パートやアルバイトは増加続く…非正規社員の現状
労働市場に関して注目を集めている事象の一つが非正規社員問題。労働形態の変化や高齢化、女性の就労による共働き世帯の増加など、多様な社会情勢の動きと深い関係がある。総務省統計局が2月に発表した、労働力調査の最新結果などから現状を確認していく。
次に示すのは雇用形態別で区分した、非正規の職員・従業員(非正規社員、非正社員)の人数推移。数年前に「派遣叩き」が世論、そしてそれに後押しされる形で各種法規制によって行われ、多業種の企業は派遣社員を敬遠する傾向にある。
最新データが公開された2014年分においては、景況感の回復基調が高まり企業側による労働リソースの需要が拡大する一方、コスト増への懸念や必要な労働力の柔軟化(、加えて閑散期と繁盛期の差が大きい第三次産業比率の拡大)の動きが見受けられる。また主婦をはじめとした就業時間の柔軟性の高い点を評価した上での需要拡大と、正規雇用が困難な事例が増えている昨今の労働市場の状況が加速する形となり、主要な非正規社員の項目すべてで前年から人数は増加している。特にパート・アルバイトの増加が著しい。
その上、団塊世代の定年退職や早期退職制度適用者による非正規社員としての再雇用の機会が多数創出されている。これもまた、非正規社員数を大きく底上げしている。
派遣社員の減少は「派遣叩き」の影響が出始め大きく値を減らした2009年、そして2010年と続き、ようやく2011年にはプラスマイナスゼロの領域まで回復した。この期間には同時に「パート・アルバイト」「契約社員・嘱託」が増えているので、単に労働力が過剰で非正規社員が減らされたのでは無く、「派遣社員がバッシングで雇用しにくくなったのなら、同じような作業はアルバイトや契約社員に任せよう」との意図を企業が実践していたことが分かる。
直近となる2014年では2013年ほどの大幅増加ではないものの、非正規社員は増加を示し、雇用者全体の数を底上げしているが、代わりに正社員は減少している。年齢階層別に詳細を見ると、若年層では正社員数が増え、中堅層以降では正社員は減り、それ以上に非正規社員数が増加していることから、中堅層以降、とりわけ高齢層の退職と非正規としての再就職、さらには中堅層以降の女性によるパート・アルバイトによる就労機会の増加が、非正規社員数の増加をもたらした主要因と見ることが出来る。
2014年時点では雇用者全体の62.5%が正社員(・正職員)、残りがパートや派遣、契約などから成る非正規社員。ただし上記グラフにある通り、この値は兼業主婦によるパート・アルバイトが多分に含まれていることに注意しなければならない。
単純に非正規社員の割合が増加の一途をたどっているように見えるが、先の実数のグラフと照らし合わせると、景気後退の影響が出る2008年までは「正社員数は横ばいか微減」「非正規社員は増大」との構図、言い換えれば企業は「景気拡大期は非正規社員の増加で、業務拡大に対応していった」のが大きな流れであることが分かる。ちなみに「派遣社員制度叩きで正規雇用を求める動き」と、「不景気で雇用調整が行われ、正規社員が減る時期」「不景気に加えて派遣叩きの世論で派遣市場が縮小する時期」、さらに「パートやアルバイトの増加時期」はほぼ一致する。
現在は景気後退・低迷期からようやく景況感が回復しつつあるが、労働市場の内部構造の変化は続いており(第三次産業比率の増加もその一要素)、効率的な企業経営の中で正社員が必要とされるポジションが増えることは無く、柔軟性に富んだ非正規社員の需要が増加している。
また、定年退職者や早期退職制度の適用、リストラによる中途退職者の増加も、昨今の労働市場においては重要な要素の一つ。繰り返しになるが、非正規社員の増加数では若年層よりはるかに多い中堅層以降の増加が確認されている。とりわけ高齢者と中堅層女性の増加が著しく、小売業などでの女性のパート・アルバイトの需要、定年退職者の再雇用が大幅に増加したものと見れば道理は通る。
非正規社員の増加、雇用者全体に占めるシェアの増加の実情は上記にある通りで、労働市場の変化の表れの一側面に違いない。一面的な数字のみにとらわれ、非正規社員の生活の不安定さを考えれば、正社員の増加を求める声が増すのも当然の動き。
一方で上記の各種データにある通り、非正規社員そのものの構成や増加分の多分が、兼業主婦のパートやアルバイト、定年退職者や中途解雇者による中堅層以降の再雇用から成る事実も認識する必要がある。正しい状況を把握せずに、全体的な、表面的な数字だけを振りかざして、バッシングの機運を高めれば、数年前の派遣叩きとその結末同様の愚が繰り返されてしまうことになる。
「木を見て森を見ず」的な判断を下さないよう、心から願いたいものだ。
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