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【日本選手権10000m展望③】自身の日本記録更新を目指す相澤晃。故障克服の過程でレベルアップに成功

寺田辰朗陸上競技ライター
レース前日の会見に出席した相澤晃<筆者撮影>

 パリ五輪代表選考会を兼ねた日本選手権10000mが12月10日、東京・国立競技場で行われる。パリ五輪の参加標準記録は男子27分00秒00。この記録を突破して優勝した選手はパリ五輪代表に即時内定する。

 男子日本記録(27分18秒75)保持者の相澤晃(旭化成)がレース前日に会見し、長かった故障期間からの復帰過程や、自身の日本記録更新への意気込み、パリ五輪への思いを語った。

パリ五輪を10000mの集大成に

 相澤は箱根駅伝2区の日本人最高記録を出すなど学生駅伝で大活躍し、旭化成入社1年目には日本選手権10000m(20年12月)に日本記録で優勝。21年の東京五輪10000mに出場した。

 しかし22年は5月の日本選手権に27分42秒85で優勝したものの、世界陸上オレゴンの標準記録突破ができなかった。日本選手権後の6月に遠征したオランダの10000m(28分17秒41)を最後に試合から遠ざかった。

 今年9月の日体大長距離競技会5000m(13分39秒25)が1年3カ月ぶりのレースだった。11月3日の九州実業団駅伝(3区区間2位)を経て、今回の日本選手権に臨む。

「昨年の日本選手権以降(正確には昨年6月5日のオランダでの10000m)、ケガでなかなか試合に出ることができず苦しい期間もあったのですが、夏以降は練習が積めています。約1年半ぶりの10000mになりますが、優勝目指して明日は頑張りたいと思います」

「明日の電子ペーサーの設定が27分15秒でもあり、自分もそこを目標にしていこうと思います。もちろんタイムは前後すると思いますけど、そのタイムを出せば日本記録にはなるので、そこも参考に走りたいと思います」

「(パリ五輪標準記録の)26分台は正直、今の自分にはちょっと難しい記録ではあると思っています。ただ目指していないわけではありません。今すぐは難しいかもしれませんが、来年以降26分台が出せるように、まずは日本選手権で自分が持っている日本記録を更新し、また強い自分を取り戻すというか、新しい自分を作れたらいいな、と思っています」

「入社する前は、パリ五輪はマラソンで目指したいと思っていましたが、東京五輪が終わったときにまだ、10000mがこの結果で終わるのは悔しいと思いました。そこからパリ五輪は10000mで目指す気持ちでやってきました。10000mの集大成となるようなオリンピックにできればいいかな、と思います」

故障を克服する過程で一段成長した可能性も

 以前のようにレベルの高いトラックレースを、故障明けの相澤はまだ行っていない。日本選手権という大舞台が、本人が言うように1年半ぶりの限界まで追い込むレースになる。いきなり自己記録(=日本記録)レベルの走りをすることは、普通であれば難しい。しかし日本記録更新への意欲を相澤は明言した。

 その背景にはリハビリ・トレーニングへの手応え、やれるだけのことはやった、という思いがある。これまでにも、故障明けの選手が快走した例はいくつもある。

「昨年7月終わりの合宿で右脚の後脛骨筋を痛めました。僕の中では大きなケガではないからすぐ治るかな、という思いでいましたが、今年の2月くらいまで、ほとんど走れない状況でした。しかしその間もトレーナーさんだったり、色々な方々に支えられて、走る以外のトレーニングを中心に行いました。走るトレーニングよりきついようなものもあって、そういうトレーニングを重ねてきて、また走ることができるようになった自分がいるのだと思います。支えてくれた方々のためにも、優勝目指して頑張りたい」

「実業団に入って以降と比べても、ウエイトトレーニングは特に力を入れてやってきたと思います。ケガをする以前もやってはいましたが、より計画的に、さらに強度の高いウエイトをやってきました。もちろん水泳であったり、サップ(?)であったり、今までやってこなかったようなこともやってきました。ウエイトだけやってしまうと長距離の走りにつながらないので、他の部分も、体の内側の部分もしっかり鍛えつつ、バイクのスプリントトレーニングとかも取り入れてきました。中距離選手や短距離選手がやるようなトレーニングも少しやってきました。走りのメニューで脚へのリスクを負えない分、バイクを使ってスプリント系のトレーニングはしてきました」

ラストで競り負けなレースもイメージ

 以前の相澤は、ラストのキレで勝負するタイプではなかった。駅伝で見せたように、中間走で押して行く展開が得意で、トラックではラスト2000mからペースを上げて後続を引き離した。

 しかし会見の相澤は、ラスト1周での勝負に意欲的だった。前述のリハビリ・トレーニングで、ラストの切り換えやスピードに成長の手応えがあったようだ。さらにはライバルの存在も、ラスト勝負のモチベーションを上げている。

「自分が優勝した過去2回は、ラスト2000m以降で後続を引き離して勝つことができました。ただ、それは他の選手たちもわかっていると思いますし、自分でも同じレースパターンでは勝てると思っていません。故障期間から今までやって来たことをしっかり出せば、ラスト1周で勝てると思うので、ラストの競り合いになっても負けない気持ちを持って走りたいと思います」

「伊藤達彦選手とはそういう(ケガでも前向きに頑張ろうという)話はしていませんが、日本選手権に向けてはお互いに探り合いといいますか、連絡はしました。彼だけには本当に負けたくありませんし、嫌でも意識する選手です。大学の時から一緒にやって来たライバルで、日本選手権に初めて優勝した20年も、伊藤君と競り合いました。彼も含めた全員に、絶対にラストで競り負けない気持ちで勝ちたいと思います」

陸上競技ライター

陸上競技専門のフリーライター。陸上競技マガジン編集部に12年4カ月勤務後に独立。専門誌出身の特徴を生かし、陸上競技の“深い”情報を紹介することをライフワークとする。一見、数字の羅列に見えるデータから、その中に潜む人間ドラマを見つけだすことが多い。地道な資料整理など、泥臭い仕事が自身のバックボーンだと言う。座右の銘は「この一球は絶対無二の一球なり」。同じ取材機会は二度とない、と自身を戒めるが、ユーモアを忘れないことが取材の集中力につながるとも考えている。

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