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安保法制が「引き金」になるか。日本海で高まる日朝の軍事衝突リスク

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
潜水艦ミサイル発射を視察する金正恩(2015年5月9日付労働新聞より)

安倍晋三内閣は15日、他国を武力で守る集団的自衛権の行使容認を柱とする安全保障関連の11法案を提出した。安倍首相は前日の会見で、北朝鮮の弾道ミサイル開発を例に安全保障環境が厳しさを増しているとし、「あらゆる事態を想定し、切れ目のない備えを行う」と強調した。

日本政府は4月、米国政府との間で新しい日米防衛協力の指針(ガイドライン)で合意。ガイドラインでは、米国を狙った弾道ミサイルを自衛隊が迎撃することや、戦時下に米国の敵国船舶に対し強制的な船舶検査(臨検)を行うことも、集団的自衛権の行使として想定していることが示された

弾道ミサイルの迎撃については今のところ、地上から発射されるケースについてのみ考慮されている。しかし、北朝鮮が潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)と、これを搭載する新型潜水艦の開発を進めていることが明らかになっている。

これらが実戦配備されれば、ガイドラインに基づき、北朝鮮の潜水艦に対抗するための新たな任務が、海上自衛隊などに求められる可能性が高い。

そうなれば日本海を舞台に、日本と北朝鮮の軍事衝突の危険性が高まるのは避けられないだろう。

北朝鮮はすでに、ガイドラインについて「(米国が)世界制覇野望を実現するために、日本を突撃隊に使う凶悪な下心がある」と批判しつつ、日本の軍事的役割を意識している。

また、北朝鮮は今月初めにSLBMの発射実験を公表したのに続き、新型の対艦ミサイル3発をやはり日本海側に発射した

これについては条件反射的に「韓国を威嚇か」などと報じた日本のメディアがあったが、そうではなく、「あれはSLBMを搭載した新型潜水艦を『日米から守る』という意思表示だ」との指摘がある。

北朝鮮が今後、日本海において米国をねらう新たなミサイル・システムを展開していくのなら、監視や追跡は日本の出番となる。しかも、相手が潜水艦となれば、過去の工作船対策のように海保の巡視船が主役となることはできず、最初から海上自衛隊が出て行かなければならない。

北朝鮮が新型対艦ミサイル3発を日本海に向けて発射したのは、日本に向けた「来るなら来い」とのメッセージである可能性があるということだ。

日本のメディアが安保法制と北朝鮮のSLBM開発を関連付けて分析しないのは、完成にはまだまだ時間がかかるだろうと考えているからかもしれないし、あるいは単に軍事知識が不足しているからかもしれない。

いずれにせよ、安保法制が成立すれば、日本にとっては軍事戦略の大転換になる。賛成するにせよ反対するにせよ、もう少し慎重に、周りで起きている事象を分析すべきではないのか。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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