地方私大の公立化ドミノ~19自治体・1631億円投資の損得勘定
◆長浜バイオ・千葉科学・九州看護福祉・美作の4校が公立化を要請
地方私大からの公立化要請が続いています。
長浜バイオ大学(滋賀県長浜市)が2023年7月、市に公立化を求める要望書を提出しました。
その後、千葉科学大学(千葉県銚子市)が2023年10月、2024年1月には九州看護福祉大学(熊本県玉名市)、2月に美作大学(岡山県津山市)が、それぞれ公立化の要望書を自治体に提出します。
他に、東北公益文科大学(山形県酒田市)も自治体側が公立化に前向きです。
今後も複数の地方私大が公立化転換を検討しているようです。
さながら、公立化ドミノ現象が起きていることになります。
◆私大の公立化は2009年が初
私大の公立化は2009年の高知工科大学が最初のケースとなります。
高知工科大学は1997年開学、工学部のみの単科大学でした。
1991年の高知県知事選で当選した橋本大二郎知事(1991年~2007年)の大学設置構想に端を発します。
知事の公約が形となって開学した高知工科大学は開学から2000年代半ばまでは定員超過で推移します。もっとも、地方私大で人気はそこまで高くはありませんでした。
これは、その後に公立化した11校も同じです。
次の表1は2009年・高知工科大学から2023年・旭川市立大学まで公立化した12校の2004年時点の偏差値・志願倍率・入学定員充足率です。
表1:公立化12校の2004年時点データ
『蛍雪時代臨時増刊 全国大学内容案内号2004』(旺文社)に記載の数値を筆者が集計・作成。
偏差値:河合塾
志願倍率:同書記載の数値
入学定員充足率:同書記載の定員・新入学生数から集計
偏差値は受験生からの人気があれば比例し、不人気で志願者が少なければその分だけ下がる、一番ひどいとBF(ボーダーフリー)がついてしまいます。
12校のうち、40超は1校のみ、BF(ボーダーフリー)が8校でした。
志願倍率は2倍超が目安。地方私大だと1.5倍超ならまだまし、と言われています。
12校のうち、2倍超は2校、1.5倍~2.0倍も1校のみ。残りは1.4倍未満が8校、非公表が1校でした。
2011年に文部科学省が情報公開を義務化するまでは、倍率や入学者数、就職者数などの基礎データを隠すことが地方私大でも難関大でもそこそこありました。倍率や入学者数を隠すのは、要するにそれだけ酷かったことを示しています。
入学定員充足率は、定員が充足していれば100%超となります。80%~90%台ならまだ挽回できるレベル、70%台だとしんどく、60%を割ってくるとかなりしんどい状況になります。
12校のうち、100%超は5校、90%台が3校、70%台が1校、50%台が1校、情報非公開が2校(推定で60%未満)でした。
まとめますと、公立化した12校は、公立化する前は学生集めに苦戦していた大学が多かった、と言えます。
◆公立化後は12校とも人気に
では、公立化した12校はその後、どうなったのか、まとめたのが次の表2です。
表1と同じく偏差値・志願倍率・入学定員充足率について、公立化の前年、1年目と2023年のデータをまとめています。
表2:公立化12校の経年変化データ
『蛍雪時代臨時増刊 全国大学内容案内号』(旺文社)の各年度版に記載の数値を筆者が集計・作成。2023年の偏差値は河合塾サイト記載のもの。
公立化前年・公立化1年目は各大学により異なる。
→例)高知工科大学は公立化が2009年なので公立化前年が2008年、公立化1年目が2009年。
偏差値:河合塾
志願倍率:同書記載の数値
入学定員充足率:同書記載の定員・新入学生数から集計
2023年偏差値の長岡造形大学、福知山公立大学は記載なし。長岡造形大学は共通テスト得点率が60%~71%、福知山公立大学は同・55%~70%。
偏差値は私大と公立大で単純比較はできませんが、それでも12校全て上昇しています。
志願倍率は公立化1年目だと最低でも2.7倍。10倍超が7校あり、最高は福知山公立大学の33.4倍でした。
入学定員充足率は12校全てが100%超となっています。
2023年時点でも、偏差値が45.0以上となっているのは9校、志願倍率も2倍超が10校。入学定員充足率は11校が100%超でした。
これらのデータから、学生集めという点では公立化はその効果が十分にあった、と言えます。
◆公立化のメリットは自治体負担がほぼゼロ(という誤解)
2009年の高知工科大学から現在まで12校が公立化しています。
※12校の他に私立短大・専修学校が公立化した事例としては公立小松大学がある。同大学は公設民営の小松短期大学とこまつ看護学校を再編・統合して2018年開学。
今後も複数の地方私大がこの公立化を検討しています。
では、なぜこの公立化ドミノが起きているのでしょうか。
その理由としては、「自治体負担が意外と低い」「学生確保で地方創生」「初期投資分がムダにならない」の3点が挙げられます。
1点目の自治体負担について。
意外かもしれませんが、公立大学に転換すると国からの地方交付税交付金を運営費に充てることができます。その分だけ授業料収入を抑制でき、志願者数が増えれば受験料収入が増えます。結果として公立化することで経営が安定します。
2018年5月31日読売新聞朝刊記事「私大、公立化で経営改善 本紙調査 授業料下げ志願者増」では、山口東京理科大学と長野大学の経営が好転したことに触れています。
私大時に毎年平均3億円程度の赤字が続いていた山口東京理科大は公立化した16年度、約1億3500万円の黒字を計上。17年度に公立化した長野大(長野県上田市)は私大時の10~12年度に最大1億1000万円の赤字だったが、公立化への準備が始まった15年度以降、黒字になった。
※前記、読売新聞記事より
ただし、後述しますが、私立大が公立大に転換すると自治体の負担がゼロ、というわけではありません。それは誤解にすぎません。
もっとも、これは2点目とやや重複しますが、地方私立大は立地の問題もあり、学生集めは苦戦しやすいです。その点、公立大になると、地域内だけでなく地域外からも「公立大だから」という理由から学生が集まります。
学生が集まれば授業料などもその分だけ増加しますし、しかも、地方交付税交付金が充てられるので自治体の負担はそこまで大きなものにはなりません。
2点目の「学生確保で地方創生」について。
