて、残留に向けて戦います。なので、皆さんの力を貸してください。お願いします。これからガンバ大阪が本当に強いチームになるためには、皆さんの力が絶対に必要です。ガンバ大阪が強いチームになるため、そして皆さんの幸せ、笑顔を見るために僕たちは毎日努力して、必死に戦い続けます。これからも一緒に戦い続けてください。今シーズンも応援ありがとうございました。これからもガンバ大阪をよろしくお願いします」

ホーム最終戦セレモニーでは一言一句噛み締めるように、力強い言葉で気持ちを伝えた。写真提供/ガンバ大阪
ホーム最終戦セレモニーでは一言一句噛み締めるように、力強い言葉で気持ちを伝えた。写真提供/ガンバ大阪

 聞けば、もともと考えていた挨拶は少し違った内容だったそうだが「せっかく今日はいい形で勝ったので、最終戦に向けて、より勢いづくような、サポーターの皆さんも含めてみんなが1つになれるような言葉を伝えたいと思って直前で変えました」と倉田。そこにも彼なりの思いを込めていた。

「今シーズンの始めにキャプテンにしてもらった時に、何が何でもその責任を全うすると決めたので。それに、僕はガンバのことも、チームメイトのことも大好きだからこそ、絶対にこのチームをJ1に残留させるためにも、少しでもチームの力になれることを見つけて、それを最後までやり切りたい。ここまで、そう思って過ごしてきたことが自分の力にもなっているという実感もありますしね。というのも、試合にずっと出ていた時は、どうしたらチームは勝てるのか、ということばかり考えていて、自分に矢印を向ける時間が本当に少なかったですから。でも、今はいいのか悪いのかわからないけど、自分と向き合える時間もできたので。その時間を使って本を読んだり、いろんな人の話を聞いたりすることで、気持ちの部分にもいろんな刺激を受け、強くもなれた。仮に去年のままの自分だったら…今日のセレモニーでの挨拶も貴史(宇佐美)あたりに託して逃げていた気がする(笑)。でも、そうやって自分に目を向けることで気づいて、変われた部分もあったから今日も胸を張って挨拶ができたんやと思っています」

 セレモニー後には「サポーターの皆さんに新たなパワーをもらえました」と話していたのも印象的だ。磐田戦は、声出し応援の対象試合だったことから、久しぶりにホームで自身のチャントを聞くことができた。

「あれを聞いたときに自分の中でブワッとアドレナリンが出てきたというか。やっぱりこれを公式戦のピッチで聞きたいと強く思ったことは、この先の自分にもつながると思う。うまく言えないけど…なんやろ、ガンバの一員でよかったなって思えた瞬間でもありました」

どんな時もチーム全体に目を配り、仲間に心を寄せ、先頭に立ち続けた。写真提供/ガンバ大阪
どんな時もチーム全体に目を配り、仲間に心を寄せ、先頭に立ち続けた。写真提供/ガンバ大阪

 それは冒頭に書いたフランクフルト戦も然りで、キャプテンマークを巻いてピッチに入場し、サポーターの声を聞きながらプレーした45分間は、来シーズンに向かう力になったと振り返った。

「今日は、このチームで戦える最後の試合。だからこそ試合前には、一生記憶に残るような試合にしようと話していた。最後、いい形で勝つことができたし、(退団が決まっている)康介(小野瀬)や大智(加藤)のこともサポーターのみんながいい雰囲気で送り出してくれて忘れられない試合になった。個人的にも、あ〜もっと試合をしたい、サッカーをやりたいという感情にもなったので、それをまた来シーズン、挑戦するためのパワーにしたい」

 ガンバにとっても、彼自身にとっても、たくさんの悔しさとともに歩みを進めてきた2022シーズン。その中で掴み取ったJ1残留の中心には、紛れもなくキャプテン・倉田秋の姿があった。

フリーランス・スポーツライター

雑誌社勤務を経て、98年よりフリーライターに。現在は、関西サッカー界を中心に活動する。ガンバ大阪やヴィッセル神戸の取材がメイン。著書『ガンバ大阪30年のものがたり』。

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