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松本人志の「やさしさ」を引き出す東野幸治の剛腕ぶり 『ワイドナショー』で不祥事TKO相手に見せた

堀井憲一郎コラムニスト
(写真:つのだよしお/アフロ)

『ワイドナショー』に木本武宏と木下隆行が出演

2月5日の『ワイドナショー』にはTKOの二人、木本武宏と木下隆行が出演した。

久々の二人並んでのテレビ出演である。

司会は東野幸治、スタジオには松本人志とロンドンブーツの田村淳、あとは漫画家の柴田亜美と、ミュージシャンの松岡充がいた。進行アナウンサーは佐々木恭子。

お笑い芸人として、松本人志、東野幸治、田村淳がいるというなかで、TKOの木本が今回の騒動の説明をするという場であった。

ちょっと見ものだった。

重々しい空気のなかで番組が進む

彼らが出てきたのは3つめの話題。

10時に始まった番組で、10時28分に出てきた。

木本武宏本人が説明を始める。

木本が説明に要した時間はだいたい4分。

そのあとロンブー淳が、被害者なのか、加害者でもあるのかという質問をして、それを受けて犬飼弁護士が解説を加える。

ここまでまじめな話題しか出ていない。笑いは出ていない。

次に振られたのが松本人志である。

「あれ、たぶん、投資の話したかったんかな」

松本人志が喋りだした。

「いやだから三年ぐらい前に木本と品川駅で会ったときに、木本がぱーっとおれのところ走ってきたんで」と高いトーンで話始める。

「あれ、たぶん、投資の話したかったんかなあって……」

文字にするとわかりにくいが、声はあきらかに冗談である。つまりボケだ。

木本はすぐに反応できず、固まったまま小さく首を横に振るばかりで、東野が「挨拶……」と口を挟んだのでなんとか「……それは……違います」と絞り出すように言う。

東野「挨拶やったんやろ」

木本「はい、挨拶です」

続いてロンブー淳が「そんな急いできたらもう、あやしいですけどね」とつなぐ。

このあたり3人の連携が心地よい。

東野幸治のおさめる話芸

緊張した場で、松本も厳しいことを言うかもという雰囲気のなかで松本はふわっと発言して、空気が変わる。

文字では冗談かどうかわかりにくいということは、完全なボケで、ツッコミがないと成立しないということでもある。

東野幸治がいるから松本もボケられる。

「ワイドナショー」のお笑い部分をきちんときれいに作り上げているのは、あきらかに東野幸治である。

木本が予想しないボケがきて、咄嗟に反応できないので、東野が「(それは)挨拶(しにきたんですよ、松本さん)」という言葉を入れて木本は「それは(投資の話をしにいったのとは)……ちがいます」と答えられた。

