北朝鮮の大学で封印された「禁断の講義」の中身
北朝鮮の東海岸、江原道(カンウォンド)の元山(ウォンサン)にある鄭準沢(チョン・ジュンテク)経済大学は、国家の経済を支える専門家を育成する名門大学だ。
鄭準沢とは、兵庫県の三菱鉱業生野鉱山の穿孔技士として働き、1943年から黄海道(ファンヘド)谷山(コクサン)の鉱山で勤務、1945年11月からは北朝鮮行政局産業局長となった人物だ。故金日成主席の信任を受け、その後も経済担当の様々なポストを歴任、1970年11月にテクノクラート出身として初めて朝鮮労働党政治委員会候補委員に登りつめた。
学生はエリートだけあって、教授への質問も鋭い。しかし、最近ではそれができなくなっていると、江原道のデイリーNK内部情報筋が伝えた。
大学の教授陣は最近、講義の時間中に学生の質問を避けたり、質問するのを妨げたりしている。それはこのような経緯からだ。
学生たちは、社会主義計画経済と資本主義市場経済を比較学習していた。そして経営学部2年のある学生が、教授にこのような質問を投げかけた。
「社会主義計画経済は国がすべてを掌握し行うシステムだが、国が配給を行わないため、今のような食糧難となっている。一方で資本主義の経済システムは、市場を中心に運営されて、個人が働いた分だけ賃金を受け取る。資本主義経済の論理がより合理的ではないか」
しかし、教授はこのように叱りつけるばかりで、答えようとしなかった。
「そのような質問そのものが間違っている。間違った勉強をしている」
それを見た学生たちは「教授が答えられなかったことは、結局、資本主義市場経済のほうが合理的だということを認めた形ではないか」とささやき合っている。
彼らは大学で、自国の計画経済が資本主義市場経済より優れていると学ぶが、北朝鮮の人々は食べ物に困っているのに、韓国や他の国の人々は豊かな生活をしていることを、韓流ドラマなどを見て知っている。だから、疑問を持たざるを得ないのだと情報筋は説明した。
教授とてそんな現実を知らないわけがない。しかし、それを公の場で認めるのは非常にリスキーだ。反体制派の烙印を押され、社会から抹殺される危険すらある。
(参考記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面)
「教授たちはこの社会で生きている限り、学生の質問に下手に正直に答えたら、政治犯にされかねない。だから答えを避け、質問もできなくする。社会主義計画経済に問題があると考えていても、公の場でそんな発言はできない、教授たちはさぞやもどかしいだろうか」(情報筋)
計画経済には様々な形があるが、北朝鮮のものは、旧ソ連で採用されていた中央集権的な司令型と呼ばれるものだ。中央の国家計画委員会が、どこの工場で何をどれだけ生産させるかをすべて決めるのだが、天変地異や消費者の嗜好、原材料や予算の不足などは一切考慮されない。人間の営みを無視した計画経済は破綻し、もはや北朝鮮以外の国では採用されていない。
北朝鮮でも1990年代以降、なし崩し的に市場経済化が進んできたが、あくまでもタテマエは社会主義計画経済だ。当局は、計画経済をメインに据え、市場経済は補助的な役割にする体制に戻そうと画策しているようだが、各地で混乱が起き、人々は極度の生活苦、食糧難に追いやられている。