なでしこジャパンへの心ないツィート 愛国とナショナリズムを騙る「無知」
バンクーバーで行われたサッカーの女子ワールドカップ(W杯)の決勝で、2連覇を狙った日本は米国に2―5で敗れ、準優勝に終わった。米国はハットトリックを決めたロイドを筆頭に身体能力、技術、戦術すべての面で日本を上回っていた。
グラウンダーの力強いパスをパシっ、パシっとつないでいく米国に対し、なでしこジャパンは意味もなくボールを浮かせて、処理に手間取った。いつもは機敏に連携しているなでしこジャパンだが、米国の動き、ボール回しのスピードにまったくついていけなかった。
センターサークルから放ったロイドのロングシュートは圧巻というほかない。なでしこは準決勝でイングランドを破るなど大健闘した。しかし、米国のソーシャルメディアでは「パールハーバー(真珠湾)」や「ヒロシマ」「ナガサキ」と結びつける心ないツィートがあふれた。
シンガポールを拠点に英BBC放送で活躍する大井真理子さんは以下のツィート。
米国内のツィートのトレンドには一時、「#USAvJPN(米国対日本)」と並んで「Pearl Harbor(真珠湾)」が入った。
「これは真珠湾のお返しだ」「日本は真珠湾を破壊した。今度は米国が日本の夢を破壊した」というツィートのほかに、長崎や広島への原爆投下に言及するツィートもあった。1万回以上リツィートされ、1万6千人以上にお気に入り登録されたつぶやきもあった。
上の連続ツィートは第二次大戦になぞらえ、米国女子チームがドイツ、日本を撃破したことに便乗してナショナリズムを無用に煽っている。米国も右傾化しているのか。
保守派の草の根運動「茶会党(ティーパーティー)」の支持動向をみると、米国の世論が右傾化しているとは一概に言えないことが分かる。
大手世論調査会社ギャラップで茶会党の支持者は2011年には30%に達したが、最近では19%に急落している。ツィートの中には、日本への心ない書き込みをたしなめる良心派も含まれていた。
今年は第二次大戦の終戦から70年。戦前・戦中生まれの人口が減り、実体験がないことから戦争のコンテキストをスポーツに使うことにためらいを覚えない世代が増えたことが原因か。
米国と日本の年齢階級別の人口構成をグラフにしてみた。
米国の70歳以上人口は全体の9%、20歳未満人口は27%。一方、日本の70歳以上人口は全体の18%、20歳未満人口は18%である。
日本に比べ、米国では第二次大戦の生々しい記憶は全体として薄れているといえるかもしれない。しかし、こんなデータもある。少し古くなるが、2009年に海外旅行した米国人は全体の約3.5%に過ぎなかった。
12~13年度に海外留学したのは米国の全学生のたった1%。米国人にとっては米国が世界だが、世界にとって米国は世界ではない。
米国と日本が対戦した女子W杯の決勝に関連して、米国内で急上昇した「パールハーバー」や「ヒロシマ」「ナガサキ」のツィートは反日感情というより、完全なる「イグノランス(無知)」から来るものだ。
ナショナリズムや愛国を騙る「無知」は偏見と差別、嫌悪を撒き散らす。大手メディアは全体を見ず、一部だけを切り取って、誇張して伝える従来のステレオタイプ報道を止め、お互いの国の距離を縮める努力を怠ってはならない。
(おわり)