大学は私立大、国公立大ともに自治体に対して固定資産税、法人個人税などを払うわけではありません。この点が企業誘致と大きく異なります。
それでも自治体が大学誘致による地方創生を期待するのは、若者人口が確実に増えるからです。
学生が定住すればアパート需要も伸びますし、飲食業なども需要増加が期待できます。
結果として地方創生につながります。
今まで不人気だった私立大でも公立化すれば、地域内外とも学生が集まります。そして、アパート需要や飲食需要なども伸びることが期待できます。
3点目の「初期投資分がムダにならない」について。
これはあまりメディアでは出てこない話ですが、自治体側にあえて厳しい点も挙げておきます。
次の表3は公立化12校について、自治体側の出資額、県内入学率、所在自治体の人口(県立の場合は市)、自治体1人当たりの出資額をまとめたものです。
表3:公立化12校の自治体の経年変化データ
自治体出資額の単位は億円。文部科学省資料並びに各メディア記載の数値/土地の無償提供などは含まない/周南公立大学・旭川市立大学は不明
県内入学率は文部科学省資料(同資料の地域内入学率ではなく都道府県内入学者と入学者数から計算して掲載/2023年データ並びに旭川市立大学・公立化前年については『大学の真の実力 情報公開BOOK』(旺文社)各年度版記載の県内入学率データ
負担額は設置自治体人口1人当たりの負担額。単位は千円/2023年部分は2022年のもの
人口は大学所在地の自治体のもの(県立の場合は市)
長野大学の7000万円を除くと多くの自治体は数十億円から100億円以上を大学設立のために費やしています。
タイトルの1631億円は、公立化転換の12校、公立化断念の2校、公立化検討中の5校、合わせて19校に対して自治体が費やした金額の総額です。
なかなかの金額であり、自治体が大学に対する期待がそれだけ大きいことを示しています。
もっとも、多額の資金を投入した大学が定員割れとなり、お荷物的な存在となれば、自治体の責任も問われることになります。
それが公立化すると、学生が集まり、「地方創生に成功した」とのアピール材料になるのです。
逆に、公立化せずに私立大で低迷したまま(最悪の場合は廃校)だと、今度は大学を誘致した首長や議会の責任問題になりかねません。
この責任問題がこじれると、首長・議員は最悪の場合、次の選挙で落選ともなりかねません。実際、過去には大学誘致を巡る問題で推進派の首長が落選した事例もあります。
ある意味、大学を誘致した首長・議員からすれば、低迷した私立大は「時限爆弾」も同然の存在です。
それが公立化によって「時限爆弾」は安全に処理されるだけではありません。自身の実績としてアピールできる材料にもなるのです。
しかも自治体の持ち出しはそこまでかからないわけで、平成版・打出の小槌、とまで言ったら言い過ぎでしょうか。
◆私大関係者からは「無責任」批判も
一方で、この公立化について否定的な見方もあります。主なものは「税金で私大救済をしていいのか」「経営に失敗した責任を取らないのはおかしい」の2点です。
前者(税金による私大救済)については、公立化した後に税金を投入するわけで、使い道としておかしいとの批判です。これは主にネット上でよく出るものです。
それと後述しますが、公立化しても効果が見込めない場合(または見込めるかどうか迷う場合)、自治体の住民や議員からもこの批判が出ます。結果として、公立化を断念するケースもあります。
後者(経営失敗に対する責任)については各地の私大関係者からよく出ます。公立化した大学の近隣校はなおさらです。今まで競争相手だった大学が公立化することで勝てない相手と化してしまいます。
それと公立化した場合、今度は近隣の公立大とも競合することになります。当然ながら、既設の公立大からすれば競合相手が増えるのは好ましくありません。
そのため、公立化を検討する私大にとって、近隣の公立大とその学部構成も是非を分けるポイントとなります。
◆校舎建て替えなどは自治体負担に
公立化のメリットは前記の通りですが、デメリットもあります。
主なものは「自治体負担」「地元進学者の減少」「人口との因果関係が不明」の3点です。
1点目の自治体負担について。
運営経費は地方交付税交付金が充当されることを先にメリットとして挙げました。
一方、校舎の建て替え費用などは自治体側の負担となります。学部増設なども同様です。
学生が集まりやすい看護・医療系学部や理系学部だと文系学部よりも支出はどうしても増えてしまいます。
山陽小野田市立山口東京理科大学は2016年の公立化1年目、1人当たりの負担額は1.04万円でした。それが2022年時点では3.75万円に増えています。
山陽小野田市の住民からすれば、大学のために気が付けば2万円の負担増、となっているわけです。
もちろん、この負担額を差し引いても経済効果がある、ということで住民が納得していれば問題はありません。
とは言え、校舎が古く立て替えなどが必要な場合、自治体の負担が重いものになります。
それから、公立化してもそこまで学生増加が期待できない場合、自治体からすれば公立化する意義はないことになります。
週刊ダイヤモンド2010年9月18日号「私大の定員割れ解消の切り札 公立大転換の潜在リスク」記事では、2010年に公立化した静岡文化芸術大学を取り上げています。
同記事によりますと、国の私学助成金がなくなり、学生から徴収していた施設利用料・実験実習費の補填などで静岡県の負担は公立化で年間5億4500万円の負担増になった、とあります。
◆ささやかれる「総務省ショック」も
それから、地方交付税交付金も、決して「打ち出の小槌」ではありません。
国の財政難が進んだ場合、あるいは公立大が増えすぎた場合、国・総務省が交付金をカットする可能性もあります。そうなると、自治体側が公立大への支出額を増やすか、規模を縮小(最悪の場合は廃校)するか、厳しい選択を迫られることになります。
意外と知られていませんが、国・総務省(旧・自治省)は公立大学に対する政策が時代とともに変わっています。
戦後から1970年代まで自治省は公立大新設に消極的でした。
戦後、地方自治体の財政は厳しく、静岡農科大学が1951年に静岡大学に移管(現・静岡大学農学部)。以降、1972年まで13校が国立大学に移管しています。
1969年には自治省と文部省の覚書では「政令指定都市以外の市町村立大学を認可しない」としていました。
