小田急「新型ロマンスカー」はどうなる? EXEとVSE、相反する要素をいかに統一するのか
2023年12月、多くの鉄道ファンから惜しまれながら、小田急のロマンスカー・VSEは引退した。小田急電鉄のロマンスカーは現在、汎用性の高いEXE、そのリニューアル版であるEXEα、東京メトロ直通も可能なMSE、現在のロマンスカーでは唯一展望席のあるGSEといったラインナップで運行されている。多くのロマンスカーはEXEやEXEαであり、東京メトロ直通の必要性ゆえに生まれたMSEはともかく、展望席があるロマンスカーらしいロマンスカーはGSEだけとなっている。
そんな状況の中で、小田急電鉄は2028年度、すなわち2029年3月の運行開始をめざし、新型ロマンスカーの設計に着手したと発表した。どんなロマンスカーになるのか。
EXEプラスVSE?
新たなロマンスカーは、伝統や歴史あるロマンスカーブランドを継承しながら、国内外の利用者にいっそう上質な移動時間を提供できる車両にしたいという構想になっている。
具体的には通勤やショッピングの足となるEXEの代替であり、箱根観光再興のためにつくられたVSEの後継として位置づける。なお、EXEをリニューアルしたEXEαは引き続き使用される。
この2車両、相反するものではないかとお思いの方も多いかもしれない。
EXEは、「気軽さ」を意識した車両といえる。観光以外でもロマンスカーを、ということで、日常の足として、座席指定の特急サービスを提供するためにつくられた車両だ。20m車10両編成で、6両と4両に分割することができる。定員は578人と、ロマンスカー最大である。
「モーニングウェイ」「ホームウェイ」と、通勤向け列車でよく使用される車両であり、その輸送力を最大限に活かしている。
いっぽうVSEは、そういった車両ではない。展望席があり、運転士は2階にいる。車両も連接車。車内はぜいたくな作りで、連続窓・ドーム型天井となっており、シートピッチにもゆとりがある。
2005年に登場し、20年もせずに引退したため、多くの鉄道ファンに惜しまれていた車両である。
当然ながらこの2車両は、相反する。
参考例としてのMSE
小田急電鉄は、東京メトロ千代田線と直通するロマンスカーを運行するにあたって、MSEを開発した。この車両は、20m車10両編成であり、6両編成と4両編成を組み合わせている。デザイン自体は、EXEのような実用一辺倒のものではなく、VSEの優美さも意識している。先頭は展望席こそないものの、流線型となっており特急列車としての華やかさも備えている。定員は578名。EXEと同じだ。
となると、MSEのような車両で、かつ地下鉄直通を意識しないものとなることが想定できる。
ロマンスカーは、ホームドア導入やメンテナンス性の向上などを理由に、連接車は今後導入せず、20m車でそろえていくことになっている。最近登場したGSEは、展望室はありながらも、20m車7両編成だ。
汎用性と豪華さを両立するには?
EXEとVSEという、相反する要素をひとつにまとめ、かつMSEのような前例もある。となると、トータル10両編成、6両プラス4両に分割可能で、1号車と10号車に展望車があるといったものとなるだろう。
ロマンスカーらしさの最たるものとして、展望席がある。VSEの後継とするならば、必須だ。EXEはそれがないゆえに評価がいまいちだった。MSEは前面展望には一応は配慮している。
地下鉄直通を必要としないなら、展望席はほしい。いっぽうで2編成に分割できるようにもして、輸送力を確保する。
こういったところに落ち着くのだろうか。
デザイナーも変わる
近年ロマンスカーは、建築家の岡部憲明氏がデザインを担当していた。だが新しいロマンスカーは、COA一級建築士事務所がデザインを担当する。地域とのつながりを意識し、利用者を大切にする設計実績が、小田急電鉄の考えに通じるところがあるからだ。
ワクワクするような経験ができる車両にしたいとのことである。
デザイナーが変わることで、ロマンスカー自体の雰囲気も変わるのだろうか。ただ、ロマンスカーの基本的なあり方自体は、変えてはいけない。これまでのものを継承・発展させた上でのデザインとなることを期待したい。
ロマンスカーに課せられる条件は厳しくなるものの、その条件を満たすいっぽうで、これまでのロマンスカーの名車たちを継承していくような、そんな車両にしてほしい。