金正恩「拷問部隊」家族への暴力多発…険悪化する北朝鮮世論
北朝鮮の社会安全省(警察庁)は今年2月、朝鮮労働党、政府機関、安全部(警察署)、保衛部(秘密警察)の幹部に対して暴力を振るったり、貶める目的で文章をばら撒いたり、落書きをしたりする行為を反体制策動として厳罰に処すように布置(布告)を出した。
最近になって幹部本人のみならず、その家族に対する暴行も、厳罰の対象にするように範囲が広げられた。その背景に何があるのか。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。
(参考記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面)
平安北道(ピョンアンブクト)の情報筋は、9月28日に行われた人民班(町内会)の会議で、「司法機関幹部の家族を暴行しても反党的行為として懲罰する」との内容が地域担当の安全員(警察官)から伝えられたと述べた。朝鮮労働党や政府機関より安全部、保衛部などの司法機関に重点が置かれている。
咸鏡南道(ハムギョンナムド)の情報筋も、高原(コウォン)郡内の人民班の会議で、同じ日に同じ内容が伝えられたと述べ、その理由について説明した。
「当局が党幹部よりも司法機関幹部の家族を暴行したり暴言を吐いたりする行為を厳罰するよう指示したのは、保衛部や安全部に恨みを持つ住民が多いから」
北朝鮮は、新型コロナウイルスのパンデミックを受けて、2020年1月から3年半以上にわたって、国境を封鎖し、貿易を停止させた。それにより、北朝鮮は深刻な物資、食糧不足に陥った。
そのせいで、強盗、性売買、児童誘拐など、なんとかして生き残るための「生計型犯罪」が急増した。政府は生活対策を行わず、社会への締め付けを強化した。国が認めた市場のショバ代を払えないほど困窮している「イナゴ商人」(露店を開く零細商人)への取り締まり強化がその一つだが、直接手を下す安全員への人々の恨みは激しく、現場で抗議の声が上がることもしばしばあった。
北朝鮮政府は同時に、反動思想文化排斥法、青年思想教養法、平壌文化語保護法などを制定し、韓ドラを見て、韓国風の言葉遣いをする若者への締付けと思想教育を強化した。取り締まりの担当は拷問を多用する保衛員(秘密警察)だが、それに対する恨みも激しい。
そして、その恨みは安全部や保衛部の要員と幹部、そしてその家族に対する暴力として現れる。
昨年8月、邑(郡の中心地)担当の保衛員の25歳の息子が昼間に自転車に乗っていたところ、どこからか石を投げられ頭部に重傷を負った。安全部が捜査に乗り出したものの、結局犯人逮捕には至らなかった。
この手の犯罪は以前から多発しているが、昨今の生活苦、締め付け強化への不満で増加しているようだ。なお、安全部や保衛部は秘密裏に世論調査を行っており、全国的に体制に対する評価が否定的であるとの結果が出たと伝えられている。
情報筋は「当局は根本的な問題を解決せず、司法機関の幹部の家族に対して暴力を振るったり暴言を吐いたりする人を人を暴徒扱いして厳罰にするよう指示して、住民の恨みはさらに深まっている」と述べた。
また、安全員や保衛員の家族と下手に付き合うと監獄行きだと、布告を冷笑する反応も広がっているとのことだ。このままでは彼らが孤立に追い込まれかねない。助け合わなければ生きていけない北朝鮮で、孤立ほど恐ろしいものはないだろう。
結局、北朝鮮という体制は、誰も幸せにできないのだ。