教員は不満だらけの「1人1台端末」の現場事情
「端末が壊れすぎて、授業に支障がでています」と、都内公立小学校の教員が語った。文科省も教育委員会も「1人1台端末を前倒しで実現」と胸を張っているが、はたして学校現場の現状はみえているのだろうか。
| 1人1台が成立していない
文科省がGIGAスクール構想で打ち出した、児童生徒全員に1台のICT端末を持たせる「1人1台端末」は、新型コロナウイルス感染症の拡大を追い風に、2023年度だった目標が前倒しされて、2021年度末にほぼ実現された。この1人1台を活用を加速することで「令和の日本型学校教育」の実現を目指すと、文科省は意気込んでいる。
12月11日に開かれた中央教育審議会の義務教育の在り方ワーキングループにおいて資料として配付された「義務教育の在り方ワーキンググループ 中間まとめ(案)」でも、「1人1台端末を『ほぼ毎日』又は『週3回以上』授業で活用しているなど、地域や学校等によって差は見られるものの、端末の日常使いは着実に進んでおり、学校における学びの有り様が大きく変化しつつある」と述べられている。1人1台が活用されている、というのだ。
しかし実際には、「端末の日常使い」は困難を極めている。冒頭の教員が続ける。
「修理を依頼しても戻ってくるのに1ヶ月も2ヶ月もかかってしまう状況です。必要に応じて私の端末を使わせたりもしますが、こちらも使わなくてはならないので、子どもも私も不便で仕方ありません」
これが1人の生徒だけのケースなら対処の仕方もあるが、問題は、珍しいことではないということだ。教員は「故障が多すぎて、1人1台が成立していません」といって、さらに続けた。
「カメラが故障していても修理にだすと戻ってこないので、そのまま使わせます。キーボードで反応しないキーがあれば、画面キーボードを表示させて間に合わせます。こういったことが頻繁にあるので、その対応を指示するだけでもたいへんです。私にも子どもたちにも大きな負担だし、授業にも支障をきたしています」
そういうときのために、学校や教育委員会には予備機が用意されているのではないだろうか。用意されていなければ、おかしい。その予備機を使わないのか、と訊ねてみた。
「壊れる端末が多すぎて、予備機も出払ったままです。予備機を申請しても、まったく届きません」
文科省によれば端末配備は完了しているはずなのだが、故障が多すぎて実現できていないのが実態のなのだ。その対応に時間を割かれることで、教員の多忙に拍車をかけることにもなっている。
| なぜ子どもが〝罰〟を?
こういう状況は、この教員の学校や地域だけの話なのだろうか。そこで、別の公立小学校の教員にも確認してみた。
「画面が割れる、充電できない、キーボードが反応しない、そんことが毎月、複数件起きています。故障が起きない月はありません。教育委員会に予備機を申請しても、『出払っていて、ありません』という返事が戻ってくるだけです」
実質的に1人1台が実現できない状況、教員や子どもたちの負担を増やしている実態は、特殊なことではないのだ。さらに、彼が続ける。
「教員も使わなくてはならないので、自分の端末を貸すわけにもいかない。結局、端末が壊れてしまった子どもは、ただ授業を眺めているだけになります。まるで、壊した〝罰〟をうけているような光景です」
自分で壊してしまったのだから使えなくても仕方ない、という見方もあるかもしれない。それに、彼は猛然と反発する。
「子どもだから、キーボードを叩くのに力がはいりすぎたり、誤って落とすことだってあります。壊そうとおもって壊しているわけではありません。そんなことは、子どもたちに端末を配布する前からわかりきっていることで、それに備えてじゅうぶんな予備機を用意したり、迅速な修理体制を整えておくのは当然のことです。それを怠ったために、授業に支障がでたり、子どもに〝罰〟を与えるようなことにまでなっている。ほんとうに腹立たしい」
1人1台端末が達成されたことを前提に、文科省は端末利用を学校現場に強くもとめている。しかし実質的な1人1台端末が実現されていない状況では、それは教員と子どもたちに余計な負担を強いることにしかならない。
来年度には、1人1台端末の更新が本格的に始まる。そのとき、いや、いまから、じゅうぶんな予備機の確保、迅速な修理体制の整備くらいは急がなくてはならない。そうでなければ、1人1台端末が教員や子どもたちに重い負担をもたらしている現実は加速するばかりだ。なんのための1人1台端末なのか、わからなくなっている。