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フォロワーは8万人超!名古屋で人気の「おいなごちゃん」“中の人”にインタビュー

大竹敏之名古屋ネタライター
「名古屋においでよ」とTwitterで呼び続ける“おいなごちゃん”

意外!おいなごちゃんは名古屋人ではなかった…!

Twitterの人気アカウント、「おいでよ名古屋」通称“おいなごちゃん”。グルメにイベント、カルチャーなど名古屋に関するあらゆる情報を「名古屋においでよ」のフレーズとともに日々つぶやいています。フォロワー数は実に8・4万人(2019年10月現在)。名古屋関連の情報では最も多く見られているアカウントです。ちなみに某出版社によると、書籍の企画を通す際の目安が“フォロワー数8万人”なのだそうです。

おいなごちゃんはいかにして生まれ、どうやって情報をキャッチ&リリースし、どのような展望を見すえているのか? “中の人”にインタビューしました。

Twitterの「おいでよ名古屋」トップページ
Twitterの「おいでよ名古屋」トップページ

-- 「おいでよ名古屋」は2016年1月開設。意外やまだ4年足らずなのですね。

おいなご  「はい。実は私は大阪出身で、名古屋に来たのは2015年の秋なんです」

-- 名古屋人ではないとは意外です。どうして名古屋へ?

おいなご  「それまで勤めていた会社の仕事が無茶苦茶忙しくて、自分の時間はないけど資格と貯金はあったので、一度会社を辞めて自分の知らない街に住んでみようと思ったんです。東京や福岡などいくつか候補はあったんですが、求人があって、故郷の大阪にも近くて、東京にも行きやすいということで名古屋を選びました」

名古屋には遊びに行く時に“使える”ネット情報がない!

-- どうして名古屋情報を発信するTwitterを始めることに?

おいなご  「大阪時代は携帯電話は会社から支給され、自分で持ったこともありませんでした。名古屋に来て初めて自分の携帯を持って、SNSでもやろうと思ったんですが、趣味が何もない。それじゃあ、つぶやくネタもないし誰とも友達になりようがない。学生時代にはゲームの攻略サイトを開設して閲覧数が結構あったので、またネットで何かやるなら同じくらい影響力があるものをやりたいという思いもありました。雇用保険がもらえていた3カ月の間に、まずは名古屋のことを知るためにあちこち遊びに行こう、と。ところが、ネットで名古屋市のことを調べようとしても、目的の情報になかなかたどり着けない。キーワードに『名古屋』を入れても、ヒットするのは名古屋市から離れた愛知県内のスポットだったり、何かイベントがないかと思っても個々の施設のHPを見るしかなくて、横断的に網羅したサイトがないんです。だったら自分がそれをやれば喜んでもらえるのではと考えました」

-- 名古屋は、ネットでの観光情報の発信がそんなに遅れていますか?

おいなご  「グルメ、スポット、イベントなどの情報を網羅し、検索性が高くて実際に観光に活用できるサイトはいまだにひとつもありません。これは全国の主要都市の中では非常に珍しい。観光客を誘致しようと考えている自治体にとっては死活問題だと思うんですけど、観光に頼る必要がない経済基盤があるから、そこまで力が入っていないのではないかと思います」

ツイートはうんちくに始まりグルメ、イベントと守備範囲を広げる

-- 自分がほしい名古屋の情報が見つからない。だったら自分がつくってやろう。それが「おいでよ名古屋」の原点というワケですね。どんなツイートから始めたんですか?

おいなご  「まずは方言だったり食べ物や観光施設のちょっとしたうんちくの文字だけのツイートを投稿していました。例えば『コアラの餌代は1000万円を超えるそうだよ』とか『鬼まんじゅうって独特の菓子があるよ』とか。あとは、名古屋城の近くに住んでいるので、たまにお城の写真を撮って投稿したり。続いて、フォローしてくれた飲食店に食べに行って写真をツイートするように。さらにイベントの情報は観光案内所のフライヤーを写真に撮って投稿するようにしました」

-- フォロワーは順調に増えていったんですか?

おいなご  「そうですね。最初は『名古屋』についての他の人のツイートを検索して『いいね』とかしていたんですけど、文化、飲食店、イベントなどいろんなジャンルの情報をツイートすることで、幅広い趣味嗜好の人に見てもらえて、それぞれの相乗効果でフォローしてくださる方が増えていきました」

1日平均30ツイート。最近バズったのは「怖い話」

最新のバズりツイートは東山動植物園に関する「怖い話」
最新のバズりツイートは東山動植物園に関する「怖い話」

-- これまでにバズったツイートはどんなものがありますか?

