3連勝、ヤングなでしこが盤石の強さでノックアウトステージへ。決勝まで4試合「一番の強みは攻撃力」
【3試合でフィールドプレーヤー全員が出場。高地順化の成果も】
コロンビアで開催中のU20女子ワールドカップに出場しているヤングなでしこ(U-20日本女子代表)が、グループ首位でノックアウトステージ進出を決めた。
日本がグループステージを戦った首都・ボゴタは標高2600mで、過去の代表戦でもあまり例がない高地。高地では通常よりも運動時の心拍数が上がりやすく、回復に時間を要する。チームは20日間で最大7試合を戦うため、初戦の2週間前に現地入りして高地順化を行ったという。
「選手個々の体調をモニタリングし、走行距離や心拍数の変動、体調の変化をメディカルスタッフやフィジカルスタッフ、テクニカルスタッフと見ながら進めてきました。順応には個人差があるので、しっかりとフィードバックしながら着実に試合を行えるコンディションを整えました」(狩野倫久監督)
その成果もあり、9月2日の初戦は、ニュージーランドに7-0と幸先の良い快勝を飾った。
ゴールラッシュの口火を切ったのは土方麻椰だ。16分に松永未夢、38分には小山史乃観から絶好のラストパスを引き出してゴールネットを揺らし、2点をリード。41分に笹井一愛が得意のドリブルから3点目を決めると、45分には中央を崩して大山愛笑が4点目。後半は小山、早間美空、終了間際には笹井が決めて締めくくった。日本が打ったシュートは30本超。その半数以上が枠を捉えていた。
「事前合宿からチームで高地順化に取り組んできて、試合の中で自分たちでボールを持つことでゲームコントロールをして、交代選手もうまく使いながら全員でペースを作りながらゲームを進められました」
試合後のフラッシュインタビューで、キャプテンの林愛花はチームの仕上がりに手応えを示していた。
この試合でインパクトを残したのは、途中出場の早間だ。判断スピードの早さと技術の高さを惜しげもなく披露。中距離のフィードを足の裏でぴたりと止めて持ち替え、相手をかわしてフィニッシュに持ち込んだ81分のシュートは、足に強力な磁石がついているようだった。
第2戦はガーナに4-1で勝利。10番のステラ・ニャメキェに背後を取られるシーンや、個人技に手を焼くシーンも見られたものの、日本も初戦では出場機会がなかった背番号10の松窪真心が躍動。中盤と前線のコンビネーションで相手を翻弄すると、前半終了間際に笹井と松窪のゴールで2点のリードを奪った。後半は、早間が相手4人の寄せをかわすファインゴールで沸かせる。82分にPKで1点を失ったが、90分には松永がドリブルから左足でフィニッシュ。1対1に自信を持つGKアフィ・アメニェクもお手上げとばかりに天を仰ぐシーンが見られた。
第3戦は、ともに全勝で首位通過を狙うオーストリアと激突。最終ラインを5枚にしてコンパクトに守るオーストリアの守備網をこじあけるのに苦労したが、20分過ぎから日本が主導権を握る。2列目で角田楓佳、小山、松窪のトライアングルが流動的に動き、中央とサイドから多彩な攻撃を展開。38分にセットプレーの流れから土方が頭で押し込んで先制し、その後も危なげない戦いぶりで78分には天野紗のスルーパスを受けた土方がGKの脇を抜く強烈なワンタッチシュートを決めた。
今大会4点目を決めた土方はランキング2位に浮上。背後への動き出しもさることながら、予測不可能な動きで相手DFを惑わせ、相手のファウルを誘うシーンが多く見られた。
「スペースを開ける動き、ボールを引き出す動き、そこに対するパサーがいて、彼女(土方)の決定力があります。クラブでも代表活動でも得点に対する準備を着実に積んできたことが、グループステージでの活躍につながっていると思います」(狩野監督)
パサーとして、前回大会に続き、今大会でも大山がチームの心臓になっている。一発で相手の裏を取る精緻なスルーパスは、ため息を誘う。
今大会はVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)は導入されていないが、FIFAの新しい取り組みとして「フットボールビデオサポート(VS)」が採用されている。VARほどのコストはかからないが、ビデオ判定で結果に関わる重大な判定の間違いを修正できる。両チームの監督が1試合に2回まで、判定の修正をリクエストできる。
「選手も含めていろんなレクチャーを受け、現地でも準備を進めてきました。まずはレフェリーがしっかり見て進めてくれることが前提ですが、重要なアクションや事象があったときにはリクエストできるという意識を持っています」(狩野監督)
【強豪ぞろいのノックアウトステージへ。新しい取り組み“VS”も採用】
3試合を通じて日本はフィールドプレーヤー全員がピッチに立ち、7人がゴールを決めた。5つの交代枠をフル活用し、中2日の過密日程を順調に乗り切っている。
とはいえ、「(決勝まで)7戦と考えるとまだ半分も終わっていない」と、オンラインインタビューに応じた狩野監督は表情を引き締めた。
決勝トーナメントの組み合わせを見ると、アジア最大のライバルであり、今大会の優勝候補である朝鮮民主主義人民共和国とは別の山になったものの、同じ山も強豪国がずらり。ラウンド16でアフリカの強豪・ナイジェリアと対戦することになり、その後も前回王者のスペインやフランス、オランダ、コロンビアなどの難敵が待ち受ける。
現地時間9月12日の夜に対戦するナイジェリアは、アメリカ、ブラジル、ドイツと並んで全11大会に出場したアフリカの強豪だ。ガーナ同様、背後への動き出しには警戒したいが、実力的には日本が格上となる。
「アフリカの選手特有の身体能力の高さを持った選手たちを特に前線に多く起用しているので、それに対する準備がキーになると思います。私たちの一番の強みである攻撃力をいかに発揮してそれを抑えていくかに力を入れて、準備しています」(同)
特に、背番号2のチアマカ・オクチュクは並外れたスピードと技術、決定力を兼ね備えており、警戒したい。
決勝まで進めば、11日間でさらに4試合を戦うハードな日程となるが、ヤングなでしこの真価が問われるのはここから。海外組を含め、数年後にA代表入りが期待されるタレントも少なくない中で、この先に立ちはだかるベスト8の壁を越えれば、ファイナルの舞台に辿り着くことは決して不可能ではないはずだ。
ノックアウトステージは、グループステージ同様全試合が「FIFA+」(無料)でライブ中継(配信)される。