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40歳。家族同然のぬいぐるみを盗まれて、今でも悲しんでいます~40歳からの婚活入門(31)~

大宮冬洋フリーライター
東京駅前のカフェでビールを一緒に飲みながら話を聞きました(筆者撮影)

 40代、独身。孤独を感じることもあるが、周囲を見渡してみると自分と同世代の独身者もいるし、子育てを終えて次の生活を模索し始めた人もいる。肩を寄せ合えるパートナーを探すことが広義の婚活だとしたら、何歳からだって遅くはない。本シリーズでは、現代に生きる独身の40代の実生活と心情を聞き取り、筆者の考えを添える。同じ40代として、残りの人生を充実したものにするために。

***メディア業界のフリーランサー、西岡明美さん(仮名、40歳)の話***

「出産可能年齢までに結婚しなくちゃいけない」。就職活動と同じような気持ちでした

 4年前から一人暮らしをしています。姉がガンを患って働けなくなったからです。父は他界していて、80歳の母は介護施設にいます。以前に親とケンカをして実家を出たときは寂しくてたまらなかったけれど、今回の一人暮らしはまったく躊躇しませんでした。一刻も早く世帯分離をして実家の姉が生活保護を受けられるようにしなければ、医療費だけで共倒れになってしまうという危機感があったからです。必要に駆られると人間は変わるものですね……。

 結婚には前向きではありません。私は異性愛者ではあるのですが、特別な異性として誰かを好きになることがないのです。一般的には恋人のように付き合っている相手にも「男友達の中で一番仲がいいぐらいだよ」と伝えてしまったこともあります。

 でも、35歳ぐらいまでは「出産可能年齢までに絶対に結婚しなくちゃいけない」という焦りがありました。就職活動のときと同じような気持ちです。

 32歳のときに婚活サイトで知り合った4歳年下の外国人と「めちゃくちゃ話が合う!」とネット上で感じたことがあります。でも、実際に会ってみると話は盛り上がりません。そういうことはよくあるので一緒に旅行にも行ってみたのですが、やはりかみ合いませんでした。

 東日本大震災があり、その外国人の彼とは没交渉になっていた時期がありました。今思うと恋愛感情はなかったのですが、結婚に焦りがあったので震災後しばらくしてから連絡を取ってみました。すると、「ごめん。彼女ができたから会えない」との返事。フェイスブックでもつながっていたので、彼が結婚したことも知ってしまいました。

 なぜかめちゃショックで、自分のすべてを否定されたような気持ちになり、1週間ぐらい寝込んでしまいました。3年間ぐらいはその気持ちをひきずっていたように思います。

 ようやく立ち直った頃に、さらに気落ちすることがありました。子どもっぽく思われそうですが、私はぬいぐるみを可愛がる趣味があり、10体ぐらいを常に持っています。丸っこい動物のぬいぐるみが好きです。その中でも特に可愛がっていたニワトリがいて、どこにでも連れて行っていました。でも、旅行先で盗まれてしまったんです。20年ぐらい前から家族のように扱っていた子だったのに……。今でも暇なときはその子のことを思って悲しんでいます。

 今後、(永続的かつ性的な関係のある)パートナーを得て結婚、という将来は考えていません。一時の情熱で結婚することに恐怖感があるからです。他人と一緒に暮らすことは運任せの面がありますよね。自分でコントロールできないことが怖いです。

 興味があるのは契約結婚です。恋愛感情ではなく、家族的な感情をお互いに持てるような気の合う人とならば一緒に住めるかもしれません。そんな相手を見つけることはなかなか難しいのですが……。

***筆者より西岡さんへ***

相手からの気持ちや見返りを考え始めると苦しくなってしまいます

 西岡さんは家族や恋人といった親しい人間関係に悩むことが多いようですね。放っておいてほしいけれど孤独も避けたい。苦しくならない範囲で愛し愛されたい――。そんな「ちょうどいい」人間関係を見つけて維持するのは難しいですよね。だから、物言わぬぬいぐるみへの愛着が強いのではないでしょうか。

 僕もときどき「親しさって何だろう。自分には友だちがいるのかな?」と不安になったりします。親兄弟とはすでに別々の家族を作っているし、配偶者とはもともとは他人だし、「竹馬の友」みたいな親友もいないからです。そんなときは「自分が相手を好きならいいのだ。できることは何でもしてあげたい。そう感じる相手はみな友だちなんだ」と思うようにしています。相手からの気持ちや見返りを考え始めると苦しくなってしまいますからね。

 無償の愛とまではいかないけれど、「自分に余裕があるときならば助けてあげられる。健康でいてほしい」と思える人。その存在から自分も救われているのです。「私も血の通った人間なのだ」と実感させてもらえますからね。

 愛する対象は闘病中のお姉さんも含めて数人で十分だと僕は思います。気持ちが楽になれば、そのうちにパートナー候補となり得る他人と出会えるかもしれません。

フリーライター

僕は1976年生まれ。40代です。燦然と輝く「中年の星」にはなれなくても、年齢を重ねてずる賢くなっただけの「中年の屑」と化すことは避けたいな。自分も周囲も一緒にキラリと光り、人に喜んでもらえる生き方を模索するべきですよね。世間という広大な夜空を彩る「中年の星屑たち」になるためのニュースコラムを発信します。著書は『人は死ぬまで結婚できる』(講談社+α新書)など。連載「晩婚さんいらっしゃい!」により東洋経済オンラインアワード2019「ロングランヒット賞」を受賞。コラムやイベント情報が読める無料メルマガ配信ご希望の方は僕のホームページをご覧ください。(「ポスト中年の主張」から2017年3月に改題)

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