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緊急事態宣言の再発出で現状判断DIはさらに下落…2021年1月景気ウォッチャー調査の実情をさぐる

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
↑ 緊急事態宣言の再発出で経済活動の制限が強化。心理的影響も大きい。(写真:アフロ)

現状は下落、先行きは上昇

内閣府は2021年2月8日付で2021年1月時点における景気動向の調査「景気ウォッチャー調査」(※)の結果を発表した。その内容によれば現状判断DI(※)は前回月比で下落、先行き判断DIは上昇した。結果報告書によると基調判断は「景気は、新型コロナウイルス感染症の影響により、このところ弱まっている。先行きについては、感染症の動向に対する懸念がみられる」と示された。

2021年1月分の調査結果をまとめると次の通り。

・現状判断DIは前回月比マイナス3.1ポイントの31.2。

 →原数値では「やや悪くなっている」「悪くなっている」が増加、「よくなっている」「ややよくなっている」「変わらない」が減少。原数値DIは30.1。

 →詳細項目は「住宅関連」以外の項目が下落。「小売関連」のマイナス5.2ポイントが最大の下げ幅。基準値の50.0を超えている詳細項目は皆無。

・先行き判断DIは前回月比でプラス3.8ポイントの39.9。

 →原数値では「よくなる」「ややよくなる」「変わらない」が増加、「やや悪くなる」「悪くなる」が減少。原数値DIは41.5。

 →詳細項目はすべてが上昇。「製造業」のプラス1.3ポイントが最小の上げ幅。基準値の50.0を超えている項目は皆無。

現状判断DI・先行き判断DIの推移は次の通り。

↑ 景気の現状判断DI(全体)
↑ 景気の現状判断DI(全体)

↑ 景気の先行き判断DI(全体)
↑ 景気の先行き判断DI(全体)

現状判断DIは昨今では海外情勢や消費税率引き上げによる景況感の悪化を受け、基準値の50.0以下を示して低迷中だった。2020年10月では新型コロナウイルスの流行による落ち込みから持ち直しを続け、ついに基準値を超える値を示したものの、流行第三波の影響を受けて11月では再び失速し基準値割れし、以降今回月も含めて下落を継続中。

先行き判断DIは海外情勢や消費税率引き上げによる景況感の悪化から、昨今では急速に下落していたが、2019年10月以降は消費税率引き上げ後の景況感の悪化からの立ち直りが早期に生じるとの思惑を持つ人の多さにより、前回月比でプラスを示していた。もっとも12月は前回月比でわずかながらもマイナスとなり、早くも失速。2020年2月以降は新型コロナウイルスの影響拡大懸念で大きく下落し、4月を底に5月では大きく持ち直したものの、6月では新型コロナウイルスの感染再拡大の懸念から再び下落、7月以降は持ち直しを見せて10月では基準値までもう少しのところまで戻していた。ところが現状判断DI同様に11月は大きく下落。12月以降は上昇に転じているがその歩みは遅く、基準値まではまだ遠い。

DIの動きの中身

次に、現状・先行きそれぞれのDIについて、その状況を確認していく。まずは現状判断DI。

↑ 景気の現状判断DI(~2021年1月)(景気ウォッチャー調査報告書より抜粋)
↑ 景気の現状判断DI(~2021年1月)(景気ウォッチャー調査報告書より抜粋)

昨今では新型コロナウイルスの影響による景況感の悪化からの回復期待で少しずつ盛り返しを示していたが、2020年11月以降は流行の第三波到来が数字の上で明確化されるに従い景況感は大幅に悪化。今回月の2021年1月も「住宅関連」以外の全詳細項目で前回月比でマイナスとなった。

なお今回月で基準値を超えている現状判断DIの詳細項目は皆無。2020年10月時点では5項目もあったのだが。

続いて先行き判断DI。

↑ 景気の先行き判断DI(~2021年1月)(景気ウォッチャー調査報告書より抜粋)
↑ 景気の先行き判断DI(~2021年1月)(景気ウォッチャー調査報告書より抜粋)

今回月で基準値を超えている先行き判断DIの詳細項目は皆無。全項目で前月比にて上昇しているが、2020年11月に生じた大幅下落からの反動が12月同様に続いている程度の勢いでしかない。

緊急事態宣言の再発出が大きな影響

報告書では現状・先行きそれぞれの景気判断を行うにあたって用いられた、その判断理由の詳細内容「景気判断理由の概況」も全国での統括的な内容、そして地域ごとに細分化した内容を公開している。その中から、世間一般で一番身近な項目となる「全国」に関して、現状と先行きの家計動向に関する事例を抽出し、その内容についてチェックを入れる。

・寒さのお陰で暖房商品の売行きが好調である。白物家電を中心に単価が高くなっていて、黒物家電も前年並みである。よって、前年よりも少し好調である(家電量販店)。

・緊急事態宣言の発出以降、午前中と18時以降の来客数が大きく減少している。月全体でも来客数は前年の約40%となっている(百貨店)。

・当地区は時間短縮営業の要請があり営業時間は22時までだが、実際は21時頃に営業を終えているので、来客数は通常よりも激減している(一般レストラン)。

・再度の緊急事態宣言の影響で、特に夜の人出がないためタクシー利用がなく、当社では夜間の営業を中止している。昼間は通勤に利用する程度で、例年の半分ほどである(タクシー運転手)。

