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毎月フォロワーが減少していく「アウシュビッツ博物館のX」7月は約2800人がフォロー解除

佐藤仁学術研究員・著述家
(写真:ロイター/アフロ)

アウシュビッツ絶滅収容所博物館の公式Xが、2024年7月に2788人がフォローを解除してしまったことを報告。フォロワー増加数、インプレッション、エンゲージメントは明らかにしていない。アウシュビッツ絶滅収容所博物館の公式Xでは2024年6月に3477人、2024年5月にも約3500人がフォローを解除していた。現在160万人のフォロワーがいるが、毎月約3000人がフォローを外している。

アウシュビッツ絶滅収容所博物館は「私たちのミッションは後世にアウシュビッツ絶滅収容所で起きた悲劇を記憶として伝えていくことです。さらにホロコースト教育を充実させることです。是非拡散に協力してください」とコメントしていた。

ホロコーストを風化させないための記憶のデジタル化

アウシュビッツ絶滅収容所博物館にとってXなどのSNSは歴史を伝えていく重要なメディアとして重要な情報発信のツールの1つである。アウシュビッツ絶滅収容所博物館ではXで毎日情報発信を行っている。アウシュビッツ絶滅収容所博物館のXでは、毎日、アウシュビッツ絶滅収容所で犠牲になった方々の誕生日や殺害された日に、彼らの写真とともに生まれた場所、いつ殺害されたかをポストしている。110万人以上が殺害されたアウシュビッツ絶滅収容所なので、毎日誰かしらの誕生日である。ナチスドイツではヨーロッパ中のユダヤ人を絶滅することを政策として掲げていたので、支配した地域でもユダヤ人をリスト化していた。そしてどの地域で何人のユダヤ人をどこの収容所に送るという"ノルマ達成"を官僚主義的に行っていたが、その際にもきちんとユダヤ人の情報をリスト化していた。そのようなナチスドイツによるユダヤ人の徹底的な管理に向けた"まめな記録"が現在ではデータベース化されており、アウシュビッツ絶滅収容所博物館ではその日が誰の誕生日かがわかる。

写真が残っていない犠牲者の場合は文字だけで犠牲者の情報をポストしている。ユダヤ人にとっては家族や友人らとの幸せだった時代の写真は貴重なものでアウシュビッツまで持ってきたが、ナチスドイツにとっては全く価値のないものだった。そのためすぐにナチスドイツによって焼却されてしまったので、平和な時代の写真が残っているのはとても貴重である。だが平和な時代の写真が残っていなかったとしても、アウシュビッツでは強制労働に適していると判断された囚人らは3方向から写真撮影されていた。それらの写真がデジタル化されて保存されており、3枚の写真が犠牲者の誕生日に掲載されることが多い。ホロコースト犠牲者や生存者らの貴重な写真がデジタル化されて保管されているだけでなく、Xで毎日世界中に発信されている。多い日には1日に10人くらいの犠牲者がポストされることもある。

さらにアウシュビッツ絶滅収容所博物館では、大量にある犠牲者の写真の他にも文書、遺品などをデジタル化して保管しており、それら貴重な歴史的コンテンツを毎日Xで世界中に発信している。

▼平和な時代に撮影されたユダヤ人の写真を掲載するアウシュビッツ絶滅収容所博物館のX

1月はフォロワー増加するが、それ以外は減少傾向

アウシュビッツ絶滅収容所博物館ではフォローの呼びかけを積極的に行っていたのでフォローはしたものの、アウシュビッツ絶滅収容所での犠牲者の写真、小さな子供の写真、生々しい死体焼却の写真や残虐な写真などが毎日多数ポストされているので、見ているのが辛くなったり気分が悪くなったりしてしまいフォローを外してしまう人も多い。確かに見ているだけで辛い気持ちになるのは、ホロコーストを研究している欧米やイスラエルの研究者でも多い。また欧米では授業でホロコースト教育を行っている学校も多く、学生らが授業期間中やグループでの発表前、レポート作成時期などにはフォローしているが、授業期間が終わると解除してしまうことも多い。友達同士の些末なやり取りや、美味しい食事、パーティーやランチなど幸せな投稿と一緒のタイムラインに毎日このようなポストが多数流れてくると気分が滅入ってしまいフォローを外してしまうのも理解できる。

1月27日はホロコースト記念日(ソ連軍によってアウシュビッツ絶滅収容所が解放された日)なので、世界中のメディアがアウシュビッツ絶滅収容所のことを報じる。また欧米の学校でのホロコースト教育でも1月は様々なイベントが開催される。そのためアウシュビッツ絶滅収容所博物館のXのフォロワーも老若男女ともに増加するが、それ以外の月は減少していく傾向が見られる。

アウシュビッツ絶滅収容所博物館のXではホロコースト関連のニュースや犠牲者の情報、生存者の体験など決して明るいニュースや情報ではなく、目を覆いたくなるような写真や生々しい情報も多い。アウシュビッツ絶滅収容所博物館では毎月このようなフォロワー数の報告をしており、その都度「私たちのポストした投稿をシェアして、他の方々にもフォローをすすめてください」と呼び掛けているが、リポストをするのも躊躇してしまう人も多いだろう。SNSではエコーチェンバーの影響もありアウシュビッツ絶滅収容所博物館をフォローしたり、リポストしたりすると、同じようなホロコースト関連の投稿が多く表示されやすい。それらはアウシュビッツ絶滅収容所博物館のXと同じように生々しいものが多く、Xのタイムラインにはホロコースト関連の重たい投稿ばかりになってしまいがちである。

アウシュビッツ絶滅収容所博物館では、2019年8月に「解放75年を迎える2020年1月までに、Xのフォロワーを75万人まで目指す」と掲げていた。当時は55万人程度のフォロワーだったが、2019年末には75万まで到達し、目標はクリアした。その後、アウシュビッツ絶滅収容所博物館では「フォロワーを2020年1月27日(国際ホロコースト記念日)までに100万人」と目標を上方修正し、この目標もクリアされ、2022年末までにフォロワー数150万の目標を掲げてクリアした。2024年7月末で約160万人のフォロワーがいる。だが毎月のように数千人規模でフォロワー数が減少している。

▼3方向から撮影された労働に適しているとされたユダヤ人

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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