その後、1980年代からは地方自治体側の要請もあり、1969年の覚書から方針転換し、政令都市以外の自治体でも大学設置を認めるようになります。
1992年には看護系大学の施設整備費について財政支援を講じるようにしました。その結果、看護系公立大学の新設ブームが起きます(1990年代に18校新設)。
現在、総務省は公立大の新設について、1970年代までのようなブレーキ役ではありません。しかし、今後、公立大が増えていった場合、方針転換する可能性があることは留意しておく必要があります。
◆公立化で地元進学者減のデメリット
デメリットの2点目は地元進学者の減少です。公立大学となれば地域外からの学生も一定数、集まります。
逆に言えば、地元進学者が減ることになります。自治体からすれば、地域外の学生のために大学運営をすることになります。
表3の地域内入学率は公立化前年と1年目、そして2023年でどのように変化したかを示しています。
なお、文部科学省資料では設置自治体からの入学者数で「地域内入学率」を出しています。しかし、これでは設置自治体が県ではなく市だった場合、推移がそう大きくは変わりません。そこで、県内入学者数と入学者数から計算した数値(県内入学率)を本稿では掲載しています。
2023年データについては文部科学省資料には掲載がないため、旺文社の『大学の真の実力 情報公開BOOK』各年度版掲載の数値を掲載しました。なお、同書の県内入学率は学部ごとの掲載となっているため、複数学部のある大学は複数の数値となっています。
説明はこれくらいにして、県内入学率の推移を見ていきます。
12校中9校は公立化前年から公立化後は大きく引き下がっています。
県内入学率が下がった大学9校中7校は半減しています。
県内入学率が下がったということはそれだけ他地域の高校生からも支持された結果であり、手放しで悪い、と断じることはできません。
しかし、貴重な公金を投入している自治体関係者からすれば、不愉快とまでは言いませんが、複雑な感情を持ってしまうことは確かです。
それと、県内入学率が低いということはそれだけ地元就職率も低くなります。
これは公立大学全体に言えることです。地元就職と首都圏・関西圏の大企業就職、どちらを優先するか(あるいはしないか)は公立大学キャリア関係者にとってはジレンマと言えるでしょう。
◆人口増加にはそれほど寄与しない?
3点目は人口増加との因果関係です。
表3では大学所在地の自治体の人口、ならびに公立化した大学の定員の変遷をまとめました。
なお、人口は大学設置自治体ではなく、所在地の自治体のものです。
県立あるいは複数自治体による運営の場合でも、所在地の自治体のみを対象としました。
公立化前から増加した自治体は12校中2校しかありません(名桜大学・名護市については推定)。
一番低い高知工科大学・香美市は87.6%で他の9自治体は90%台となっています。
北海道千歳市の場合、大学の公立化というよりは半導体工場(ラピダス)の進出予定やインバウンド需要の増加(市内に新千歳空港が立地)など、他の要因が大きいと推定されます。
もちろん、他の地方自治体が人口減となる中で、80%台後半~90%台で推移しているのはそれだけ大学の経済効果がある、との言い方もできるでしょう。
私も大学による経済効果を全否定するものではありません。
ただ、費用対効果を考えると、数十億円の投資をしてまで高いリターンがあるか、少し疑問に思うのです。
表1では大学定員についてもまとめました。もっとも規模の大きな名桜大学でも1学年595人、少ない大学(福知山公立大学、旭川市立大学)だと200人です。
名桜大学だと、学生に教職員などを含めると約2300人。全員が名護市に定住していたと仮定しても、総人口に占める割合は3.6%です。
これを多いと見るか少ないと見るかは意見の分かれるところでしょう。
では、地方創生で自治体が誘致する他の企業などと比較するとどうでしょうか。
従業員数1000人の企業(工場など)であれば、定住人口も増えますし、出入り業者や物流関係の流入も大きく増えることになります。
1試合平均2万人のプロ野球やサッカーチームのスタジアムはどうでしょうか。年間50試合としても、単純計算(1試合2万人×50試合)で交流人口は100万人です。
繰り返しますが、大学誘致や公立化がムダと断じるものではありません。ただし、企業やスポーツチームの誘致に比べて費用対効果はどうなのか、そもそもその自治体の方向性に合っているかどうか、そこは冷静に考える必要があるのではないでしょうか。
◆新潟産業・姫路獨協は検討も断念
実際に、公立化の要請を受けた自治体が断った事例もあります。
それが新潟産業大学(2014年に公立化を要請、2018年に断念)、姫路獨協大学(2021年に公立化を要請、2022年に断念)の2校です。
※4年制私立大学以外では、私立短大で洗足学園魚津短期大学(富山県魚津市・2000年)、環太平洋大学短期大学部(愛媛県宇和島市・2015年)が公立化を要望、ないし、自治体が検討。両校とも、公立化を断念。両校とも募集停止となり、洗足学園魚津短期大学は廃校、環太平洋大学短期大学部は休校。
なお、「断念」と表現しましたが、正確には大学側から公立化の検討申し入れを受けた自治体側が断る形になっています。
なぜ、同じように公立化を要請しながら他の12校と異なり、公立化に至らなかったのでしょうか。
背景には、自治体側の熱意と財政負担の2点があります。
まず、前者についてですが、自治体の中に他大学があるかどうかです。
公立化した12校中10校は唯一の私立大学でした(浜松・長岡の2市は他大学が存在)。
自治体からすれば、公立化してでも存続させたい、という思いが強くありました。
新潟産業大学のある新潟県柏崎市には他に新潟工科大学があります。一方を公立化して、もう一方は私大のまま、というのは不公平との批判もありました。
姫路獨協大学のある兵庫県姫路市は、公立大学の兵庫県立大学理学部・環境人間学部と私立大学の姫路大学があります。
兵庫県立大学理学部は旧・姫路工業大学であり、1946年の開設以来、現在に至るまで全国から学生が集まっています。
姫路市からすれば姫路獨協大学を何が何でも存続させなければならない理由がありません。
後者の財政負担ですが、校舎建て替えなどの費用は自治体負担となります。
