フィリピン人女性と結婚したら家族が拒絶反応。日本人の差別意識を感じました~スナック大宮問答集79~
「スナック大宮」と称する読者交流宴会を東京、愛知、大阪などの各地を移動しながら毎月開催している。味わいのある飲食店を選び、毎回20人前後を迎えて和やかに飲み食いするだけの会だ。2011年の初秋から始めて開催160回を超えた。のべ3200人ほどと飲み交わしてきたことになる。
筆者の読者というささやかな共通点がありつつ、日常生活でのしがらみがない一期一会の集まり。参加者は30代から50代の「責任世代」が多い。お互いに人見知りをしながらも美味しい料理とお酒の力を借りて少しずつ打ち解けて、しみじみと語り合えている。そこには現代の市井に生きる人の本音がにじみ出ることがある。
その会話のすべてを再現することはできない。参加者と日を改めてオンラインで対話をした内容をお届けする。一緒におしゃべりする気持ちで読んでもらえたら幸いだ。
***コウヘイさん(仮名。バツイチ独身、48歳)との対話***
1976年生まれの氷河期世代。ゴーイング・マイ・ウェイでどこかしら虚無的
――コウヘイさんと僕は1976年生まれの同い年です。(東京の)中央線カルチャーが好きだという共通点もあり、親近感を覚えました。スナック大宮にも初参加なのに常連感が出ていましたよ。
僕も大宮さんの記事を読んでいてワードチョイスからにじみ出ている味わいを感じています。76年生まれというと氷河期世代、ひろゆきさんやV6の井ノ原さんなんかがいますね。なんとなくゴーイング・マイ・ウェイで、どこかしら虚無的な人が多い気がします。ブームなどにいつも乗り切れなかったり……。新卒就職先はブラック企業でのパワハラがデフォルトで、やっと乗り切れたら部下からはハラスメントと言われちゃうような世代です。
――「貧乏くじ世代」なんて言われたこともありますね。それだけに世の中への期待が少なく、生活面でも仕事面でも自分なりの試行錯誤を続けられる気がします。僕もコウヘイさんと同じくバツイチですが、再婚相手の都合で愛知県の三河地方に移り住みました。田舎的な人間関係が肌に合っているのか、とても居心地がいいです。妻からは「あなたは三河で花を咲かせたね。とても小さな花だけど」と笑われています。
僕たちの世代は第二新卒みたいな人も多いですよね。僕もその一人で、東京の私立大学を卒業してからは就職せずに2年ほどモラトリアムを過ごしていました。カナダや韓国に滞在したのもその頃です。
大学という就職先を見つけたのは24歳のときです。海外にある機関への出向なども経験しましたが、籍はずっと同じ大学にあります。
――学校の教員ではなく職員というのは乙な職業選択ですよね。長く働いている人が多い印象です。
そうですね。親子二代で同じ大学の職員をしているケースも少なくありません。基本的にホワイトな職場です。
いわゆる事務員なので、決められたことを間違いなくやれる安定志向の人が向いています。企画職向きの僕は本流ではありません。僕が手掛けてきたような国際(海外の大学との提携など)や広報などはかつての大学にはなかった仕事です。人によっては「何をやったらいいのかわからない」と困るでしょう。僕は今までなかったような業務に取り組むことに適性があると思っています。
「フィリピン人と結婚できるならアフリカ人でもいいのか」という父の差別意識
――組織の本流ではないけれど必要な存在。いいポジションですね! 話は変わりますが、コウヘイさんの結婚と離婚について教えて下さい。
出会いはフィリピンのセブ島への旅行です。レストランの手伝いに来ていた前妻と知り合いました。現地では、タガログ語ではなく英語が使える日本人が「ちゃんとした人」だとみなされるようです(笑)。
僕が26歳の頃だったので彼女はまだ18歳。お互いに若かったですね。しばらくやり取りをしていて付き合うようになり、日本に来てくれた彼女と結婚することになったのが31歳のときです。僕は子どもが欲しかったので彼女との結婚を後悔はしていません。息子が無事に大きくなった今では最適な判断だったと思っています。
――失礼な言い方かもしれませんが、東京育ちで私立校出身で大学職員でもあるコウヘイさんは婚活市場的にはハイスペックです。清潔感があってコミュケーション能力も高いですし。国際結婚に親から反対されませんでしたか?
されました。特に父と妹は大反対。父からは「なぜ(以前の留学先で)カナダ人と結婚しなかったのか。フィリピン人と結婚できるならアフリカ人でもいいのか」などとわけのわからないことを言われました。欧米人の下に日本人を置き、その他の外国人を下に見るような差別意識は根強いのだなと感じた出来事です。
――そんな家庭からフラットな感覚のコウヘイさんが生まれ育ったのは興味深いですね。離婚理由は何だったのでしょうか。
生活感というか金銭感覚が根本的に合わなかったことです。彼女もクリーニング会社で働いたりしていたのですが、家にあるお金をすべて使ってしまうタイプでした。それが原因で別れましたが、息子のことは今でも2人で面倒をみています。息子と一緒に暮らしているのは前妻ですが、保護者会や三者面談、塾、部活動などは僕が担当。息子には日本文化のベースがどうしても足りないので、成長するにつれて僕がフォローするべきことが増えています。
――再婚したい気持ちはありますか?
子どもが欲しいから結婚したようなものなので、48歳の今から再婚して新たに子育てをするイメージがわきません。可能性を閉じているわけではありませんが、差し迫ったものがないというか……。
女友だちは多いほうなので、食事に行ったりはしています。友だち以上で恋人未満の関係が複数ある状態です。でも、全員独身ですよ。僕は不倫には縁がありません(笑)。
*****
その酒場で「ナンバーワンの客」を目指すという遊び。コウヘイさんにはおすすめです
以上がコウヘイさんとの対話内容だ。キャリアカウンセラーの資格があり、朝活などのコミュニティにもよく参加しているという彼にスナック大宮の感想を聞いたところ、「居心地の良さと商売気。そのバランスがほど良い」という嬉しい評価をもらった。確かに、高額商品を売りつけるようなコミュニティは居心地が悪い。かといって商売気がまったくなかったら全国各地での毎月開催はできない。筆者に多少の利益は残るように会費を設定し、自著の手売りもさせてもらっている。
コウヘイさんのように言語化はできなくても、このバランスを重視している参加者は多いはずだ。今後のスナック大宮運営の参考にして、気を引き締めたい。
逆に、筆者からコウヘイにおすすめしたいことがある。スナック大宮を含む酒場で「ナンバーワンの客」を目指すという高度な遊びだ。金払いがいいだけではナンバーワンにはなれない。店員や他の客にそれとなく気を遣いながら、自慢でも愚痴もない話題で寛ぐこと。店主や主催者から見ると、その人の周辺は灯がともるように温かい雰囲気になっている。ギャラを払いたくなるほどありがたい客。それがナンバーワンだ。
この遊びを続けていると、酒場つながりでもいい友人ができたりする。また、「あの素敵な人を超えられるような自分になろう」と思える常連客を見つけられたりして、成長の機会にもなる。そんな客が集う酒場でなければ通う価値がないので、酒場選びの目も自然と養われる一石二鳥の遊び方だ。素質十分のコウヘイさんにはぜひ実践してほしい。