巨人の後の急落続く…少年向けコミック誌の部数動向(2021年10~12月)
ジャンプ最強状態は継続…直近四半期の実情
専用の電子書籍・雑誌リーダーだけでなくパソコンやスマートフォン、タブレット型端末を用いたインターネット経由にて、漫画や文章を読む機会が多数得られるようになったことで、人々の読書欲はむしろ上昇の一途との解釈もある。一方で紙媒体による本は相対的な立ち位置の揺らぎを覚え、多分野でビジネスモデルの再定義・再構築を迫られる事態に陥っている。今回はその雑誌のうち、特にすき間時間のよき相棒といえる少年向けコミック誌について、日本雑誌協会が四半期ベースで発表している印刷証明付き部数(※)のうち、2022年2月に発表した、直近(四半)期分となる2021年10~12月分(2021年第4四半期、2021年Q4)を中心に実情を確認する。
まずは少年向けコミック誌の直近期、2021年10~12月の実情。「週刊少年ジャンプ」が群を抜いている状況は前期から変わらず。少年向けコミック誌の中ではかつて唯一のダブルミリオンセラー(200万部以上の実績)誌として君臨していた。しかし開示されている記録の限りでは2017年1~3月期にはじめてその大台を割り込み、今期でも挽回はならず、200万部割れが継続する形に。次いでやや年上向けの少年向けコミック誌「週刊少年マガジン」、さらには小学生までの低年齢層向け(主に男子向け)コミック誌「月刊コロコロコミック」。
かつては複数誌が100万部を超えていたが、「週刊少年マガジン」が2016年7~9月期に100万部を割り込んだことで、少年向けコミック誌で100万部超えの雑誌は「週刊少年ジャンプ」だけとなってしまった。恐らくはこの状態が今後も継続するのだろう。
他方、唯一の100万部超えの「週刊少年ジャンプ」だが、直近データで確認すると印刷証明付き部数は現在135万4167部。雑誌では返本や在庫本(売れ残り)なども存在するので(返本率などは部数動向では非公開)、それを勘案すると最終消費者の手にわたっている冊数は、これよりも少なくなる。返本率4割で試算すると(上場している取次会社の決算資料の限りでは、雑誌の返本率はおおよそ4割)、実セールスは81万部ぐらいだろうか。「週刊少年ジャンプ」ならばもう少し返本率は低いかもしれないが、雑誌別の返本率は非開示であるため、その実情は分からない。
同誌はピーク時となる1995年では635万部の値を出していた記録を目にするに、その2割強にまで落ちてしまった現状は、時代の流れを感じさせる。「週刊少年マガジン」の100万部割れとともに、雑誌全体の歴史において一つの時代を刻んだ流れと考えれば、冷静に受け止めることもできるのだが。
コンビニなどでもよく見かけるメジャーな週刊コミック誌で、大規模かつ大胆な組織構造改革宣言を行った「週刊少年サンデー」の部数は、今期では18万8182部。容易に取得可能な最古のデータとなる2008年4~6月期における86万6667部からは約22%にまで部数を減らしている。
グラフの形状からも分かる通り、何度か大胆な改革により部数持ち直しの気配も見られたが、全体的な流れに逆らうまでには至っていない。今回の改革に関しても、現時点ではその成果は数字には現れていない。2015年8月に改革の宣言をしており、それから6年以上が経過しているのだが。
他方コミック誌は電子化が相当進んでおり、電子雑誌版に流れた読者が原因で、「印刷」部数が上向きになっていないだけの可能性もある。
プラスは皆無…前期比動向
続いて公開データを基に各誌の前・今期の間の販売数変移を独自に算出し、状況の精査を行う。コミック誌は季節でセールスの影響を受けやすいため、四半期の差異による精査は、コミック誌そのものの勢いとはズレが生じる可能性がある。一方でシンプルに直近の変化を見るのには、この単純四半期推移を見るのが一番。
なおデータが雑誌社側の事情や休刊などで非開示になったコミック誌、今回はじめてデータが公開されたコミック誌は、このグラフには登場しない。