魔王のようにおさめる東野幸治

でもロンブー淳は「そんな急いできたらもう、あやしいですけどね」と、松本ボケを伸ばし、東野は「走ってきて投資の話するのは、もう、末期中の末期ですよ」とまとめた。

東野は、少しボケを伸ばしてから、きちんとツッコミの形でおさめている。

何気ないようだが「末期中の末期」という言葉を入れておさめるというのが、これが東野幸治の芸である。

ふつうできるものではない。

気がつくと、この場の魔王のように見えてくる。

松本は、さらにかぶせてくる。

「(さきほど)木下がえらい勢いで楽屋はいってきたから、ペットボトル投げにきたんかと……」

木下も即応できない。

だまって首を振って、間合いをあけて「なんのことですか」と返した。

東野はそういうのをスルーしない。俊敏な猫のようだ。

「なんのことですかはおかしいやろ」とやさしげな声ながらきちんと言うべきことは言って、木下は頭を下げる。空気が少し揺れて、そのまま進む。

松本の発言にフリーズして答えられないTKO

松本はもうひとつ重ねてくる。

「会見で、木本がしゃべって、あとから木下が出てきたという、あの二部構成は、あれは腹立ったかな」

TKOの二人はまた固まってしまう。

東野が「なんかいまももう、言い返す力もない……」と半笑いでTKOを見て「なんか言い返せや、おもってること」とうながす。

状況を言葉にして、なんとか進める。

でも木下は、いやいや、あれもぜったいに大事な、あ、はい…と歯切れが悪い。

東野が「木下が最初からいたら、ちょっとわかりにくい」と説明を加える。

でもそこでロンブー淳「別日じゃダメだったんですか」と再び別角度から切りこんでいく。

木下はだめですと答えるが、松本が二人一緒だからごじゃごじゃしたと言う。

松本「……コンビで高額な値段でペットボトルを売ったんかな、みたいな」

木下「混ざりすぎです」

淳「そこまでごちゃごちゃにはなってない」

東野が「1億5千個!」

こんどは淳と東野の立場が変わってる。

先に発言するほうがまず松本ボケにツッコんで、それに続くほうはボケを伸ばす方向でつなげる。

1億5千個というのは、木本の1億5千万円を踏まえた数字である。

瞬時に役割を変えて、そつなく流していくのが、たまらない。

「木本さん、多少、笑ってもいいとおもいますよ」

途中から木下ばかりが話して、横で木本は固まったままである。

それを見かねた東野が「木本さん」と声をかける。

「はい」

「多少、笑ってもいいとおもいますよ」

それを聞いて隣の漫画家・柴田亜美が崩れるように笑っている。

「もう一回」を成り立たせる東野の剛腕

そのあと、松本が「事務所は?」といまの二人の所属を聞く。

どうやらホームページで仕事を募集しているだけで、つまるところはフリーの芸人ということのようだ。

東野が「松竹芸能さんに戻るとかそういう声は……」話を続ける。

「木本さんは、ご自身で松竹芸能を…」

木本「やめさせてくださいと…」

東野「木下さんは…」

木下「あ、はい、やめてくださいと(と手で首を切る動作)」

みんなの笑い声が起こる。

司会者東野は「もいっかい」と言う。

このへんが東野幸治の真骨頂だ。ほんとうにもう一回、やり直す。

剛腕である。

東野「木本さんは?」

木本「やめさせてくださいって言いました」

東野「木下さんは…?」

木下「やめてください、と」

笑いで少し間を取って。

東野「…じゃあ、戻れない、よね」

木下「…こっから……これからですね」

東野「いやいやいや、あなたが言うべきじゃないでしょ」

冷徹にツッコんでいく。

冷徹なツッコミが、ちょっと恐ろしくもある。

フレンチブルドッグのいびき

最後のほうで東野は、松本さんに見て欲しい木下のユーチューブがあるんですけど、と言い出す。

木本がお金のことで問題になってから、木下が、相方のぶんも謝る動画を撮ったらしい。

東野「それが変な音がずっと聞こえているんですよ……何かなとおもったら、飼ってるフレンチブルドッグがいびきかいてるんです………」

木下を正面から見て

「なんでこれ、撮り直せへんの?」

木下は考え込んでるばかりで返事をしない。

東野がブルドッグのいびきを真似しはじめて「フーガー、フーガー、このたびはうちの相方木本が…フーガーフーガー」

松本「あかんな」

東野「これ、ダメでしょう」

木下はいちおう反論する。

「やっぱり一回ですよ、謝罪なんて」

隣の木本が心配そうな顔で、でも目つきだけは真剣に木下を見つめている。

「二回目の犬がいないバージョンはないです…いまのこの気持ちがすべてやとおもったんで、撮り直しはなしです」

淳の高い笑い声が入る。

東野「帰ってください」

木下「はあ?」

東野「帰ってください」

木下「帰ってください? こんな終わりかた?」

東野「TKOさんどうもありがとうございました」

これで終わった。

10時48分。ほぼ20分間であった。

終わらせかたもすごい。まさに剛腕。

東野幸治と松本人志が作り出す結界

20分見て、おもったのは、またTKOの二人を見てみたいな、ということである。

そうおもわせる20分であった。

松本人志と東野幸治とロンブー淳が囲んでそういう空気を作った。

私が見るに、これはやはり東野幸治が大きいだろう。

かれがすべての方向を決めていっている。

東野がきちんと仕切るから、松本は自由に喋る。

この日はロンブーの淳もいたから、松本人志は、かなりメリハリをきかせて(自然にボケを何度も出せて)、好きなように喋っていたとおもう。

それがずいぶんとやさしい空気を作りだす。

松本のおもしろさを見事に引き出すのが東野幸治である。

東野の剛腕が、松本のやさしさを引き出していると言える。

それにロンブー淳まで加わって、とても強い結界ができあがっていた。

TKOは結界内で、ときどきフリーズしながら、その味わいをしっかり引き出してもらっていた。

見応えのある20分であった。

コラムニスト

1958年生まれ。京都市出身。1984年早稲田大学卒業後より文筆業に入る。落語、ディズニーランド、テレビ番組などのポップカルチャーから社会現象の分析を行う。著書に、1970年代の世相と現代のつながりを解く『1971年の悪霊』(2019年)、日本のクリスマスの詳細な歴史『愛と狂瀾のメリークリスマス』(2017年)、落語や江戸風俗について『落語の国からのぞいてみれば』(2009年)、『落語論』(2009年)、いろんな疑問を徹底的に調べた『ホリイのずんずん調査 誰も調べなかった100の謎』(2013年)、ディズニーランドカルチャーに関して『恋するディズニー、別れるディズニー』(2017年)など。

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