おいなご  「つい最近の『怖い話』は5・9万いいね&1・8万リツイートがつきました。『なんか怖い話して』で始まる小噺みたいなものです。Twitterユーザーは意味のない言葉遊びみたいなツイートが結構好きで、定型のフォーマットをアレンジした投稿が賞味期限1~2カ月の短いサイクルで流行ったりするんですね。有名な格言とかマンガの登場人物のセリフをもじったものとか。そういうのに乗っかったツイートは結構バズるし、名古屋には興味のなかったそのマンガのファンとかがフォロワーさんになってくれたりする効果もあるんです」

-- ツイートは1日何回くらい?

おいなご  「1か月850ツイートを目安としているので、1日30近くツイートしています。観光スポットや飲食店へ行って投稿する他、名古屋に関する特定のワードを検索して『いいね』を押すとか、文字だけのツイートは自動投稿ツールを活用しています。フォロワーさんを飽きさせないためには、頻度の高いツイートが必要です」

次々と変わるおいなごちゃんの萌えキャラ

おいなごちゃんのLINEスタンプもある
おいなごちゃんのLINEスタンプもある

-- おいなごちゃんのビジュアルはいわゆる萌えキャラですね。

おいなご  「『おいでよ名古屋』を始めた当時、結構多くの自治体に『おいでよ〇〇』は既にあったのですが、オリジナルのキャラクターをつくったのは私が最初だと思います。イラストはおいなごちゃんのファンの方が描いて送ってくれるので、それを随時採用しています。その人の抱いているおいなごちゃんのイメージで自由に描いてもらっているため、おいなごちゃんのビジュアルは固定されていないんです。イラストレーターさんのファンがおいなごちゃんを知るきっかけにもなりますし、やっぱり描いてもらえるとうれしいですね」

-- キャラクターを使った展開は?

おいなご  「飲食店においなごちゃんのイラストのポスターを貼ってもらっています。QRコードをつけておいなごちゃんのWebサイトに飛ばせるようになっていて、相互にPR効果があるものです。これもイラストは店によってすべて違うものにしています。おいなごちゃんのイラスト入りの缶飲料自販機もあり、ボタンを押すと何が出てくるか分からない謎缶になっています。ポスターは現在約30店舗、自販機は8台。他に回転ずしのお店でもおいなごちゃんのポップをお皿に乗せて回してもらっています。どれも、今まで行ったことがなかった店や場所へ行ってもらうきっかけにしてもらうことが狙いです」

回転寿司の「魚忠」でもおいなごちゃんが回っている。Twitterを見ると、これ見たさに店に足を運んでいるファンの投稿は少なくない。おいなごちゃんは飲食店の集客のマグネット役も果たしている
回転寿司の「魚忠」でもおいなごちゃんが回っている。Twitterを見ると、これ見たさに店に足を運んでいるファンの投稿は少なくない。おいなごちゃんは飲食店の集客のマグネット役も果たしている

名古屋弁は使わない!が一番のルール

-- ツイートの際に留意している点はありますか?

おいなご  「名古屋弁を使わないこと。名古屋ってゆるキャラがたくさんいる割には認知度は今ひとつ。その理由のひとつが、彼らが使う名古屋弁だと思っています。英語圏の人向けにパンフレットを作成する時、日本語では作りませんよね。届けたい相手が分かる言葉を使うのが常識です。名古屋以外の人に向けて発信するのに、名古屋弁では分かってもらえないと思うんです」

-- 私は名古屋めしに関するツイートで「うみゃ~ですよ」とつぶやいているので耳が痛いです。Twitterの他にYouTubeやインスタグラムも活用していますが、どのように使い分けているのでしょう?

おいなご  「メディアによって見ている人が異なるので、情報は同じでもいいと思っています。ただし、それぞれのメディアだからできることがある。YouTubeはTwitterに上げた写真にボイスをつけて紹介したりし、インスタはビジュアルのインパクトが必要なのでインスタ用に写真を撮ってアップしています。以前、東京で開催中止になった『ふともも写真の世界展』という企画からヒントを得て、主に市内の観光スポットを小さい子供の視点で、刺激的に撮影しています」

おいなごちゃんのインスタグラムはTwitterと違って刺激的な写真がいっぱい
おいなごちゃんのインスタグラムはTwitterと違って刺激的な写真がいっぱい

野望は、名古屋めしに取って代わる「名古屋名物」!

-- 今後、どのような展開を考えていますか?

