今後は日銀の姿勢の異常さが際立ち、かつてヘッジファンドに敗れたイングランド銀行の二の舞になりかねない
米国が日本の為替介入をけん制
10日に財務省と金融庁それに日銀の幹部が臨時の会合(国際金融資本市場に関する情報交換会合)を開いた。会合には財務省の神田財務官と金融庁の中島長官、それに日銀の内田理事らが出席し、午後4時から財務省で行われた。
政府と日銀は会合後に声明文を発表。このなかで各国通貨当局と緊密な意思疎通を図りつつ、必要な場合には適切な対応を取るとした。
しかし、同日に米国の財務省は半年に1度の外国為替報告書を公表し、円安が進んでいる日本について「為替介入は適切な事前協議を伴う非常に例外的な状況に限定されるべきだ」として、けん制を続けたのである。
つまり日銀による為替介入については協調介入は当然ながら単独介入も極めて難しくなる。米国政府が自国の物価が40年ぶりの水準に高止まりしているなかにあって、物価をさらに上昇させかねないドル安を容認することは考えずらい。バイデン政権にとって現在の最大の課題が物価対策となっている。
米消費者物価を受けた米債安で円債も下落
米労働省が10日に発表した5月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比の伸び率が8.6%となった。3月の8.5%をさらに上回り、8.9%だった1981年12月以来、40年5か月ぶりの水準となった。これを受けて米10年債利回りは一時、3.17%に上昇し、再び3.2%が見えてきた。
ECBは7月の利上げを示唆しており、遅くとも9月までにはマイナス金利政策を解除する方針である。ドイツの10年債利回りもここにきて上昇しており、10日には1.5%台に上昇した。
10日の日本の債券市場では、10年国債新発債(カレント債)の利回りが0.25%と日銀の定めたレンジの上限をつけてきた。このため、この日の指し値オペでは3709億円の応札・落札があった。
10日の債券先物9月限の引けは149円03銭となっていたが、その後のナイトセッションでは、米債安もあり、148円80銭に下落している。つまり10年債利回りは実質的に0.25%を上回る水準にあるといえる。
週明け13日の債券市場は10年債の0.25%が意識されて下げ渋る可能性はある。しかし、欧米の国債利回りの上昇により、超長期債などに売り圧力が掛かり、イールドカーブが歪になる可能性が出てきた。
欧米の中央銀行の金融政策の正常化、スイスまでもか
そして13日の週はFOMCやイングランド銀行のMPC、日銀の金融政策決定会合が開催される金融政策ウイークとなる。実はこの週は別に注目すべき中銀の会合が開催される。16日のスイス国立銀行(中央銀行)による金融政策を決める会合である。
米大手銀行シティバンクは、この会合で政策金利を25ベーシスポイント引き上げるとし、2022年末までにマイナス圏を脱すると予想しているとした(10日付ロイター)。
すでにECBは9月にもマイナス金利政策を解除し、スイス国立銀行もマイナス金利に動くとすれば、世界の中央銀行でマイナス金利政策を行っているのは日銀だけとなる。
今後は日銀の姿勢の異常さが際立ちかねない
日銀は長期金利までも押さえ込むことで、欧米との金利差拡大が意識され、円安圧力が今後、強まることも予想される。為替介入が現実的ではない以前に、金融政策の柔軟化をまったく考えていないとする日銀の姿勢の異常さが際立つことになる。
このまま円安が進むと財務省と金融庁、日銀が懸念する事態、つまり為替市場での急速な変動、さらなる円安が起きることが予想される。
欧米の国債利回りの上昇により、超長期債などに売り圧力が掛かるだけではない。政府が2025年度のプライマリーバランス(PB)黒字化目標を事実上先送りしたことで、財政懸念が超長期債の利回り上昇に拍車をかける可能性も指摘されている。
ここで日銀が指し値オペで10年債カレントを際限なく吸収するとなれば、財政ファイナンスが意識されかねない事態となりうる。ヘッジファンドなど海外投資家による絶好の売り仕掛けのチャンスを与えかねない。
これらを防ぐには、少なくとも日銀は緩和方向にしか考えを巡らしていないという姿勢の変化を示す必要がある。長期金利コントロールやマイナス金利政策の解除の可能性を含め、今後は柔軟な対応を示す姿勢を明確にする他はないと考える。そうしなければ今後、日銀は追い込まれ、かつてヘッジファンドに敗れたイングランド銀行の二の舞になりかねない。