これはどの大学・自治体でも同じですが、多額になりそうな場合は、自治体側が消極的になってしまう要因になります。
◆換算充足率では2校が20%未満の惨状
それと、新潟産業大学と姫路獨協大学に共通しているのが定員マジックです。
表4は両校と2024年2月現在、公立化を検討している5校、合計7校のデータをまとめたものです。
表4:公立化検討・断念7校のデータ
自治体出資額の単位は億円。文部科学省資料並びに各メディア記載の数値/土地の無償提供などは含まない/美作大学は不明
偏差値・倍率・入学定員は『蛍雪時代臨時増刊 全国大学内容案内号』(旺文社)の各年度版に記載の数値
入学定員充足率は記載数値(定員、入学者)を筆者が集計・作成
偏差値は河合塾サイト記載のもの
2004年換算充足率は2004年の入学定員を分母、2023年の入学者数を分子として計算/千葉科学大学については本文記載
見通しは筆者の取材による
この表4で注目していただきたいのが、入学定員数の推移と2004年換算充足率です。
2004年換算充足率とは、2004年の入学定員を分母に、2023年の入学者数を分母に計算したものです。
2004年以降に定員を増やし(学部新設を含む)、入学者が増えた大学は2004年の定員換算で充足率を計算した場合、100%を超過します。
一方で、2004年以降に定員を減らした大学、かつ、入学者も減らした大学は換算充足率でも低い数値しか出ません。特に、本来の入学定員充足率では100%超ないし、80%以上で見た目はどうにかなりそうな大学でも換算充足率では100%を大幅に下回ることになります。
この換算充足率の狙いは定員マジックをやらかしたかどうか、これを明らかにするためです。
定員マジックとは、ダメな私大ほど手を出します。つまり、なかなか学生が集まらない場合、定員充足率が大きく下回ることになります。そこで、見た目の充足率を改善するために定員を減らしていきます。そうすると、見た目の定員充足率を高く出すことができるからです。
換算充足率は、この定員マジックをどの程度やっているのか、あるいはやっていないのかを明らかにすることができます。
新潟産業大学は2004年時点での定員400人が2023年は140人、姫路獨協大学は2004年の定員850人が2023年は460人と両校とも激減しています。
両校とも2004年時点であった学部を統合ないし募集停止としています。
姫路獨協大学は2006年に医療保健学部、2007年に薬学部、2016年に看護学部をそれぞれ新設。そこまでやっても、学生は集まりません。
計算したところ、新潟産業大学は15.8%、姫路獨協大学は18.6%と壊滅状態の数値になってしまいました。
これは両校とも相当に厳しい状況にあることを示しています。
ここまで低いと、公立化しただけで学生が集まるとは言い切れません。
これらの要因が重なった結果、新潟産業・姫路獨協の2校は公立化を断念しました。
◆九州看護福祉大学~立地・学部とも理想的
では、2024年2月現在、公立化を検討している5校の成否はどうでしょうか。
ここから、個別に見ていきます。
まずは、九州看護福祉大学から。
九州看護福祉大学
開学:1998年
所在地:熊本県玉名市
学部:看護福祉学部看護学科(100)、社会福祉学科(80)、リハビリテーション学科(60)、針灸スポーツ学科(40)、口腔保健学科(50)
同県の公立大学:熊本県立大学(熊本市/文学部、環境共生学部、総合管理学部)
公立化を検討している5校の中で一番、理想的と言えるのが九州看護福祉大学です。
同大は当初、首都圏某私立大学大規模校が20億円を出資、教員も派遣する予定でした。ところが、開学準備が進む中、この私立大学側は「財政援助は約束していない」と言い出します。この私立大学からの派遣の学校法人理事のまとめた覚書に問題があったようで、結果として、この理事は辞任。私立大学の援助等は一切なく、県や地元2市10町の補助金46.5億円、地元を中心とした寄付金13.8億円で設立にこぎつけました。
この騒動の余波で当初は「熊本国際大学」とする予定が現校名に変更となっています。
2023年の志願倍率は1.5倍。地方私大としてはかなり優秀な方です。入学定員充足率は88.2%。ただし、2004年時点から30人増やしているわけで2004年換算充足率だと97.0%で5校中トップです。
立地は熊本県北部の玉名市で県都・熊本市に隣接します。
その熊本市には熊本県立大学がありますが学部の重複はありません。医療系学部が公立大として存在することは熊本県としても悪い話ではないでしょう。
熊本市(73.7万人)からは通学圏内なので、公立化すれば地元進学校からの入学者も増えそうです。
九州看護福祉大学の北側は福岡県の筑後地域、佐賀県があります。
福岡県には学科が重複する公立大学が2校あります。
看護学部と社会福祉学科が重複する福岡県立大学、口腔保健学科が重複する九州歯科大学です。
福岡県立大学の所在地は筑豊地域の田川市、九州歯科大学の所在地は北九州市です。
久留米市、大牟田市など筑後地域の高校生からすれば、通学しやすいのは福岡県立大学・九州歯科大学よりも九州看護福祉大学の方です。
参考までに久留米駅からだと、九州看護福祉大学は新幹線利用で50分以内、福岡県立大学は2時間程度、九州歯科大学は70分以内です。
佐賀県は公立大学がゼロであり、佐賀駅からは90分以内。
つまり、公立化すれば福岡県筑後地域や佐賀県からの志願者数増加が期待できます。
あえて、公立化のネックを挙げるとやはり、自治体負担でしょう。
医療系学部なので文系学部よりも施設・設備の投資額は高くなります。
その金額によっては公立化断念の可能性もあります。
ただ、看護師を含めて医療人材を公立大学として養成することは玉名市だけでなく熊本県にとっても必要なはず。
その点を考えれば、公立化の可能性は高い、と考えます。
◆東北公益文科大学~地域性は追い風、学部再編がカギ
東北公益文科大学
開学:2001年
所在地:山形県酒田市
学部:公益学部(235)
同県の公立大学:山形県立保健医療大学(山形市/保健医療学部)、山形県立米沢栄養大学(米沢市/健康栄養学部)
東北公益文科大学は山形県北部の酒田市に2001年、開学しました。
公益学部というユニークな学部でこれは日本でもここだけです。
似た学部だと総合政策学部や地域系学部でしょう。
要するに社会科学系の学部です。