今期で前期比によるプラスを示したのは皆無。プラスマイナスゼロが2誌で、誤差領域(上下幅5%以内)内のマイナスが8誌。誤差領域を超えた確実なマイナスは4誌で、特に「別冊少年マガジン」のマイナス48.3%が大きな値となっている。
その「別冊少年マガジン」だが、このマイナス幅は、2期前において長期連載作品「進撃の巨人」が完結した2021年5月号(4月9日発売)が重版するほどのセールスを示したことの反動的な動き。集客力の高い作品の連載が終了したため、読者が急激に離れている状況だと推測できる。
マルチメディア展開が行われ社会現象化した「進撃の巨人」の最終回掲載号ということもあり、月刊誌が重版するほどの需要が生じた2期前。しかし連載が終了した次の期は部数が平常の値に戻り、さらに直近期でそれをさらに下回る値になってしまう。部数を底支えする新たな人気作品の登場が待たれるところではある。
「ウルトラジャンプ」は「別冊少年マガジン」に次いで大きなマイナス幅。
「ウルトラジャンプ」は前期で大きな部数の増加を示し、トレンドの転換を想起させるものがあったが、直近期ではほぼ平常の値に戻ってしまった。前期では「底打ち反転のような流れに読めることから、大いに今後の動向を期待したい」としていたのだが、残念ではある。
季節動向を考慮し前年同期比で検証
続いて季節変動を考慮しなくて済む、前年同期比を算出してグラフ化する。今回は2021年10~12月分に関する検証であることから、その1年前にあたる2020年10~12月分の数字との比較となる。年ベースと少々間が空いた期間の比較となるが、雑誌の印刷実績で季節変動を除外し、より厳密に知ることができる。
前年同期比でプラスを示した少年向けコミック誌は無し。他方、マイナスを示したのは13誌で、そのうち10誌の下げ幅が誤差領域を超えている。10%以上の下げ幅は7誌。「別冊少年マガジン」が大きな下げ幅を示している理由は上記の通りだが、それとは別にコロコロ系が押しなべて大きな下げ幅となっているのが気になるところではある。
水曜発売の週刊誌として相並び紹介されることが多い、そして昨今では100万部割れで注目を集めた「週刊少年マガジン」と、その宿命的ライバルな存在の「週刊少年サンデー」の部数動向は次の通り。
「週刊少年マガジン」の方が2倍以上も部数は多いが、部数の減少の仕方もやや急で、その差は少しずつだが縮まりつつある。このような形での競争ではなく、双方とも上昇の中での競り合いを見せてほしいものだが。
もっとも両誌とも電子版を展開中で、その利用者数は少なくないと考えられる(実数は非公開なので実情は不明)。紙媒体の部数のみをカウントした今値の動向は両誌の勢いではなく、単純に紙媒体版のセールス動向を記しているに過ぎないことを注意しておく必要がある。
現在は電子本、ウェブ漫画が普及する中で、小規模書店の閉店、コンビニでのコミック誌のシュリンク化・棚からの撤去が続き、紙媒体を手に取る機会が減少している。漫画を提供し、市場を支えていくための仕組みも選択肢が増え、領域が広がり、これまでとは異なる発想が求められつつある。そして新型コロナウイルスの流行は、紙媒体を手に取る機会の減少を加速化させた感はある。
なお今件の各値はあくまでも印刷証明付き部数で、紙媒体としての展開動向。コミック誌の内容が電子化されて対価が支払われた上でダウンロード販売された場合、その値は反映されない。そして電子雑誌の利用も確実に増えている。そのため、印刷証明部数が減少を続けても、各誌そのものの需要がそれと連動する形で減少しているとは限らないのには注意をしなければならない。
■関連記事:
【電子書籍リーダーとタブレット型端末の所有・利用状況をさぐる(2020年公開版)】
※印刷証明付き部数
該当四半期に発刊された雑誌の、1号あたりの平均印刷部数。「この部数だけ確かに刷りました」といった印刷証明付きのものであり、雑誌社側の公称部数や公表販売部数ではない。売れ残り、返本されたものも含む。
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