物価上昇への懸念…2022年12月景気ウォッチャー調査は現状下落・先行き上昇
現状は下落、先行きは上昇
内閣府は2023年1月12日付で2022年12月時点における景気動向の調査「景気ウォッチャー調査」(※)の結果を発表した。その内容によれば現状判断DI(※)は前回月比で下落、先行き判断DIは上昇した。結果報告書によると基調判断は「景気は、持ち直しの動きがみられる。先行きについては、持ち直しへの期待がある一方、価格上昇の影響などに対する懸念がみられる」と示された。
2022年12月分の調査結果をまとめると次の通り。
・現状判断DIは前回月比マイナス0.2ポイントの47.9。
→原数値では「やや悪くなっている」が増加、「よくなっている」「ややよくなっている」「悪くなっている」が減少。「変わらない」が変わらず。原数値DIは49.0。
→詳細項目は「サービス関連」「住宅関連」「製造業」「非製造業」「雇用関連」が下落。「製造業」のマイナス3.1ポイントが最大の下げ幅。基準値の50.0を超えている詳細項目は「サービス関連」のみ。
・先行き判断DIは前回月比でプラス1.9ポイントの47.0。
→原数値では「よくなる」「悪くなる」が増加、「ややよくなる」「変わらない」が減少、「やや悪くなる」が変わらず。原数値DIは46.3。
→詳細項目は「雇用関連」以外が上昇。「小売関連」のプラス3.5ポイントが最大の上げ幅。基準値の50.0を超えている詳細項目は無し。
現状判断DI・先行き判断DIの推移は次の通り。
現状判断DIは昨今では海外情勢や消費税率引き上げによる景況感の悪化を受け、基準値の50.0以下を示して低迷中だった。2020年10月では新型コロナウイルスの流行による落ち込みから持ち直しを続け、ついに基準値を超える値を示したものの、再流行の影響を受けて11月では再び失速し基準値割れし、以降2021年1月までは下落を継続していた。直近月となる2022年12月では新型コロナウイルス流行の第8派到来による感染拡大から一部業種が影響を受けており、前月比で落ち込むこととなった。
先行き判断DIは海外情勢や消費税率引き上げによる景況感の悪化から、昨今では急速に下落していたが、2019年10月以降は消費税率引き上げ後の景況感の悪化からの立ち直りが早期に生じるとの思惑を持つ人の多さにより、前回月比でプラスを示していた。もっとも12月は前回月比でわずかながらもマイナスとなり、早くも失速。2020年2月以降は新型コロナウイルスの影響拡大懸念で大きく下落し、4月を底に5月では大きく持ち直したものの、6月では新型コロナウイルスの感染再拡大の懸念から再び下落、7月以降は持ち直しを見せて10月では基準値までもう少しのところまで戻していた。ところが現状判断DI同様に11月は大きく下落。
直近の2022年12月では現状判断同様に物価上昇、具体的には原油をはじめとする資源価格の高騰、半導体などの原材料や部品の供給不足、そしてロシアによるウクライナへの侵略戦争に対する不安はあるものの、経済活動の回復への期待は大きく、景況感は前進の動きを示している。
DIの動きの中身
次に、現状・先行きそれぞれのDIについて、その状況を確認していく。まずは現状判断DI。
昨今ではロシアによるウクライナへの侵略戦争の影響でコスト上昇が現実のものとなり、さらに新型コロナウイルスのBA.4およびBA.5変異株の影響による新規感染者数の急増が景況感の足を引っ張り、大きな下落。今回月の12月はその大幅下落から少しずつ持ち直しを見せた動きより転じた下落を継続している。
なお今回月で基準値を超えている現状判断DIの詳細項目は「サービス関連」のみ。
続いて先行き判断DI。
今回月で基準値を超えている先行き判断DIの詳細項目は皆無。物価上昇、具体的には半導体を中心とした部品や原材料の不足、原油をはじめとした資源価格の高騰、そしてロシアのウクライナへの侵略戦争への懸念が景況感の足を引っ張っているが、新型コロナウイルスのBA.4およびBA.5変異株の猛威に対する不安はピークを過ぎており、人の流れの活性化への期待があることから、上昇している。
物価上昇への不安と経済活動回復への期待と
報告書では現状・先行きそれぞれの景気判断を行うにあたって用いられた、その判断理由の詳細内容「景気判断理由の概況」も全国での統括的な内容、そして地域ごとに細分化した内容を公開している。その中から、世間一般で一番身近な項目となる「全国」に関して、現状と先行きの家計動向に関する事例を抽出し、その内容についてチェックを入れる。
■現状
・高級時計や海外のブランド品が品薄になるほど売れているほか、客が旅行の計画を立てたり、イベントに参加するようになってきたことから、外出用の婦人服の売上も回復基調にある。また、インバウンド売上も好調である(百貨店)。
・全国旅行支援が年末まで延長した効果もあり、大きな動きではないものの、地道に来訪客がある(旅行代理店)。