学部名・学科名よりも、2年次に選択するコースで見た方が分かりやすく、経営、政策、地域福祉、国際教養、観光・まちづくり、メディア情報の6コースがあります。
この東北公益文科大学の公立化の可能性は高いと考えます。
理由としては、自治体側の熱意、地域性の2点です。
地元自治体が公立化に前向きです。
2021年山形県知事選で当選(4選目)した吉村美栄子知事が同大の公立化を公約に入れました。2019年には庄内2市3町の担当者が「東北公益文科大学公立化勉強会」を発足させました。2020年には「存続には(公立化が)有効な手段。県が主体に早急な議論を要望する」との報告書を提出しています。
2023年には「令和4年度 東北公益文科大学の公立化と 機能強化に係るとりまとめ」を公表、県庁サイトにも掲載しています。
2点目の地域性ですが、まず、山形県内の公立大学2校は保健医療学部と栄養学部なので重複しません。
国立の山形大学人文社会科学部は経済・マネジメントコースなどが公益学部と重複します。
ただし、山形大学は県庁所在地・山形市の立地であるのに対して、東北公益文科大学は県北部・庄内地方の酒田市にあります。
地域性を考えると、志願者動向で影響があるのはむしろ、隣県の秋田県でしょう。
その秋田県の国立大学・秋田大学は公益学部と重複しません。あえて言えば教育文化学部地域文化学科国際文化コースが公益学部国際教養コースとやや重複しているか、というところ。
秋田県の公立大学は理工系の秋田県立大学、美術系の秋田公立美術大学、それと国際教養大学の3校です。
国際教養大学は公立大学ながらグローバル人材育成という点で飛び抜けた存在と化しています。全国区の大学になっており、東北公益文科大学の公立化にはそこまで影響はないでしょう。
つまり、秋田県からは学生の流入が強く期待できるのです。
自治体の熱意、地域性の2点から東北公益文科大学の公立化は成功する可能性が高い、と言えます。
同大の問題点は冒頭でも紹介した学部名です。
公益学部と言われて、どんな学部か、すぐ理解できる高校生は多くありません。
酒田市という立地の悪さだけでなく、この学部名が同大の長年の低迷を招いています。
公益学部はコースが分かりやすく、まだ救いがあります。このコース名の分かりやすさが定員割れであっても80%台で押しとどめています。
実は、東北の国公立大学はこの公益学部と同様、分かりづらい学部名の大学が複数あります。
分かりづらい名称&競合しそうな東北の国公立大学・学部
弘前大学人文社会科学部文化創生課程/社会経営課程
岩手大学人文社会科学部人間文化課程/地域政策課程
秋田大学教育文化学部地域文化学科
山形大学人文社会科学部人文社会科学科人間文化コース/グローバル・スタディーズコース/総合法律コース/地域公共政策コース/経済・マネジメントコース
福島大学人文社会学群人間発達文化学類/行政政策学類/経済経営学類
岩手県立大学総合政策学部
宮城大学事業構想学群事業プランニング学類/地域創生学類/価値創造デザイン学類
ここまで分かりにくい学部名になっているのは個々の事情があるので省略します。
ただ、それは大学の都合であって、高校生からすれば分かりにくいこと、この上ありません。
逆に言えば、東北公益文科大学からすれば学部名を分かりやすくすることで志願者数を伸ばすチャンスとも言えます。
私がご提案するとすれば、公益学部の6コースを2学部ないし3学部の再編です。
3学部なら経営学部(経営学科/メディア情報学科)、国際学部(国際教養学科/観光学科)、総合政策学部(政策学科/福祉学科)に。
2学部なら経営学部(経営学科/メディア情報学科/観光学科)、総合政策学部(国際教養学科/政策学科/福祉学科)に。
総合政策学部に福祉学科を入れるあたり、無理やり感があるのは否定できません。が、公益学部のままで行くよりは岩手県立大学総合政策学部に被せることでの志願者獲得が狙いです。
学部再編と同時に学部名を分かりやすくすれば、東北の他の国公立大学とも競争できるようになります。
公益学部のままで公立化した場合、東北の他の国公立大学のように「分かりづらい学部名」という沼にはまり込むことになります。そうなると、公立化しても事前に期待したほど学生が集まらない、というリスクも出てくるでしょう。
参考事例となるのが、公立鳥取環境大学です。同大も開設当初は環境学部のみの単科大学でした。それが公立化と同時に環境学部と経営学部に再編しています。
学部再編をどうするかが東北公益文科大学の未来を大きく変えるに違いありません。
◆長浜バイオ大学~医療系学部新設ができるかどうか
長浜バイオ大学
開学:2003年
所在地:滋賀県長浜市
学部:バイオサイエンス学部フロンティアバイオサイエンス学科(118/うち臨床検査学コース30)、社会福祉学科(80)、バイオデータサイエンス学科(70)、アニマルバイオサイエンス学科(50)
同県の公立大学:滋賀県立大学(彦根市/環境科学部、工学部、人間文化学部)
長浜バイオ大学は2003年、滋賀県湖北地域の長浜市に開学しました。
バイオサイエンス学部の単科大学であり、開設当初はバイオ・生物系学部が少なかったこともあり、理系学部人気も追い風となり、学生集めは順調でした。
ところが、2003年の開学以降、周辺に続々と競合する大学が増加していきます。
長浜バイオ大学と競合する大学
●北陸方面
石川県立大学生物資源環境学部(石川県野々市市):2005年
金沢工業大学バイオ・化学部(石川県野々市市):2009年
福井県立大学海洋生物資源学部(福井県永平寺町・小浜市):2009年
●滋賀・京都方面
立命館大学生命科学部(滋賀県草津市):2008年
同志社大学生命医科学部(京都府京田辺市):2008年
京都府立大学生命環境学部(京都市左京区):2008年
龍谷大学農学部(滋賀県大津市):2015年
京都産業大学生命科学部(京都市北区):2019年
なお、長浜バイオ大学開学以前には滋賀県立大学環境科学部が1995年の開設です。
個別の大学・学部、全てが長浜バイオ大学の教育内容に重複するわけではありません。しかし、類似学部・学科があることは事実です。
受験生からすれば単科大学よりは公立大、それから私立大の大規模校を選択します。
上記のように、北陸方面も滋賀・京都方面も公立校や有力私大で競合学部の開設が進みました。
その結果、開設当初は人気だった長浜バイオ大学は2000年代後半から人気が低下していきます。
