2021年福島県沖地震でデマは桁違いに拡散したのか
2021年2月13日に,福島県沖で地震が発生し,東北地方では震度6強を記録し,大規模な停電を引き起こすなど大きな被害をもたらしました.
地震が起きると「ツイートする前に逃げよう」という標語ができるくらいには,ツイッターが盛り上がってしまうわけですが,そこでは役立つ情報が投稿される一方で,デマも投稿されたようです.毎日新聞でも,地震でまたも飛び交ったデマや差別発言 桁違いの拡散、どう対処? という記事が出ていました.
さて,本当にデマや差別発言は桁違いに拡散したんでしょうか?データを分析してみましょう.
井戸に毒を投げ込むツイートは許されるのか
今回毎日新聞の記事にあったデマは「井戸に毒を投げている」というものです.そこで,「井戸」を含むデータを抽出して分析を行ってみました.
井戸に毒を投げているというツイートで最も拡散したものは
というもので,数百回以上リツイートされたようです.しかしながら,当該ツイートは既に削除されており,分析データの対象とはなりませんでした.
データを取り始めた2021年2月14日21時の段階で「井戸」を含むツイートを見てみましたが,少なくとも1度は拡散されたツイートの中で誰かが井戸に毒を投げ込んだというツイートは,「ネット右翼」「BLM」「プペル」「Qアノンとキンコン西野と池っち店長」「朝鮮人」などが見つかりました.
次に,どのくらいの記事がこういった差別的なデマだったのかを調べるために,ランダムに100個のツイートを抽出し,それぞれのツイートがどのような内容だったのか根性マイニング(著者が目で見て頑張って仕分けるデータマイニング手法)を用いて分類しました.
その結果がこちら.
これを見ると,半分以上がデマを流したことに対する批判であることがわかります.デマそのものは全体の1%にも満たない数であることがわかりました.
これを考えると,「井戸に毒」デマは存在したが(小さいほうに)桁違いの拡散しかしなかった,と言えそうです.
むしろそれを諫めるツイートが多かったということは,たとえ(バイデンが・・・のような)ジョークであっても不謹慎なデマツイートは許すべきではないという考えが多かったのではないかと推測されます.
人工地震だったのか?
次に,人工地震のツイートについても同様に見てみましょう.こちらも,根性マイニングを用いてランダムに抽出した100件のツイートにどのような内容のものがあったのか分析してみました.
人工地震を含むツイートの内訳はこちら.
これより,井戸に毒デマと同様批判が最も多く,40%以上を占めていることがわかります.ただ,井戸に毒デマと異なり,今回の地震が人工地震であるという主張のツイートが全体の25%程度あることも明らかとなりました.
人工地震という単語を含むツイートが8万件程度でしたので,意外と人工地震クラスタはいるようです.人工地震を信じている内容をRTしたアカウントも3500程度あることが確認できました.そのすべてが信じているとは限りませんが,そこそこの数はいるようです.
というわけで,人工地震については桁違いではないがそれなりの数のツイートが拡散された,と言えそうです.
デマ関連ツイートのクラスタリング結果
今回のデマについてツイートのクラスタリングを行った結果が以下の図になります.
このうち,クラスタAは井戸毒デマを批判するツイート群,Bは人工地震を否定するツイート群でした.そして,興味深かったのが,CとDが人工地震を肯定的に捉えるツイート群だったという事です.
通常,一つの主張をするようなツイートは一つのクラスタにまとまることが多いのですが,なぜか人工地震肯定派のクラスタは二つに分離していました.二つのクラスタで支持されていたというのが,人工地震を肯定するツイートやアカウントが多かった理由なのかもしれません.
終わりに
以上,2021年2月13日の地震に関連した「井戸に毒」「人工地震」デマツイートについて分析を行ってみました.
新聞にあったように「桁違いの拡散」をした形跡はありませんでしたが,人工地震に関しては肯定的なツイートが多く拡散している点は興味深いですね.
最近は大統領選陰謀論、日本語で特に拡散したといったことが指摘されていますが,人工地震のような陰謀論的な情報が広く拡散しているのもその一環なのかもしれません.
事実,人工地震肯定派アカウントを調べたところ,その50%程度がトランプ大統領支持ツイートをリツイートしているアカウントでした.このあたり,新型コロナワクチン接種が本格化してくるこれから,陰謀論が席巻することがないように注意したいところですね.
ちなみに,新聞記事では,
という記述がありましたが,たいして広まっていないデマを「桁違いの拡散」したかのようなタイトルで書くというのも,デマへの注意喚起をしたいという気持ちはわかるものの,やりすぎではないかと思います.
「トイレットペーパーが無くなるというデマが拡散している」という非実在デマが拡散したことでトイレットペーパー不足を招いてからまだ1年もたっていません.
ほとんど存在しないデマを「デマが大量にある」と主張することも,時に社会的混乱をもたらすことがあるので,デマに注意することはもちろん,「デマがある」という情報も場合によっては注意した方がよさそうです.