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ミャクミャク様はいつミャクミャク様になったのか

鳥海不二夫東京大学大学院工学系研究科教授
(写真:つのだよしお/アフロ)

大阪・関西万博の公式キャラクターの愛称がミャクミャクに決まったそうです.

ロゴが公開された当初からだいぶネット上がざわついていましたが,ミャクミャクという愛称がまたネットをざわつかせています.

ライブドアニュースの,愛称を発表したニュースのツイートは2万回以上リツイートされています.

そこで,どのくらいミャクミャクが話題になったのか,「ミャクミャク」または「みゃくみゃく」が含まれるツイートを収集して分析を行ってみました.

2022年7月18日19時~7月20日12時までの間に249,138アカウントによって687,094回ものツイートが投稿,拡散されました.

ミャクミャクのツイート数(筆者作成)
ミャクミャクのツイート数(筆者作成)

上図が時間ごとのツイート数です.発表当初に話題になった後,次の日の昼に大きくバズっていることが分かります.

2日間で60万以上のツイートというのはそれなりに盛り上がった話題であるという事はできるのではないでしょうか.

ところで,ツイートを見ていると「ミャクミャク様」という呼び方が非常に多いことが分かります.普通公式キャラクターの愛称などには,ちゃんや君が付くものですが,なぜかミャクミャク様と呼ばれているようです.

というわけで,大阪・関西万博の公式キャラクター「ミャクミャク」はいつから「ミャクミャク様」と崇め奉られるようになったのでしょうか.

とりあえず,「ミャクミャク様」と最初に投稿されたツイートを探してみると,7月18日19:46:57に

怪異の名前っぽい ミャクミャク様

というものがありました(個人アカウントのためリンクは割愛).

ちなみに,「ミャクミャク」と最初に投稿されたツイートは19:41:15でしたので,これが発表直後だとすれば,わずか5分で「ミャクミャク様」と呼ばれ始めていることが分かります.

ちなみに最初ツイートされた時間を見ていくと,

19:41:15 「ミャクミャク」

19:41:31 「ミャクミャクくん」

19:41:32 「ミャクミャクちゃん」

19:42:35 「ミャクミャクさん」

19:46:57 「ミャクミャク様」

19:53:30 「ミャクミャクたん」

でしたので,「ミャクミャクくん」または「ミャクミャクちゃん」が当初は優勢だったようです.

7月18日19時台の敬称の数を見ると以下の通りでした.

ミャクミャク様愛称発表直後につけられた敬称(筆者作成)
ミャクミャク様愛称発表直後につけられた敬称(筆者作成)

敬称としては「ミャクミャク君」が多かったようです.もっとも,一番多かったのは「ミャクミャク」と呼び捨てにすることでしたが.

その後,20時ごろまでは「君」優勢だったのですが,21時ごろに様子が変わります.このぐらいの時間から「ミャクミャク様」が勢いを増して,勢力を伸ばしていきました.日付が変わるころには43.9%のツイッタラーが「ミャクミャク様」と呼ぶようになったのです.

ミャクミャク様が勢力を伸ばしていく様子(筆者作成)
ミャクミャク様が勢力を伸ばしていく様子(筆者作成)

日が変わっても「ミャクミャク様」は勢力を伸ばされ続け,7月19日12時以降はほぼ70%のツイートが「ミャクミャク様」と敬称を付けてお呼びするようになりました.

人類がミャクミャク様と呼ぶようになるまでの流れ(筆者作成)
人類がミャクミャク様と呼ぶようになるまでの流れ(筆者作成)

一日ごとのミャクミャク様への敬称の勢力分布を示したものが上図となります.18日こそ敬称無しを含むその他が多かったものの,19日には69.2%が,20日には71.9%のツイートが「ミャクミャク様」となりました.

なお,これはリツイートを含めたツイート全体の割合となりますが,リツイートではないオリジナルツイートでも7月20日の12時までの段階で66.1%が「ミャクミャク様」となっていますので,ミャクミャク様という敬称が多いのは一部のツイートが大規模に拡散した影響ではなく,一般にそうお呼びするのがよいと浸透した結果と考えることができるでしょう.

また,政治的な話題などでは「一部のアカウントが大量にツイートすることで話題になるように操作する」いわゆるトレンドハックが行われることが多いのですが,そのような操作も確認できませんでした.つまり,勢力の拡大において,特定のコミュニティによる意図的な動きは確認できなかったということになります.ミャクミャク教があるわけではなさそうです.

以上より,ミャクミャク様は誕生後すぐにミャクミャク様と呼ばれ始め,2時間後には他の敬称よりもミャクミャク様が多く使われるようになり,24時間後には70%のツイートでミャクミャク様と呼ばれミャクミャク界を制したことが分かりました.

インターネットを通じて人から人へと、通常は模倣として拡がっていく文化をミームと言いますが,ミャクミャク様という呼び名の広がりは,まさにそのミームが誕生して拡散していくところなのかもしれません.

とはいえ,ネット上の文化は盛り上がりやすく飽きられやすいものです.

来週あたりにはミャクミャク様のことなんて誰も覚えていないかもしれませんね.名前と言い,姿かたちと言い,下手に忘れると祟りが起きそうな雰囲気も持っていますが.

東京大学大学院工学系研究科教授

2004年東京工業大学大学院理工学研究科機械制御システム工学専攻博士課程修了(博士(工学)),2012年より東京大学大学院工学系研究科准教授,2021年より現職.計算社会科学,人工知能技術の社会応用などの研究に従事.計算社会科学会副会長,情報法制研究所理事,人工知能学会編集委員長.人工知能学会,電子情報通信学会,情報処理学会,日本社会情報学会,AAAI各会員.「科学技術への顕著な貢献2018(ナイスステップな研究者)」

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