おいなご  「Twitterとは別に、観光ルートプランを紹介するサイトをつくりたい。その際、ついでに立ち寄れる選択肢をたくさん用意して、ユーザーがそれぞれ趣味嗜好に合わせて満足度を高められるものにしたい。名古屋って、例えば名古屋城と名古屋港水族館のように主要な施設間の距離が長いので、その移動のついでに寄り道できる情報が必要なんです」

-- 将来的に「おいでよ名古屋」をどんな存在にしていきたいですか?

おいなご  「名古屋のことを調べようと思った時にこれを見れば概ね分かる、というものにしたい。もっといえば、おいなごちゃんを名古屋めしにも負けない名古屋名物にしたいと思っています」

-- すごい野望ですね!

「おいでよ名古屋」YouTubeチャンネル
「おいでよ名古屋」YouTubeチャンネル

名古屋市は“HPのない老舗の和菓子屋”と同じ

おいなご  「名古屋市はWeb上で観光情報がまとめられていない、と先ほど言いましたが、じゃあ観光コンテンツはないか?と言ったらすごくたくさんある。老舗の和菓子屋さんで“HPで発信すれば無茶苦茶流行るのにな”ってお店があるじゃないですか。名古屋市もまさにそういう状態だと思うんです。たくさんあるのにバラバラだったり埋もれてしまっている魅力をすくい上げて発信すれば大きく変えられると思います」

-- これまた耳が痛い。最後に下世話なことをお聞きしますが、おいなごちゃんはマネタイズできているんでしょうか?

おいなご  「一銭にもなっていません、というかしていません。原稿料が発生する依頼を受ける時もクリエイターさんにお渡ししています。有償でのタイアップの依頼とかもあるんですが、クリエイターさん以外への報酬はすべてお断りしています。お金をもらってPRする情報が混じっていると、そのサイトやアカウントの信頼性が下がってしまいます。あくまで中立の立場から情報を発信することでユーザーの信頼を得て、それによってトップシェアを得るアカウントでありたい。今後、自治体や企業が名古屋の情報サイトをつくろうと思った時に、『おいなごちゃんがあるからそっちを見ればいいや』と思ってもらえる存在にしたいんです。そうすれば、新しくサイトをつくるよりおいなごちゃんを買った方がいい、ということになる。細かくマネタイズするよりも、どうせなら莫大なお金がほしいんです。あくまで趣味なので、売るとは限りませんけど(笑)」

公式HP、かと思いきやファンサイト。おいなごちゃんがTwitterにアップした飲食店やスポットに住所などのデータをつけて紹介している
公式HP、かと思いきやファンサイト。おいなごちゃんがTwitterにアップした飲食店やスポットに住所などのデータをつけて紹介している

おいなごちゃんのファンサイト/Twitterの紹介店・スポットに、営業時間や住所などのデータを追加した“使える”名古屋情報サイト

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Twitter人気アカ主の知られざる事実と本音に迫るインタビュー、いかがでしたでしょうか。一個人が趣味でやっているSNSアカウントが、組織のWebサイトをはるかに凌駕するユーザーに活用されている。藤本智士氏(マイボトルブームの仕掛け人の編集者)の名著『魔法をかける編集』に「究極のローカルメディアは自分自身」という一節がありましたが、おいなごちゃんはまさにそれを具現化したモデルケースであり、一億総SNS時代の象徴的存在といえるでしょう。

一般のフォロワーはもちろんのこと、情報発信にかかわる人にとってもこれからますます目が離せないおいなごちゃん。とりあえず筆者はTwitterフォロワー3000人(おいなごちゃんの約1/30!)の壁を早く突破することから目標にしたいと思います。

(写真提供/おいなごちゃん)

名古屋ネタライター

名古屋在住のフリーライター。名古屋メシと中日ドラゴンズをこよなく愛する。最新刊は『間違いだらけの名古屋めし』。2017年発行の『なごやじまん』は、当サイトに寄稿した「なぜ週刊ポスト『名古屋ぎらい』特集は組まれたのか?」をきっかけに書籍化したもの。著書は他に『サンデージャーナルのデータで解析!名古屋・愛知』『名古屋の酒場』『名古屋の喫茶店 完全版』『名古屋めし』『名古屋メン』『名古屋の商店街』『東海の和菓子名店』等がある。コンクリート造型師、浅野祥雲の研究をライフワークとし、“日本唯一の浅野祥雲研究家”を自称。作品の修復活動も主宰する。『コンクリート魂 浅野祥雲大全』はその研究の集大成的1冊。

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