■先行き

・新型コロナウイルス感染者数が大きく減少し、緊急事態宣言期間が終了すれば、来客数が少しずつ回復する。また、ワクチン接種がスタートすれば景気には追い風になる(百貨店)。

・今後も新型コロナウイルスに対する警戒が続き、内食需要は高い水準を維持する(スーパー)。

・外出自粛が影響し、新しい衣料品を購入することも減少するため、客の動きが悪い状態が続く(衣料品専門店)。

・緊急事態宣言の解除が見込めず、2~3月の学生団体などにキャンセルが出始めている。観光客の回復につながる要件も全く見当たらない(テーマパーク)。

新型コロナウイルス流行第三波の影響拡大と緊急事態宣言の再発出で、景況感の足かせがより重たいものとなったことがうかがえる。また、早期の事態収束は難しいとの判断から、春先の予定をキャンセルする動きも出始めている。他方、緊急事態宣言の終了やワクチン接種による好影響を期待する声も確認できる。

一方で内食需要の堅調さは今後も維持されるだろうとの観測もあり、興味深い。

企業動向でも新型コロナウイルス流行の影響が多々見受けられる。

■現状

・一部の客は新型コロナウイルスの影響を受けて出荷数量の減少が続いているが、全体的には回復傾向にあり、特に海運関係の客は前年同時期の出荷数量を上回っている(輸送業)。

・年が明けても家庭消費向けの市販用は引き続き好調だが、2度目の緊急事態宣言の影響か、外食向けを中心に業務用が大幅に前年割れで推移している(食料品製造業)。

■先行き

・少しずつではあるが、止まっていた北米自動車向け設備投資計画も動き始めた(一般機械器具製造業)。

・すべては新型コロナウイルスの終息にかかっている。出勤率を抑えているテナントのほか、業績の悪化により事務所を解約したいと申し出るテナントが出てきそうで、この先の見通しは暗い(不動産業)。

企業動向もまた新型コロナウイルスの終息、ワクチン接種状況頼みなのが実情。他方、家庭消費向け、つまり内食の堅調さは企業動向からも確認できる。

雇用関連でも新型コロナウイルスの影響がうかがえる。

■現状

・新型コロナウイルスの影響により、周辺企業の求人は大きく減少している。介護、福祉業界では、現在でも募集広告を掲載している企業はある(求人情報誌製作会社)。

■先行き

・自動車関連の製造は求人の改善が見受けられるが、卸売や小売、飲食、宿泊業の求人が抑制されているため、景気全体としては変わらない(職業安定所)。

雇用市場は景況感を先読みする傾向があるため、現状において「周辺企業の求人は大きく減少している」との表現があるのは大いに懸念すべきもの。他方、現状・先行きともに、調子のよい業種とそうでない業種が明確化しているのは注目に値する。

今件のコメントで消費税率引き上げに関するコメントを「消費税」のキーワードで確認すると、現状のコメントで7件(前回月7件)、先行きのコメントで1件(前回月1件)の言及がある。新型コロナウイルスの第三波の影響が気になり、消費税の話など二の次になっている感はある。

他方新型コロナウイルスに関しては現状で602件(前回月620件)、先行きで917件(前回月931件)。凄まじいまでの言及数で、消費税率の引き上げも米中貿易摩擦もすべて吹き飛んでしまった状態。特に流行第三波到来と緊急事態宣言の発出で、足元に火がついている人が増えている。一方で「ワクチン」に関しては現状で7件、先行きで113件の言及があり、今後の状況好転の鍵として大いに期待されている感はある。

リーマンショックや東日本大震災の時以上に景況感の足を引っ張る形となった新型コロナウイルスだが、結局のところ警戒すべき流行の終息とならない限り、経済そのもの、そして景況感に大きな足かせとなるのには違いない。恐らくは通常のインフルエンザと同等の扱われ方がされるレベルの環境に落ち着くのが終息点として判断されるのだろう。あるいは社会様式そのものを大きく変えたまま、強引な形で終息という様式を取ることになるかもしれない。世界的な規模の疫病なだけに、一刻も早い事態の終息を願いたいものだが。

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※景気ウォッチャー調査

※DI

内閣府が毎月発表している、毎月月末に調査が行われ、翌月に統計値や各種分析が発表される、日本全体および地域毎の景気動向を的確・迅速に把握するための調査。北海道、東北、北関東、南関東、甲信越、東海、北陸、近畿、中国、四国、九州、沖縄の12地域を対象とし、経済活動の動向を敏感に反映する傾向が強い業種などから2050人を選定し、調査の対象としている。分析と解説には主にDI(diffusion index・景気動向指数。3か月前との比較を用いて指数的に計算される。50%が「悪化」「回復」の境目・基準値で、例えば全員が「(3か月前と比べて)回復している」と答えれば100%、全員が「悪化」と答えれば0%となる。本文中に用いられている値は原則として、季節動向の修正が加えられた季節調整済みの値である)が用いられている。現場の声を反映しているため、市場心理・マインドが確認しやすい統計である。

(注)本文中のグラフや図表は特記事項の無い限り、記述されている資料からの引用、または資料を基に筆者が作成したものです。

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(注)グラフ中の「ppt」とは%ポイントを意味します。

(注)「(大)震災」は特記や詳細表記の無い限り、東日本大震災を意味します。

(注)今記事は【ガベージニュース】に掲載した記事に一部加筆・変更をしたものです。

「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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