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アメリカの出生率はどのような状況なのか

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
↑ アメリカを支える出生率の高さ。その内情を探る

人口問題や少子化の対策が考察される際、海外の参考事例としてアメリカ合衆国(以下アメリカ)が注目を集める場合が多い。元々ヨーロッパからの移民などで建国された特殊環境も一因だが、多様な民族によって構成され、移民政策に関してはオープンな部類に区分される国であり、先進諸国の中では珍しく人口が増加する傾向にある。一方そのアメリカでも昨今、これまでの状況・傾向に変化が生じている。今回は同国の公的データを基に、出生率(合計特殊出生率)に関して、主要人種別の動向を確認していく。

まず「合計特殊出生率」という言葉の定義。これは「一人の女性が一生のうちに出産する子供の平均数」を意味する。単純計算でこの値が2.0なら、夫婦2人から子供が2人生まれるので、その世代の人口は維持される。値を算出する際には各年齢(世代)の女性の出生率を合計する。ただし実際には多種多様なアクシデントによる人口の減少があるため、人口維持のための合計特殊出生率は2.00では無く、2.07から2.08といわれている(これを「人口置換水準」と呼ぶ)。

次に示すのはアメリカの疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention、CDC)内にある人口動態統計レポート(National Vital Statistics Reports)から、人種別の合計特殊出生率(Total fertility rate)の各年データを逐次抽出し、グラフとして生成したもの。2013年分の値は現時点で2013年分のレポートが途中段階のみの公開なため、肝心な合計特殊出生率は見つからず、最新値は2012年分となっている。直近5年間の動向はやや詳しい形で別途描き起こした。なお日本では2012年時点で1.41を示している。

↑ アメリカの合計特殊出生率(1998年-2012年)
↑ アメリカの合計特殊出生率(1998年-2012年)
↑ アメリカの合計特殊出生率(2008年-2012年)
↑ アメリカの合計特殊出生率(2008年-2012年)

緩やかな動きを示していた合計特殊出産率だが、2007年から2008年を境に、どの人種においても明らかに漸減しているのが確認できる(アジア・太平洋諸国はやや持ち直しの機運もあるが、それも大きな戻し方では無い)。不景気における出生率の低下については、元々全体の出生率を引き上げているヒスパニック系の値が、不景気時の出生率の減少も著しいからとのレポートも出されているが(「U.S. Birth Rate Decline Linked to Recession」)、中長期的な要因としては直接連動しない。

この減少理由については諸説があり、そしてそのいずれもが単独で断定できるだけの理由とは成りえない。社会現象は多くの場合、多様な要因の結果生み出されるものであるからだ。しかし2012年に公開されたブルームバーグのコラム記事「米国での出生率低下、その脅威とジレンマ」は、その主要因として十分納得のいくだけの説得力を持つ内容を記している。

そのコラムでは具体的にアメリカの出産率の低下理由として、「女性は自分たちの妊娠出産について、歴史上かつてないほどの力を手に入れている」「かつて子育て支援の役割を担っていた家族や地域社会の強い絆は、産業化や都市化によって断ち切られている」「女性を取り囲む経済状況は大きく変わっている」とした上で、「多くの女性にとって、子どもは最も喜ばしく、最も贅沢な消費財というのが真実(中略)彼らは時間的にも金銭的にも高くつくため、中高所得社会では少なからぬ寂しさとともに、欲しいだけの子どもを持つ余裕がないとあきらめる女性が増えている」と説明し、金銭的余裕の欠乏から、子供を持つことをあきらめる、見方を変えれば「経済的な理由による少子化が進んでいる」と説明している。

つまりアメリカの出生率低下の原因は、いわゆる「先進諸国病」の症状の一つというものである。具体的には、経済的・文化的レベルが上がると、養育費は累乗的に増加し、世帯への子供一人あたりの負担も相応に増えるが、世帯所得の増加はそれに追いつかない。結果として、経済上まかなえる子供の数は減るというものである。この理論に従えば、上記の「不景気における(ヒスパニック系の)出生率低下」も道理が通る。

「経済的要因による少子化への動き」は、日本国内でも複数の調査結果から裏付けられている。例えば国立社会保障・人口問題研究所が発表した「第14回出生動向基本調査」でも、「欲しいと思う子供の数」まで子供を持たない理由の最上位には「子育てや教育にお金がかかりすぎる」という回答が出ている。

↑ 妻の年齢別に見た、理想の子供数を持たない理由(2010年)(予定子供数が理想子供数を下回る夫婦限定、複数回答)
↑ 妻の年齢別に見た、理想の子供数を持たない理由(2010年)(予定子供数が理想子供数を下回る夫婦限定、複数回答)

数年前までは他の先進諸国における合計特殊出産率の低さを、対岸の火事のように見つめているだけだったアメリカだが、今や他国と同じ立場に位置している。日本とは文化的な事由をはじめ諸条件が異なるため、一概に同じとは言い切れないが、検証とその結果を施策に活かす意味でも、日本国内の動向と共に、状況分析が求められよう。

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「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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