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早期降板率から考察するヤンキースが田中将大と再契約しなかったワケ

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
8年ぶりに楽天復帰が決まった田中将大投手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【SNSを席巻した田中投手の楽天復帰】

 今オフにヤンキースからFAになっていた、田中将大投手の楽天復帰が1月28日夕刻に正式発表されるや否や、そのニュースは人々に大きな衝撃を与えながらSNS上を席巻していった。

 人々の反応はおおむね歓迎ムードで、楽天ファンはもとより日本中の人々が田中投手のNPB復帰に歓喜した。今後しばらく球界は、田中投手のニュースで持ちきりになりそうな勢いだ。

 実は個人的にも、田中投手の投球を生で見られる機会を楽しみしている1人だ。というのも、2017年のスプリングトレーニングまで現場でMLB取材に従事していたのだが、残念ながら田中投手を取材する機会に一度も巡り会うことがなかったのだ。

【楽天復帰は停滞するFA市場だけが原因?】

 ただ世の歓迎ムードに水を差すようで恐縮なのだが、田中投手がどうして楽天に復帰することになったのか、どうしても釈然としない自分がいる。

 というのも、これまで日本でも田中投手に関して様々な報道がなされた。それらの報道を読めば、現地のFA市場では先発投手としてトレバー・バウアー投手に次ぐ評価を受け、ニューヨークのメディアからはヤンキース再契約待望論が巻き起こっていたはずだ。

 だが結果的にヤンキースはコーリー・クルバー投手を獲得し、田中投手と再契約することはなかった。

 多くのメディアが指摘するように、新型コロナウイルスの影響で今オフのFA市場は稀に見る停滞状況にあったのは事実だが、田中投手より評価の低かった先発投手たちが年俸1000万ドル以上で契約しているのだ。

 明らかにFA市場の停滞だけを理由にするのは、辻褄が合わない。

【辛辣な地元メディアから評価された7年間】

 まず断っておくが、活躍できない選手には辛辣な反応をするニューヨークのメディアから田中投手との再契約を待望する報道が出る時点で、彼がどのような評価を受けていたか理解できるだろう。

 2014年に楽天に2000万ドルの譲渡金を支払うとともに、田中投手と合意した7年総額1億5500万ドルの大型契約は、ヤンキースにとっても莫大な投資だった。もちろん投資に失敗していれば、メディアから大バッシングを浴びていただろう。それは伊良部秀輝投手や井川慶投手の例からも明らかだ。

 だが田中投手は2014年シーズン途中で右ヒジ内側側副靱帯を部分断裂するケガを負いながらも、トミージョン手術を回避し長期離脱することなく7年間先発ローテーションを守り切った。

 2019年には先発陣の中で最多の31試合に先発するなど、2016年以降は先発ローテーションの柱として機能していた。そうした活躍から、メディアは田中投手を大型投資に見合った選手だと評価したわけだ。

 それは昨シーズンの総括会見に臨んだブライアン・キャッシュマンGMも同様で、田中投手に対し最大の賛辞を送っていた。

【再契約に消極的な姿勢だったキャッシュマンGM】

 だが田中投手との再契約という点で、メディアとキャッシュマンGMの間で明らかに空気感が違っていたように思う。

 前述通りメディアの間では、田中投手との再契約を望む声が挙がっていた一方で、キャッシュマンGMは一度も田中投手の再契約に言及することはなかった。

 12月に地元TV局のインタビューを受けた際も、DJ・レメイヒュー選手との再契約を最優先にしていることを改めて認めながらも、「レメイヒューとの契約がうまくいかなかった場合は田中との再契約になるのか?」という質問に対し、「規則上補強プランに関する質問に答えることはできない」と答えるに留まっていた。

 その後もメディアから年末に「GMは田中サイドと連絡をとっている」とのニュースが流れた程度で、再契約に向け本格的な交渉に入っているという報道がなされることはなかった。

 そうした一連の流れを考えると、金銭面などの問題があったのかもしれないが、キャッシュマンGMが田中投手との再契約に消極的だったとしか思えないのだ。

【2017年から早期降板率が急上昇】

 そこにはキャッシュマンGMが消極的になる何らかの理由があるはずだ。そこでGMの立場になって、田中投手の投球をデータ化してみた。

 7年間で78勝46敗、防御率3.74は申し分ない成績なのだが、あくまで個人的な印象として、2019年に1回を投げきれずに降板した試合があったように、ここ数年は早い回で降板する試合が増えていると感じていた。

 そこでシーズン別の投球回数や5回未満で降板した試合数などを表にまとめてみたのだが、驚きの事実が浮かび上がってきた。まず下記の表を見てほしい。

(筆者作成)
(筆者作成)

 如何だろう。2016年を境にして、5回未満降板数(表ではU-5降板と表記)が増え始め、それ以降降板率も高止まりし、2020年は40%にまで上昇しているのだ。

 一方で、2020年を除けば平均回数は極端に落ちていないので、2017年以降の田中投手は好不調の波が大きくなっていた証であり、先発投手として以前のような安定感を失っていたということになる。つまり田中投手の7年間は、すべてポジティブなデータばかりが揃っているわけではないのだ。

 今回紹介したデータは、スポーツライターの自分レベルでも簡単にまとめられるものだ。今やすべての要素をデータ処理化しているMLBにおいて、キャッシュマンGMが有している田中投手に関するデータは計り知れないものだ。このデータに留まらず、やはり再契約を見送るだけの判断材料があったと考えるのが妥当ではないだろうか。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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