・新型コロナウイルス感染症による規制が緩和され、来客数は徐々に増加しているが、物価上昇による客の節約意識は根強い。特に趣味趣向の商品は動きが鈍い(スーパー)。
・新型コロナウイルス感染症第8波の感染拡大により、サービスキャンセルが増加傾向にあり、利用者数が減少している(その他サービスの動向を把握できる者[介護サービス])。
■先行き
・全国旅行支援については年明けから割引額などが引き下げられるものの、行動制限がないなかで観光や外出を積極的に楽しむムードが加速していくとみられる。また、インバウンドも更に増加する(観光名所)。
・メーカーから、1~3月にかけて前年比で150%程度の新車配給ができるとの発表があり、相当分の売上や利益の確保に期待している(乗用車販売店)。
・来年度も多くの飲食料品の値上げが予定されており、エネルギー価格も上昇傾向が続いているため、外食の利用頻度はよくても現状維持と予想される(一般レストラン)。
・東北地方では、灯油代や電気代といった冬の光熱費の上昇に伴い、特に食品の節約が顕著になり、売上が厳しくなると予測している(スーパー)。
インバウンドや経済復調に関するポジティブな声もあるが、その一方で商品価格の値上げなどの物価高を受け、消費者の買い渋りの動きも見受けられる。
企業動向でも物価上昇・コスト上昇への影響が多々見受けられる。
・コロナ禍で混乱していたサプライチェーンの影響も落ち着き始め、当初の計画どおりの生産に戻りつつある(一般機械器具製造業)。
・受注量が減少し、材料価格は高騰したまま落ち着いている。販売価格への転嫁がようやく追い付いたが、販売量は低調に推移している(木材木製品製造業)。
■先行き
・新型コロナウイルス新規感染者数の増加も日常化し、人々の生活への大きな障害にならなくなってきたため、国内景気は経済活動の再開を背景に持ち直しつつある。企業の設備投資計画も依然として堅調である(輸送業)。
・エネルギー価格の上昇により製造経費や物流費が高騰しているが、製品の価格に転嫁することは難しく、粗利率が下がると推測する(食料品製造業)。
サプライチェーンの混乱収束のような頼もしい話もあるが、材料費などの高騰でビジネスがし難くなるとの意見も見受けられる。
雇用関連では現状を再認識できる結果が出ている。
■現状
・ホテル、旅館などの募集は依然として多いが、求職者からの応募がなく、マッチングに至っていない。派遣金額を上げても出てこない(人材派遣会社)。
■先行き
・求人者の多くは一定の受注があり業況はまずまずである。しかし、資材、燃料、電気などの価格高騰により収益が低下し、今後徐々に求人数を抑制する動きが出ることも懸念されることから、雇用状況も踊り場に入る可能性がある(職業安定所)。
業種別で求人の傾向に違いが見られるのは興味深い。また、企業の儲けが減ることで新規雇用の余裕がなくなるため、雇用状況が漸減することも考えられる。
リーマンショックや東日本大震災の時以上に景況感の足を引っ張る形となった新型コロナウイルスだが、結局のところ警戒すべき流行の沈静化とならない限り、経済そのもの、そして景況感に大きな足かせとなり続けるのには違いない。恐らくは通常のインフルエンザと同等の扱われ方がされるレベルの環境に落ち着くのが収束点として判断されるのだろう。あるいは社会様式そのものを大きく変えたまま、通常化するのかもしれない。世界的な規模の疫病なだけに、ワクチンなどによる平常化への動きを願いたいものだが。
さらにロシアによるウクライナへの侵略戦争は日本が直接手を出して状況を改善できる類のものではない。物価上昇の大きな要因となっていることもあり、景況感に与える悪影響は大きなものとなる。景況感の悪化を押しとどめ、改善へと向かわせる間接的な対応を、関係各方面に望みたいものである。
上記は今記事のダイジェストニュース動画(筆者作成)。併せてご視聴いただければ幸いである。
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※景気ウォッチャー調査
※DI
内閣府が毎月発表している、毎月月末に調査が行われ、翌月に統計値や各種分析が発表される、日本全体および地域ごとの景気動向を的確・迅速に把握するための調査。北海道、東北、北関東、南関東、甲信越、東海、北陸、近畿、中国、四国、九州、沖縄の12地域を対象とし、経済活動の動向を敏感に反映する傾向が強い業種などから2050人を選定し、調査の対象としている。分析と解説には主にDI(diffusion index・景気動向指数。3か月前との比較を用いて指数的に計算される。50%が「悪化」「回復」の境目・基準値で、例えば全員が「(3か月前と比べて)回復している」と答えれば100%、全員が「悪化している」と答えれば0%となる。本文中に用いられている値は原則として、季節動向の修正が加えられた季節調整済みの値である)が用いられている。現場の声を反映しているため、市場心理・マインドが確認しやすい統計である。
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