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温故知新の相矢倉戦、藤井聡太挑戦者(18)は飛車と香車の二段ロケットに組む 王位戦第3局1日目終了

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 8月4日。兵庫県神戸市・中の坊瑞苑で王位戦七番勝負第3局▲藤井聡太棋聖(18歳)-△木村一基王位(47歳)戦、1日目の対局がおこなわれました。

 相矢倉から先手の藤井挑戦者は早囲い。そのまま藤井猛九段創案の「藤井矢倉」に進むのかとも期待(?)されましたが、途中からは別の進行となりました。

 33手目、藤井挑戦者が堅さよりもバランスを重視して、左側の金を5筋に上がります。木村王位の手番で12時30分、昼食休憩に入りました。

 さて、将棋めし研究家である小笠原輝さんのツイートによれば、近年の中の坊瑞苑での対局では、食事にうどんが必ず注文されるそうです。

 報道では、名物の肉うどんも紹介されました。

 本日、テレビのワイドショーに出演していた杉本昌隆八段(藤井挑戦者の師匠)は、弟子の昼食を肉うどんと予想していました。

 しかし本日昼は両対局者ともに、うどんの注文ではありませんでした。

 13時30分、対局再開。34手目、木村王位は攻めの銀を三段目に上がりました。

 盤面右側の端歩の突き合いのあと、藤井棋聖は三段目に香を浮きます。その下に飛車を回して「雀刺し」の構えが完成しました。いわゆる「二段ロケット」で、矢倉戦における攻撃態勢のバリエーションの一つであり、部分的には昭和の昔から指されている形です。

 対して「受け師」木村王位は、三段目の矢倉の銀を二段目に引いて動きに備えます。これも雀刺しに対する受けの形です。

 局面の部分部分を見れば、いつか、どこかで見た形です。しかしその組み合わせである全体を見ると、これはまさに現代最新の矢倉戦という感があります。

 本局1日目午後は、互いに慎重に駒組を進めてスローペース。かつての2日制のタイトル戦といえば、ほとんどはそうした進行でした。

 しかし現代では1日目の早い段階から勝負という雰囲気が感じられます。典型的な例は今期王位戦第1局。藤井挑戦者先手で角換わりから激しい変化に進み、挑戦者がかなりの差をつける結果になりました。

 41手目。藤井棋聖は角を出ながら2筋の歩を交換。両者の駒台に初めて持ち駒が乗ることになりました。

 夕方の対局室。次第に西陽が差し込み、盤上の駒が影をつくるようになりました。

 17時5分頃。木村王位が盤側の観戦記者に声をかけます。担当者が呼ばれ、カーテンが閉められました。

 木村王位は角を引いて藤井棋聖の角にぶつけます。対して雀刺しに組んだために自陣に角打ちのスキが生じている藤井棋聖は、じっと角を逃げます。

 木村王位が46手目を考慮中に、時刻は18時となりました。腕時計をじっと見つめていた立会人の淡路仁茂九段が声を発します。

「木村王位、次の手を封じ手にしてください」

 18時を過ぎ、封じ手をすることが決まったあとも、対局者は考え続けることができます。いかにも中盤の難しそうなところ。木村王位は左手を目にあて、考え続けます。

 18時4分。木村王位は記録係の井田明宏三段に声をかけます。

木村「全部でどれぐらい使ってますか?」

井田「全部で3時間と25分です」

木村「はい」

 

 18時12分。木村王位は再び尋ねます。

木村「何分考えてますか?」

井田「31分です」

 少し間をおき、上を見あげたあと、木村王位は盤側を向いて「封じます」と告げました。

 持ち時間8時間のうち、1日目の消費時間は藤井4時間12分。木村3時間34分でした。

 木村王位は別室で封じ手を記入して、封筒に入れます。いつもであれば封じ手は2通作られるところ、本局ではチャリティのため、第2局に引き続いて3通作られました。

 対局室で藤井挑戦者が封筒にサインをし、木村王位が封筒を淡路九段にあずけて、1日目が終了しました。

 形勢はほぼ互角。筆者手元のコンピュータ将棋ソフト「水匠2」は46手目、銀を立って銀冠に組む手を予想しています。

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 明日2日目は封じ手が開封されたあと、午前9時から対局が再開されます。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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