立地は湖北地域の長浜市です。京都府や滋賀県の湖南地域(大津市、草津市など)からだと、通学するにはやや遠く、京都・大阪の競合校に流出しやすい、とも言えます。
現状のバイオサイエンス学部単独では公立化しても厳しいのではないでしょうか。
ただし、湖北地域という立地は岐阜県西濃地域(大垣市など)に隣接しており、県都・岐阜市も含めて一定数の流入が期待できます。
そのためには、看護学科を含む医療系学部の新設が必要です。
長浜バイオ大学の場合、メディカルバイオサイエンス学科があり、フロンティアバイオサイエンス学科でも臨床検査技師を養成するコースがあります。
看護学科は滋賀県立大学、京都府立医科大学、岐阜県立看護大学にそれぞれ存在します。ただ、看護師は現在もなお不足気味であり、受験生人気も安定しています。
長浜バイオ大学に看護学科が新設されれば、学生が集まるだけでなく、滋賀県の医療人材供給という点でもプラスです。
それと、既設の臨床検査技師以外に理学療法士などの学科を設けた場合、こちらは公立大学の競合校が近隣に存在しません。
西日本の公立大で臨床検査技師だと香川県立保健医療大学、愛媛県立医療技術大学の2校。理学療法士・作業療法士だと大阪公立大学、県立広島大学の2校。
合計4校であり、長浜バイオ大学が公立化と合わせて臨床検査技師や作業療法士・理学療法士の学科・コースを新設すると、人気となることが期待できます。
問題は費用です。
この看護・医療系学部を新設する場合、初期投資が10億円単位で必要になります。この初期投資を長浜市や滋賀県などが支出できるかどうか。
踏み切ることができれば、公立化する意義はあるのではないでしょうか。
◆美作大学~公立化は五分五分か
美作大学
開学:1967年
所在地:岡山県津山市
学部:生活科学部食物学科(80)、児童学科(80)、社会福祉学科(50)
同県の公立大学:岡山県立大学(総社市/保健福祉学部、情報工学部、デザイン学部)、新見公立大学(新見市/健康科学部)
美作大学は1967年の開設です。場所は岡山県北東部の美作地域で最大の都市となる津山市にあります。
生活科学部の単科大学で、学科は食物学科(管理栄養士などの養成)、児童学科(保育士などの養成)、社会福祉学科(社会福祉士などの養成)の3学科です。
実学の大学として、一定数の学生を集めてきました。2004年時点では志願倍率が3.9倍、河合塾偏差値で40.0~45.0、これは地方私大としてはなかなかの好成績です。
しかし、立地の悪さに加え、ライバル校が県内外とも増えていく中で緩やかに低下。2023年の志願倍率は1.1倍、充足率は92.4%と定員割れになってしまいました。
立地の悪さを考えれば、よく学生が集まっていると評価できます。
まだ傷が浅いうちに公立化を要請するのは大学の生き残り策としては当然と言えば当然です。
美作大学の公立化のネックは地理条件と学部構成、競合校の多さです。
1点目の地理条件は決していいとは言えません。大学のある美作地域は県北東部にあります。北にある鳥取県も人口が多いわけではなく、鳥取駅からはJRで2時間程度と離れています。
西側の備中地域も北部(新見市など)は人口が少なく、南部・倉敷圏(倉敷市、総社市など)は津山からは離れすぎています。東側は兵庫県播磨地域(姫路市など)ですが、こちらもアクセスがいいとは言えません(JRで2時間程度)。
2点目の学部・学科構成ですが、栄養系、児童系、福祉系の3学科です。いずれも、公立大学で人材育成をする意義はあります。
ただ、看護・医療系学部に比べると、そこまで需要がひっ迫しているわけでもありません。
そして3点目の競合校の多さ、これが最大の問題です。
岡山県にはすでに公立大学が2校あります。総社市にある岡山県立大学は保健福祉学部があり、看護学科、栄養学科、現代福祉学科、子ども学科があります。
新見市にある新見公立大学は健康科学部の単科大学です。学科は看護学科、健康保育学科、地域福祉学科があります。
美作大学が公立化した場合、岡山県立大学、新見公立大学と学科が重複するため、競合することになります。
岡山県や新見市からすれば、美作大学の公立化には複雑な思いを持つことになります。
そうした感情を乗り越えて公立化したとしても、同県内で競合することになります。
そのため、公立化の可能性は現在のところ、五分五分と見ています。
美作大学が公立化をするためには、長浜バイオ大学と同様、看護・医療系学部の新設が必要です。
もっとも、長浜バイオ大学と異なるのは看護学科を新設すればいい、とはならない点です。看護学科も岡山県立大学・新見公立大学がすでに新設しているからです。
看護師は人材不足がずっと続いているので新設する意義はありますが、それだけでは不十分でしょう。
看護学科以外に新設するとしたら、医療系学部です。理学療法士・作業療法士などは看護師と同様、人材不足が続いています。理学療法士・作業療法士の学科を持つ公立大学は中国・四国地方では県立広島大学(保健福祉学部)しかありません。兵庫県にもないため、美作大学が看護医療学部として理学療法士・作業療法士の学科を新設すれば学生も集まるでしょう。
ただし、看護医療学部を新設するとなると、その初期投資が必要となります。
この看護医療学部の新設を含めて、美作大学の公立化の成算は岡山県や津山市の判断によって分かれそうです。
◆千葉科学大学~公立化も存続も絶望的
千葉科学大学
開学:2004年
所在地:千葉県銚子市
学部:危機管理学部危機管理学科(120)、保健医療学科(80)、航空技術危機管理学科(40)、動物危機管理学科(60)、看護学部看護学科(90)、薬学部薬学科(6年制/100)
同県の公立大学:千葉県立保健医療大学(健康科学部)
千葉科学大学は2004年の開設です。銚子市が77億円を投資して誘致しました。
岡山理科大学などを運営する学校法人加計学園が運営しており…、という時点で読者の反応は大きく分かれるに違いありません。
安倍晋三・元首相の友人、加計孝太郎理事長が運営するのが加計学園だからです。
本稿では加計学園と安倍元首相の関係などを追及するものではありませんが、事実として挙げておきます(これ以上をご期待の方は他の記事をどうぞ)。
開学当初は薬学部と救急救命士・消防官などを養成する危機管理学部の2学部体制。その後、2014年に看護学を新設、現在は3学部体制となっています。
