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「さよなら」Wii U 任天堂“不振の象徴”は本当か?

河村鳴紘サブカル専門ライター
(写真:ロイター/アフロ)

 任天堂の家庭用ゲーム機「Wii U(ウィーユー)」が、本体と周辺機器の修理受付を終了しました。最終的な世界累計出荷数は1400万台に届かず、「ニンテンドースイッチ」(1億4000万台超)の10分の1以下。そして任天堂の3期連続(2011年度~2013年度)の営業赤字と重なる部分があり、“不振の象徴”というイメージがあるかもしれません。同機について振り返ってみます。

◇想定外の厳しい結果

 「Wii U」は、世界出荷数1億を突破した「Wii」の後を継ぐ家庭用ゲーム機で2012年に発売されました。6.2インチの液晶画面を搭載したタブレットのようなコントローラーが特徴で、テレビとコントローラーの二つの画面を同時に使え、手元のコントローラーだけでも遊べるなど、「ニンテンドースイッチ」を先取りしたような点もあります。Wiiリモコンなども使え、絵を描いたりメッセージを出す「Miiverse(ミーバース)」というサービスもありました。

 発売前の評判は上々で、関係者に聞いても、Wiiの“遺産”を受け継いでいるため、一定の成功は見込めるという見方が大半でした。しかし、初年度(5カ月間)こそ345万台を出荷したものの、2年目は272万台(計画は900万台)と大失速し、3年目も338万台にとどまりました。任天堂の実績、強力な自社ソフトの存在を考えると、ありえないブレーキ。当時の記事では、任天堂にとっても想定外の厳しい結果だったことが吐露されています。

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 そのため一般紙、経済系メディアの任天堂への批判が展開され、社長の辞任論も出ました。数年前にWiiとニンテンドーDSの大ヒット時には「任天堂を見習え」と持ち上げられていたのです。エンタメビジネスは、大当たりがある分、大外れもあるわけですが、その恐ろしさを任天堂が身をもって示したわけです。

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◇スマホゲームのあおり

 背景として複数の理由が考えられます。まず2012年ごろには、基本利用料無料のスマホゲームが家庭用ゲーム機の市場を凌駕してきたタイミングでした。2012年は「パズル&ドラゴンズ」が大ヒットし、翌年には「モンスターストライク」が配信されました。高性能のスマートフォンのおかげで、ゲームがリッチになり、かつゲーム性を高めたことで、あおりを受けたのです。

日本国内の近年の市場規模を示したグラフ。成長したのは家庭用ゲーム機用ソフト以外の市場で、近年の成長もオンラインでカバーしているのが分かります=経済産業省のひと言解説「ゲーム産業は依然高水準」から
日本国内の近年の市場規模を示したグラフ。成長したのは家庭用ゲーム機用ソフト以外の市場で、近年の成長もオンラインでカバーしているのが分かります=経済産業省のひと言解説「ゲーム産業は依然高水準」から

 さらに「Wii」の“負の遺産”もありました。Wiiは当初、リモコンを使った「Wiiスポーツ」や健康ゲーム「Wii Fit」のような新しい遊びの提案が受け入れられて社会現象となりました。ところが、独自のゲーム設計がネックとなって他のゲーム会社が敬遠し、収益が出る携帯電話やスマートフォンのゲームにシフトしました。Wiiの普及後期はタイトル数が急減、ソフトのバリエーションが不足していました。

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 「Wii」の年間タイトル数はピーク時、国内で100以上、米国で300直前まで伸びました。ところが「Wii U」は、国内で30、米国でも50にとどまりました。またWii U本体は初年度の伸び悩み、ソフトの開発の遅れもあって、結果タイトル数がそろわなかった面もあるのです。そして本体が売れないゲーム機に、誰もソフトを出すわけもなく、ソフトのそろわないゲーム機はただの箱……負の循環となりました。

 その失敗を踏まえてか、任天堂が次のゲーム機「ニンテンドースイッチ」ではタイトル数の増加・充実に力を入れたことは、取材でも節々に感じるところでした。ちなみにニンテンドースイッチの年間タイトル数は、日本で300以上、米国で450(いずれもピーク時)ですから、その差は歴然です。ともすれば「Wii U」の課題が、スイッチで生きたと考えることもできます。

