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アトピー性皮膚炎と気象条件の意外な関係 - シンガポールの大規模調査で判明

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(写真:アフロ)

【大気汚染とアトピー性皮膚炎の関連性】

アトピー性皮膚炎は、世界中の子どもの約20%が罹患する慢性の炎症性皮膚疾患です。そんなアトピー性皮膚炎と大気汚染の関係について、シンガポールで興味深い研究が行われました。

研究では、2009年から2019年までの間に、シンガポール国立皮膚センターを受診した144万844件のアトピー性皮膚炎患者のデータを分析しました。その結果、大気中の微小粒子状物質(PM2.5とPM10)の濃度が高いほど、アトピー性皮膚炎の受診者数が増加することが明らかになったのです。

具体的には、PM2.5の濃度が中央値(16.1μg/m³)と比べて10パーセンタイル値(11.9μg/m³)の場合、アトピー性皮膚炎の受診リスクが14%低下しました。一方、90パーセンタイル値(24.4μg/m³)では、受診リスクが10%上昇したそうです。PM10についても同様の結果が得られました。

【降雨量とアトピー性皮膚炎の意外な関係】

また、この研究では降雨量とアトピー性皮膚炎の関係についても調べられました。その結果、中程度の降雨量ではアトピー性皮膚炎のリスクが高まる一方、極端に多い降雨量ではリスクが低下するという、興味深い結果が得られました。

中央値よりもわずかに多い降雨量(7.4mm)では、アトピー性皮膚炎の受診リスクが7%上昇しましたが、25mm以上の極端な降雨量ではリスクが低下したのです。この結果は、適度な湿度がアレルゲンを屋内に閉じ込める一方、豪雨時には外出が控えられるためリスクが下がるのではないかと考察されました。

【日本への示唆 - 大気汚染対策とアトピー性皮膚炎予防】

日本でも、大気汚染とアトピー性皮膚炎の関連性が指摘されています。環境省の調査では、大気汚染物質の一つである二酸化窒素の濃度が高い地域ほど、アトピー性皮膚炎の有病率が高いことが報告されています。

シンガポールの研究結果は、大気汚染対策がアトピー性皮膚炎の予防に役立つ可能性を示唆しています。日本でも、大気汚染物質の排出規制や監視体制の強化など、総合的な対策が求められます。また、医療機関においては、大気汚染や気象条件の変化を考慮に入れ、アトピー性皮膚炎患者の増加に備えることが大切だといえるでしょう。

参考文献:

国立研究開発法人 国立環境研究所「大気汚染による健康影響に関する疫学研究」

https://www.nies.go.jp/kanko/news/37/37-2/37-2-03.html

Sci Rep. 2024 May 6;14(1):10320. doi: 10.1038/s41598-024-60712-4.

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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