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節分の豆まき~豆の危険を考える

山中龍宏小児科医/NPO法人 Safe Kids Japan 理事長
(ペイレスイメージズ/アフロ)

2月3日は節分ですね。待ち遠しい春がすぐそこまでやってきていると感じる楽しい行事ですが、豆の危険性についても知っておいていただきたいと思います。

食べ物を飲み込むとは?

 口の中に入った食物は、歯である程度の大きさに噛み砕かれ、徐々にのどの奥に送られます。のどの奥には口蓋帆(“のどちんこ”と呼ばれている部分)という膜状のものがあり、食物が鼻の方へ入らないようにしています。そして、食道の入り口の部分では、食物が気管に入らないように喉頭蓋という“ふた”が閉まって、食物を食道の方へ送り込みます。この蓋がきちんと閉じないと、食物片や液が気管に入りこみ、むせることになります。気道に異物が入ることを誤嚥、気道異物、あるいは気管支異物といいます。1-3歳児によくみられます。気道異物を起こす食品でもっとも多いものは乾いたピーナッツです。

豆は、どういう状況で気道に入るのか?

 大きい子どもや大人では、臼歯という奥歯で豆をすりつぶし、唾液と混ぜて飲み込みます。乳幼児では、奥歯がなかったり、奥歯ですりつぶすことがうまくできなくて、前歯で豆を噛んで小さくしています。豆の小片が舌の上に乗っているときに、歩いていて転んだ、お母さんがその場を離れた、自動車が急ブレーキをかけたので前席の背もたれにぶつかった、上の児にたたかれたなどの状況になると、子どもは大声で泣き始めます。泣き切った後に大きく息を吸いこんだ時、舌の上の豆の小片が気管に入ってしまうのです。口の中にたくさん詰め込んだ時や、豆を口に入れたままジャンプしたときにも起こります。何かの拍子に気管に入ってしまうこともあります。また、上の子どもが下の子どもの口に豆を入れてしまうこともあります。食べた場面を見ていないと、診断が遅れることがあります。

豆が気道に入るとどうなる?

 咳き込む、むせる、ゼーゼーする、声がかすれる、陥没呼吸、顔色が悪いなどの症状がみられます。これらの症状は風邪と似ているため、診断をつけることが難しい場合もあります。風邪の症状が長く続くときは、気道異物も疑います。

 豆が気管支に入ると、自然に排出されることはありません。豆はレントゲン写真には写りません。放置しておくと、豆から脂分が出て肺炎を起こします。豆の誤嚥に気づかれず、長く放置しておくとひどい肺炎になって死亡することもあります。

気道異物の治療法は?

 ヒトの気管支の太さは、その人の小指の太さと同じくらいの太さであるといわれています。1-3歳の子どもの気管支は細く、そこに詰まっている豆を取り出すのはとても難しいのです。

 豆を取り出すためには、細い気管支に内視鏡という器具を入れなければなりません。気道異物の治療は全身麻酔下で行われ、呼吸状態を保ちながら、ふやけた豆をつまみ出すのはとてもたいへんです。このような負担を乳幼児にかけないために、豆の危険性を知っておきましょう。

安全な豆まきを

 乳幼児がいる家庭では、小分けにされた豆の袋をそのまままきましょう。部屋の中で豆をまく場合には、その前後で豆の数を確認するといいでしょう。「歳の数だけ豆を食べて厄除け」といわれていますが、乳幼児では、乾いた豆類を与えることは避けた方が安全だと思います。

子どもの Safe eating のために

・仰臥位、歩きながら、遊びながらモノを食べさせない。

・食べ物を口に入れたままの会話、テレビや漫画を見ながらの食事はさせない。

・乳幼児向けの食べ物は、適切な大きさに切り、よく噛んで食べさせる。

・急停車する可能性がある自動車や、揺れる飛行機の中で乾燥した豆類は食べさせない。

・小さな食物塊やおもちゃなどを放り上げて口で受けるような食べ方や遊びをさせない。メディアの広告ではこのような映像を禁止する。

・学童、生徒に対し、早食い競争の危険性を教え、禁止する。メディアによる早食い競争の番組は禁止する。

・食事中に乳幼児がびっくりするようなことは避ける。

・乳幼児に、食べることを強要しない。

・乳幼児の食事中はいつもそばにいて観察する。

・乳幼児に対し、上の子どもが危険な食べ物を与えることがある。

・下の子どもが、上の子どもと同じものを食べたがることがある。

・嚥下障害のある子どもは、食べ物による窒息が起こりやすく、十分な注意が必要である。

・3歳までは、ピーナッツなどの乾燥した豆類、ピーナッツを含んだせんべいやチョコレート、枝豆などは食べさせない。アメリカでは、乳幼児のいる家庭には、乾燥した豆類は家に持ち込まないよう指導している。

小児科医/NPO法人 Safe Kids Japan 理事長

1974年東京大学医学部卒業。1987年同大学医学部小児科講師。1989年焼津市立総合病院小児科科長。1995年こどもの城小児保健部長を経て、1999年緑園こどもクリニック(横浜市泉区)院長。1985年、プールの排水口に吸い込まれた中学2年生女児を看取ったことから事故予防に取り組み始めた。現在、NPO法人Safe Kids Japan理事長、こども家庭庁教育・保育施設等における重大事故防止策を考える有識者会議委員、国民生活センター商品テスト分析・評価委員会委員、日本スポーツ振興センター学校災害防止調査研究委員会委員。

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