立地は千葉県北東部の銚子市で、北東部というか、千葉県最東端になります。北側は茨城県南東部の鹿行地域(神栖市、鹿島市など)、北西側は成田市など、南西側は東金市、茂原市などの南地域になります。
ただ、成田市まで行くと、千葉市や都内の大学の通学圏内となってしまいます。南地域も内房エリアだとアクアラインがあるので神奈川県の大学が通学圏内に。
北側の茨城県鹿行地域は人口がそこまで多くありません。
立地条件が悪い中で、それでも千葉科学大学は開学当初は健闘します。2学部とも定員は超過、倍率も5倍超で順調でした。
しかし、2006年には危機管理学部が定員割れ、2008年には2学部とも定員割れとなります。
その後、一時的には100%超となるも2016年からは薬学部・危機管理学部の2学部が8年連続で定員割れとなります。
2014年には看護学部を新設するも、こちらも2022年から定員割れとなりました。
背景にあるのが各学部の競合校の増加です。特に学生獲得を見込める首都圏で増加しました。
関東圏の薬学部新設状況/2004年以降
●千葉県
城西国際大学(千葉県東金市):2004年
順天堂大学(千葉県浦安市):2024年
国際医療福祉大学(千葉県成田市/成田薬学部):2024年
●東京都
帝京平成大学(東京都中野区):2004年
武蔵野大学(東京都西東京市):2004年
●埼玉県
日本薬科大学(埼玉県北取郡):2004年
●栃木県
国際医療福祉大学(栃木県大田原市):2005年
●群馬県
高崎健康福祉大学(群馬県高崎市):2006年
●神奈川県
横浜薬科大学(神奈川県横浜市):2006年
湘南医療大学(神奈川県横浜市):2021年
関東圏の看護学部の新設状況/2014年以降
●千葉県
国際医療福祉大学(千葉県成田市/成田看護学部):2016年
秀明大学(千葉県八千代市):2017年
東京情報大学(千葉市若葉区):2017年
東都大学(千葉市美浜区/幕張ヒューマンケア学部):2018年
和洋女子大学(千葉県市川市):2018年
東京医療保健大学(千葉県船橋市):2018年
医療創生大学(千葉県柏市/国際看護学部):2021年
●東京都
東京純心大学(東京都八王子市):2015年
駒沢女子大学(東京都稲城市):2018年
●栃木県
足利大学(栃木県足利市):2014年
聖徳大学(千葉県松戸市):2014年
●神奈川県
松蔭大学(神奈川県厚木市):2015年
湘南医療大学(神奈川県横浜市):2015年
湘南鎌倉医療大学(神奈川県鎌倉市):2020年
●茨城県
常磐大学(茨城県水戸市):2018年
●群馬県
群馬パース大学(群馬県高崎市):2022年
薬学部は千葉県だけで3校、看護学部は7校が同時期以降に新設となっています。
なお、国際医療福祉大学が薬学部の項目で栃木県と千葉県、両方に出ているのはタイプミスではありません。記載の通り、2005年に栃木県(本キャンパス)で、2024年に千葉県で(成田キャンパス)での開設です。
薬学部や看護学部、医療系学部は大学業界並びに医療業界以外の方にはあまり知られていませんが、同系統の学部を複数のキャンパスで開設する大学が増えています。
話を千葉科学大学に戻すと、県内外に競合校が乱立。立地の悪い千葉科学大学を選択する受験生は銚子市やその周辺出身者に限定されていきます。
危機管理学部についても、救急救命士・消防官養成については類似学科が存在します。
関東・東北・甲信越圏の救急救命士養成系学科の設置状況
2000年:国士舘大学体育学部スポーツ医科学科(東京都多摩市)
2007年:杏林大学保健学部救急救命学科(東京都三鷹市)
2008年:東北福祉大学健康科学部医療経営管理学科(宮城県仙台市)
2014年:日本体育大学保健医療学部救急医療学科(神奈川県横浜市)
2016年:日本大学危機管理学部(東京都世田谷区)
2017年:新潟医療福祉大学医療技術学部救急救命学科(新潟県新潟市)
2019年:上武大学ビジネス情報学部スポーツ健康マネジメント学科救急救命士コース(群馬県伊勢崎市)
首都圏では、千葉科学大学開設前には国士舘大学(2000年)、開設後には、杏林大学(2007年)、日本体育大学(2014年)、日本大学(2016年)と有力校がそれぞれ類似学科を開設しています。
2008年には東北福祉大学、2017年には新潟医療福祉大学、2019年には上武大学、と東日本から千葉科学大学に進学していた地域でも類似学科がそれぞれ開設されます。
まとめますと、立地の悪い千葉科学大学は立地のいい他大学が類似学部・学科を開設していった結果、競争力を失っていきました。
◆学科改編・留学生・定員減のダメコンボ
千葉科学大学の公立化は今のところ、相当難しい、と言わざるを得ません。
千葉県銚子市という立地の悪さは変えようがないからです。
それと、千葉科学大学は学科改編(学科が5年程度で変わる)、定員減(学部の定員を減らす)、留学生を入れる、というダメな私立大学にありがちな手法を3点とも手を出しています。
学科改編は薬学部と危機管理学部が該当します。
定員減は薬学部が該当し、最盛期の2008年には3学科・260人だったものが、2022年からは1学科・100人と激減しています。それでも、2023年の薬学部入学者は36人、定員充足率は36%と壊滅状態に。
そして、3点目の留学生ですが、日本人学生で集まらないダメな私立大学が留学生を入れてどうにかしよう、とする常とう手段です。
加計学園の事業報告書によりますと、2004年は不明。2005年~2008年は学部別の内訳が不明。2009年からは内訳を出しています。
表
薬学部は10人程度、危機管理学部は10人前後から多い年だと100人超が留学生です。
留学生の全てが悪いとまでは言いませんし、立命館アジア太平洋大学(APU)など留学生を受け入れることで成功している大学もあります。
ただ、APUは最初から留学生を受け入れる前提で開学した大学です。
それに対して、ダメな私大の多くは留学生については日本人学生が集まらないから受け入れているだけにすぎません。
上記の表は留学生の数を引いた、日本人学生のみの定員充足率の経年変化です。
内訳が判明した2009年、危機管理学部の留学生入学者は51人でした。充足率は91.8%ですが、留学生を引いた充足率は71.8%とこの時点で低かったことが分かります。
