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やっぱりリーチだ! 大黒柱復帰でジャパン白星発進!

永田洋光スポーツライター
ルーマニア戦後半1分にリーチ・マイケルがトライを挙げる(撮影/齋藤龍太郎)

見事な3トライと、浮き彫りにされた課題

快勝とはいかなかった。

サンウルブズ組も合流したベストメンバーの日本代表は、ヨーロッパの古豪ルーマニアを相手に33―21で勝利を挙げ、17日、24日と続くアイルランドとの2連戦に弾みをつけた。

立ち上がりはルーマニアに2PGでリードされたものの、前半12分過ぎにWTB山田章仁のトライを皮切りにペースをつかみ、37分にはWTB福岡堅樹がトライを追加。さらに、この日10番を背負った小倉順平が、前半だけで3PG、2コンバージョンと着実にキックを決めて21―9とリードした。

後半立ち上がりにも、小倉が外側にパスを送るようなモーションで、隣に走り込んできたFLリーチ・マイケルにノールックで短いパスを通し、トライをアシスト。リーチがゴールポスト真下まで走り切って、30―9とリードを広げた。

しかし、ジャパンが輝いていたのはこの辺りの時間帯まで。

後半12分に小倉のPGでリードを24点に広げたあとは、ルーマニアの強力FWに圧力をかけられて2トライを奪われ、今後に向けて課題を残した。

さて、この試合のジャパンをどう評価すればいいのか。

まず、ポジティブな面を挙げれば、3トライがすべて日本らしいアタックから生まれたことだ。

山田のトライは、起点がラインアウトのクイックスロー。

ルーマニアのハンドリングエラーでタッチラインの外に転がり出たボールを、SH田中史朗が拾ってそのまま投入。そこから右に展開し、CTBティモシー・ラファエレが転がしたキックを山田が捕って走り切った。

ジェイミー・ジョセフ体制になってから、サンウルブズでもジャパンでも、こうしたグラバーキックを使って相手防御の裏にボールを転がすプレーが戦略の1つの柱になっていて、このトライはその成果が実ったもの。ラインアウトを早く仕掛けたためにルーマニアの防御ラインは整っておらず、しかも、山田が転がるボールに対して外側から走り込んだために、捕球した瞬間にきれいに防御とすれ違った。

相手に陣形を整える余裕を与えず、連続的にアタックを仕掛けるジャパンの強みが発揮されたトライだった。

福岡のトライは、ラインアウトから11フェイズにわたってボールを継続したもの。このときは逆にキックを使わず、ランとコンタクトで防御を揺さぶった。

これまで日本のラグビー界では、キックを一切使わないか、キックを使いまくるかといった極端な二者択一が議論のタネになっていたが、そうした選択肢自体がナンセンスであることを証明したのがこの日のアタックだ。

キックを使えば相手はそれに備えて防御の上がりが遅くなり、パスを使ってアタックすれば、相手防御は前に出てくるから背後にスペースができる。そうした駆け引きを80分間通して行なって相手を揺さぶり、防御の的を絞らせないのが、正しいアタックだ。しかも、そこにリーチのように、防御が横方向を警戒したところにラインの背後からタテに走り込む選手が出てくれば、さらに防御は対応が難しくなる。

その点で、この3トライは非常に理にかなった素晴らしいトライだった。

19年W杯で対戦が予想される相手を叩きつぶせなかったジャパン

ただ、キックは、蹴る場面を誤ると、相手にボールを与えるだけに終わる。

リーチのトライから3分後の後半4分に、ジャパンはアタックを仕掛けながらCTBデレック・カーペンターが同じようにグラバーキックをルーマニア防御の背後に転がしたが、このときは大きく蹴り返され、その後の一連であわやトライを奪われそうなピンチを招いている。

状況は、30―9とジャパンがリードして、さらにトライをたたみかけるべき場面だ。

しかも、ルーマニアは、高温多湿な気候のなかでジャパンのアタックに振り回され、肉体的にも精神的にもかなり追い込まれていた。ここでもう1トライ奪えば、相手の集中力が切れる――そんな状況だったのである。

結果的にジャパンはさらに1PGを追加したので、試合結果に影響は及ばなかったが、ルーマニアの闘志を叩きつぶすには至らなかった。

24点差を追うルーマニアは、小倉のPG直後にキックオフをミスしてジャパンにセンタースクラムを与えるなど明らかに動揺していたが、そのスクラムでジャパンの反則を誘うと見事に復活し、得意のラインアウトモールでトライを奪い、その後はジャパンを防戦一方に追い込んだ。

ジャパンがモールのディフェンスに苦しんだことが課題のように見えるが、実はこの試合の課題はそこではない。

ルーマニアに、「これなら次に対戦するときに、何とかなる」という手応えを与えたことが、ジャパンが犯した最大のミスだった。

ルーマニアは、このままW杯ヨーロッパ予選を勝ち抜けば、2019年に日本と同じプールAに入る国だ。つまり、W杯までまだ2年あるとはいえ、この試合で完膚なきまでに叩きつぶして、「日本には勝てないかもしれない……」という意識を植えつけることが、何よりも大切だったのである。

これでジャパンが、19年までに改善しなければならないテーマが明確になった。

いかに多くのトライを奪って、相手の闘志を萎えさせるか。

サンウルブズで立川理道キャプテンが、「数少ないチャンスにトライを取り切らなければ勝つのは難しい」と総括していたが、同じことがジャパンにも当てはまるのだ。

確かに素晴らしい3トライは奪った。

しかし、トライ数3では4トライ以上奪ったチームに与えられるボーナスポイントを獲得できない。そして、前回のW杯でジャパンは、ボーナスポイントを獲得できなかったがために、3勝しながらベスト8進出の望みを絶たれたのだ。

開催国として8強以上を目標にする以上、ジャパンは、もっともっとしつこく粘り強く、かつ貪欲にトライを狙わなければならない。

そのために、キックはどういう状況で使うべきか。

そして、どういうアタックでトライを確実に奪うのかを、もっともっと追求して欲しい。

ジャパンが単にW杯で白星を挙げることだけを期待する時代は終わった。

15年W杯を経て、ジャパンに対する期待値は、かつてないほど大きくなっているのだ。それに応えるためにも、このチームにはさらなる進化が求められる。

そんな期待に応えられるだけの実力を、ジャパンは身につけつつあるのだから。

スポーツライター

1957年生まれ。出版社勤務を経てフリーランスとなった88年度に神戸製鋼が初優勝し、そのまま現在までラグビーについて書き続けている。93年から恩師に頼まれて江戸川大学ラグビー部コーチを引き受け、廃部となるまで指導した。最新刊は『明治大学ラグビー部 勇者の百年 紫紺の誇りを胸に再び「前へ」』(二見書房)。他に『宿澤広朗 勝つことのみが善である』(文春文庫)、『スタンドオフ黄金伝説』(双葉社)、『新・ラグビーの逆襲 日本ラグビーが「世界」をとる日』(言視舎)などがある。

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