◇根強いファン プレー率も健闘

 ビジネス視点では厳しい評価になる「Wii U」ですが、根強いファンがいます。ゲーム業界団体のCESAが発行する「CESA一般生活者調査報告書」(調査時のデータは2022年)によると、普段遊ぶことのあるゲーム機の遊ぶ割合「プレー率」について「Wii U」が5.3%でした。

 トップはスイッチの22.8%で、続いてニンテンドー3DSの10.2%、PS4の6.6%となります。ニンテンドースイッチライトは4.6%なので、それを上回っています。日本国内で所有する人という条件は付くものの、普及台数を考えると遊ばれているのです。

 ゲーム機の普及台数(1400万台)を考えると、自社の有力タイトルで一定の成果をあげており、改めて任天堂IPの強さを示しました。そして末期に出た「スプラトゥーン」は、売り上げが伸びづらい完全新作ながら500万本弱を売り、ゲームデザインや着想を含めて、業界関係者を驚かせました。

◇失速の可能性 エンタメビジネスの宿命

 「Wii U」が発売されたタイミングは、家庭用ゲーム機にとって“向かい風”でした。上記で触れたスマホゲームのヒットもそうですし、消費者庁に“ダメ出し”をされたコンプガチャ問題も2012年の話です。後者の問題は家庭用ゲーム機には無関係ですが、ゲームのイメージにはマイナスに働いたでしょう。翌年には、ソニーが高性能ゲーム機のPS4を投入し、ソフトを開発しやすい設計にしたこともあり、売れるようになります。「Wii U」の独自路線が完全に裏目に出たのです。

 そして任天堂の3期連続(2011年度~2013年度)の営業赤字ですが、きっかけは「Wii U」ではなく「ニンテンドー3DS」です。同機の不振を受けて、販売開始からわずか半年後に1万円の大幅な値下げに踏み切るなどして、逆ざや(本体の採算は赤字)になったことです。

 3DSは最終的に約7600万台を売り、日本で普及したことから「成功」と考える人もいる一方で、経営(決算)の観点から言うと、シビアな評価になります。ちなみに7600万台という数字は、ニンテンドーDSの半分で、厳しい評価を下されるソニーのPS3の出荷数(約8700万台)よりも下です。

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 「Wii Uの大失速が悪い」というのは、その通りでしょう。ですが、エンタメビジネスの宿命として、「大当たり」がある以上、「大外れ」もあるわけで、特性でもあります。その対策として任天堂は巨額の現金(2023年度の決算時点で約1兆4800億円)を積み上げているのですから。ソフトがそろわず、時代の影響も受けた上に、かつ早々に見切りをつけられていたのは明らか。「Wii U」が任天堂の“不振の象徴”にされて、責任を押し付けるような形で報じられるのは、やむを得ないところがありつつも、少々気の毒に思えるのです。

 ともあれ「Wii U」のテレビと機器の2画面方式、ネットワークサービスの強化などの“遺産”は、ニンテンドースイッチに受け継がれています。そして発売から10年以上が経過しても、遊ばれているゲーム機であり、実際に今触っても十分に楽しめます。そして好きな人にとって、ゲーム機が売れなかったからダメとは限りません。それだけに修理受付の終了は惜しまれるわけで、フォローを求める声があることも理解できますが、ビジネス的にはなかなか難しいところでしょう。

 なお2016年にWii Uの生産中止が報道されたとき、「早ければ年内にも部品在庫がなくなる見込み」と書かれました。ですが部品を2024年まで持たせて、修理を続けたことに、任天堂の“意地”を感じるのです。

サブカル専門ライター

ゲームやアニメ、マンガなどのサブカルを中心に約20年メディアで取材。兜倶楽部の決算会見に出席し、各イベントにも足を運び、クリエーターや経営者へのインタビューをこなしつつ、中古ゲーム訴訟や残虐ゲーム問題、果ては企業倒産なども……。2019年6月からフリー、ヤフーオーサーとして活動。2020年5月にヤフーニュース個人の記事を顕彰するMVAを受賞。マンガ大賞選考員。不定期でラジオ出演も。

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