ジェイミー・フォックス:「ネットの時代だからこそ、本当の人が際立つ」
オスカー俳優で、グラミー賞受賞歌手。コメディアンとしてブレイクし、学生時代はフットボール選手として活躍した。大学には、音楽の奨学金で進学している。才能が集まるハリウッドでも、ジェイミー・フォックスほどなんでもできる人は、なかなかいない。
初めてシリアスな演技を見せる機会を得たのは、オリバー・ストーン監督の「エニイ・ギブン・サンデー」(1991)。2001年にはマイケル・ベイ監督の「ALI アリ」に出演したが、このキャスティングは主演のウィル・スミスがベイに提案して決まっている。それから11年後にはまた、スミスが降板したことから、「ジャンゴ 繋がれざる者」の主役を獲得した。スミスに対しては、今も感謝の気持ちを忘れていないそうだ。
2004年のオスカーには、「Ray/レイ」で主演男優部門、「コラテラル」で助演男優部門にダブルノミネートされ、「Ray/レイ」で受賞した。ほかにも、「アメイジング・スパイダーマン2 」、「ANNIE/アニー」、「マイアミ・バイス」、昨年の「ベイビー・ドライバー」など、幅広いジャンルで活躍を続けている。
最新作は、3日(金)に日本公開される「スリープレス・ナイト」。麻薬組織とつながったラスベガスの刑事(フォックス)が、警察内部からマークされる中、組織の男に息子を誘拐されてしまい、なんとか救い出そうとするという、スリル満点の犯罪スリラーだ。
私生活では、ここ数年、ケイティ・ホームズと密かに交際を続けてきた。最近になってようやく関係を公にし始めたが、結婚に向けての動きはないようである。昨年末には50歳の誕生日も迎えた。インタビュー中もいつもジョークで笑わせてくれる彼に、L.A.で話を聞いた。
「スリープレス・ナイト」であなたが演じるヴィンセントは、良い人なのか、悪い人なのか、なかなかわかりませんね。
そういうキャラクターこそ、おもしろいんだ。奥にいくつもの層があって、何かと闘っているキャラクター。だから、この役に興味を持ったんだよ。それにバラン・ボー・オダー監督に、このキャラクターがいかにセクシーか、強調されたし(笑)。
今作の舞台はラスベガスですが、あなたもベガスに住んでいたことがあるのだとか?
ああ、1994年にね。L.A.地震の後だよ。お金が底をついて、L.A.からベガスに引っ越したんだ。今ある数々の豪華ホテルができる前で、一番新しいホテルはリオだったな。ステーキとロブスターのセットを5ドル以下で食べられた頃さ。僕はヒルトンホテルでパフォーマンスをしたりして日銭を稼いでいた。
それから5年後には、オリバー・ストーンの「エニイ・ギブン・サンデー」に出演しました。あの映画に関して、何か思い出はありますか?
あの映画の撮影は、1日17時間くらい続いた。オリバーは200人のエキストラを雇っていたが、そんな長時間、僕らは水とおいしくもないスナックだけで乗り切っていたんだ。フットボール選手も、8時間連続でプレイさせられたせいで疲れ切っていて、ある時、オリバーが「アクション!」と言ったら、そのまま走って出て行ってしまったんだよ。オリバーが「いったいどういうことだ?」という顔でフットボールフィールドのど真ん中に立ち尽くしている中、僕は彼らに駆け寄って行って、説得を試みた。「これはオリバー・ストーンの映画だよ。最高のスポーツ映画のひとつとして映画史上に残ることになる作品だ。だから完成させようよ。ぜひ戻ってくれ」とね。映画作りは大変だ。監督はとくに大変だが、僕らもみんな、それを理解して、ゴールに到着するまでがんばらないといけない。
その後、あなたは、とても幅が広く、長いキャリアを築いてこられました。その秘密は何だったと思いますか?
ずっと前、僕のエージェントに、「フォックス、これから世の中は変わるぞ」と言われたことがある。「インターネットというやつが、すべてを変えるんだ」と。そして彼は、「でも、ひとつだけ変わらないことがある。才能のある人には、いつの時代にも、仕事のチャンスがあるということだ。だが、そのことに常に感謝する人でないといけない。成功に酔って、肝心の演技に集中せず、また次の仕事のひとつだと軽々しく扱う人は消える。インターネットのせいで、そういう本当の人が、ますます際立つようになるんだ」と言った。「いいね」がたくさん付く映像が、必ずしも一番良いクオリティというわけじゃないんだよ。僕は、白人の俳優仲間に、「君らは大変だよね」と言ったこともある。「なぜ?」と聞かれて、僕は、「白人の男優は何百万人もいる。競争が激しいじゃないか。だけど僕らは9人くらい。ウィル(・スミス)とサミュエル(・L・ジャクソン)と僕。そのうち僕にも電話が回ってくるようになっているんだよ」と言った(笑)。
50歳という大台を、どう感じていますか?
娘に「パパ、年齢にふさわしくふるまってよ」と言われるよ(笑)。僕はナイトクラブでDJもやるんだが、ああいうところは21歳や22歳の若者ばかりだ。「あなたはいくつですか?」と聞かれて年齢を言ったら、「それって、まだ生きていられる歳なんですか?」と言われたりするよ(爆笑)。とにかく、それでも僕はいつまでも若く生きていたいと思っている。
あなたが一番敬愛するミュージシャンは?
断然、プリンスだ。マイケル・ジャクソンもすばらしかったが、プリンスは特別だよ。プリンスに会ったのは、1998年の大晦日。彼はラスベガスでショーに出ていたんだが、会った時、僕は泣いてしまったよ。ファンが言いがちな、すごく馬鹿げたことを僕は口走ったと思う。そして、「僕はB面も全部知ってますよ」と、彼の前でB面の歌をいくつか歌い始めたんだよね。一緒に写真も撮ってもらったよ。あの時代だから、(携帯ではなく)普通のカメラの写真さ。今思い出しても、あれはかなりかっこ悪い、奇妙な対面だったな。
「スリープレス・ナイト」は、2月3日(土)全国ロードショー。