2023年は薬学部36.0%、危機管理学部50.7%とただでさえ低いところ、留学生抜きだと薬学部25.0%、危機管理学部39.7%と壊滅的なデータが出てしまいました。
ここまで充足率が低いと、公立化しても日本人学生がきちんと集まるかどうか、不透明と言わざるを得ません。
千葉科学大学は2004年換算の充足率だと途中で看護学部を増設していることもあり、2023年の充足率よりも10ポイント程度、上がります(それでも55.6%と酷いですが)。
しかし、看護学部の入学者と留学生を抜いた数で計算すると、35.1%。公立化を断念した新潟産業・姫路獨協の2校の数値に近く、2024年現在の公立化検討5校の中では最低です。
学部は看護学部は公立化すれば一定の需要は見込めます。
危機管理学部は後述しますが、一部を廃止するか、分割するなどの工夫が必要です。
そして、薬学部は周辺に国公立の競合校(東大、千葉大、静岡県立大の3校)が少ないのでまだ救いがあると言えます。
しかし、私立大は東京に有力私大がひしめき合う上、2024年には国際医療福祉大学(成田薬学部)、順天堂大学が千葉県内に薬学部を開設します。
薬学部を新設して公立化がより成功した、山陽小野田市立山口東京理科大学とは地理条件が違いすぎます。
開学から20年が経過して校舎の建て替え費用なども自治体の負担となります。
こうした条件の悪さを考えると、千葉科学大学の公立化は今のところ、極めて厳しい、と言わざるを得ません。
◆ウルトラCは第二「航空大学校」化
あえて千葉科学大学の公立化を模索するとしたら、医療系改編案、学部再編案、航空学部新設案の3案があります。
医療系改編案は看護学部と保健医療学部(危機管理学部保健医療学科を昇格)の医療系大学とする縮小再編案です。薬学部と危機管理学部の他学科は廃止です。
同県の千葉県立保健医療大学健康科学部看護学科(定員80人)と競合します。ただ、看護師は千葉県に限らず全国的に不足気味です。公立大学として多人数を養成する意義はあります。
既設の保健医療学科は臨床検査学、臨床工学、救急救命学の3コースがあります。それぞれ、臨床検査技師、臨床工学技士、救急救命士を養成します。
いずれも看護師同様、人不足の専門職ですし、公立大学に関連学科があれば、学生は集まるでしょう。
この医療系改編案の問題点は、既存の薬学部と危機管理学部を廃止した後のキャンパス維持にあります。看護学部と保健医療学部の2学部のみであれば広すぎて、設備維持費などは高コストとなってしまいます。
学部再編案は、看護学部は維持、薬学部は廃止。危機管理学部は危機管理学科を経営学部(経営学科と公共政策学科)に、保健医療学科を保健医療学部に、それぞれ再編します(航空技術危機管理学科と動物危機管理学科は廃止)。
経営系学部のある関東・公立大学は東京都立大学(経済経営学部)、横浜市立大学(国際商学部)、高崎経済大学(経済学部、地域政策学部)の3校です。
千葉県・茨城県・埼玉県にはなく、神奈川県の横浜市立大学はグローバル系を意識しています。そのため、経営学部を新設すれば、ある程度の需要が期待できます。経営学部の下に公共政策学科として現在の消防官・地域防災コースなどを集約すればいいのではないでしょうか。
この学部再編案の問題点は、医療系再編案ほどリストラするわけではないので、高コスト体質がそう変わらない点です。
最後の航空学部新設案は保健医療学部・経営学部新設、薬学部と危機管理学部動物危機管理学科廃止は学部再編案と同じです。
違いは危機管理学部航空技術危機管理学科についてで、航空学部を新設。パイロット養成の航空操縦学科、航空管制官養成の航空管制学科に再編します。
航空操縦学科はJAL、ANAなど航空会社から、航空管制学科は国・国土交通省から、それぞれ資金・人員の援助を受けます。代わりに、大学卒業後は自動的に航空各社・国土交通省航空局に就職するものとします。
パイロット養成は省庁大学校となる航空大学校(宮崎県宮崎市/定員108人)、私立大学では東海大学工学部航空宇宙学科航空操縦学専攻(神奈川県平塚市/定員50人)などがあります。
航空管制官は大学卒業程度を対象とした航空管制官採用試験に合格。その後、航空管制官基礎研修課程(8カ月)を修了する必要があります。
パイロット・航空管制官のいずれも、現状の人不足を考えると、養成する教育機関を増やすことは急務です。
そのため、公立大学化した千葉科学大学で航空学部を新設する意味は十分にあります。パイロット養成の学科は公立大学としては初になりますし、航空管制官養成も同様です。
この航空学部新設案の問題点は航空学部新設の初期投資が相当、必要になる点です。当然ながら銚子市や加計学園だけでは無理なので、航空会社各社や国・国土交通省航空局の資金援助が必要です。
これは言うのは簡単ですが、実現するためには複雑な交渉を重ねる必要があります。それをやってのける人材が現在の銚子市や千葉科学大学にいるかどうか。
3案とも一長一短であり、いっそ公立化を断念(最悪の場合は廃校)した方が話は早い、と関係者が考えてもおかしくはありません。
少なくとも、現状維持のままの公立化はまず難しいのではないでしょうか。
◆公立大学の増加で不透明感増す
そもそも公立大学は1990年の39校から、2023年は100校(公立大学協会データ、大学院大学・専門職大学を含む)にまで増えています。
ここまで増えると、今後も地方交付税充当金で大学の運営が円滑に回ることは厳しくなることも予想されます。
前記のような、「総務省ショック」で自治体の負担が急に跳ね上がることもあり得ます。
◆「公立化=地方創生」ではない時代に
地方自治体からすれば、若者が集まる拠点として大学に期待をかけるわけで、維持の一環で公立化も検討します。
しかし、2010年代に先行して公立化した大学と異なり、現在は国公立大学間の競争も厳しくなりつつあります。
今後は単純に公立化するだけでは、数年(または10年程度)の延命策としかなり得ません。
公立化するのであれば、その大学で育成する人材がその地方に必要かどうか、あるいは競合校がどの程度あって勝てそうかどうか、など多角的な視点から検討すべきではないでしょうか。
加筆修正(2024年3月21日22時)
千葉科学大学の公立化について、航空学部新設の部分で航空管制官についての現状について、過去の情報の掲載、並びに誤植がありましたので修正します。
ご指摘いただいた匿名希望様、ありがとうございました。