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北朝鮮「五輪で自撮り」選手らを“思想洗浄”…「韓国人とニコニコ」批判対象に

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
卓球混合ダブルスでメダルを獲得した北朝鮮と韓国、中国の選手ら(写真:ロイター/アフロ)

先日閉幕したパリ五輪の卓球混合ダブルスで、3組のメダリストの「自撮り」が話題になった。

銅メダルを取った韓国のイム・ジョンフン選手、シン・ユビン選手のペアが声をかけて、金メダルを取った中国の王楚欽選手と孫穎莎選手、銀メダルを取った北朝鮮のリ・ジョンシク選手、キム・グミョン選手が6人で1枚の写真に収まった。

とてもほほえましい、オリンピックらしい姿だと世界中で話題になったのだが、一部には「北朝鮮選手が帰国後に酷い目に遭うのではないか」と心配する声もあった。実際、北朝鮮のスポーツ選手は、国際大会からの帰国後には厳しい自己批判を迫られる。

平壌のデイリーNK高位情報筋によると、オリンピックに参加した北朝鮮オリンピック委員会の代表団と選手団は今月15日に帰国して以降、思想総和(総括、評価)を受け続けている。

(参考記事:女子高生ら20人が禁断の行為…北朝鮮「スポーツ合宿」の秘密

国際大会に参加したスポーツ選手は、原則として1カ月にわたり3段階の総和を受けることになっている。パリ五輪に参加した選手は朝鮮労働党中央委員会(中央党)、体育省、そして自主総和の3回の思想総和を受けている。

「選手が帰国した瞬間から総和が始まる。できるだけ早いうちに『洗浄』するのだ」(情報筋)

ここで情報筋は「思想洗浄」という表現を使っている。つまり、外国に行くことそのものが、非社会主義(北朝鮮当局の考えるところの風紀の乱れ)文化に接する行為で、「汚染された地」に足を踏み入れるという扱いで、「汚れ」が染み込み、広がらない内にさっさと洗い流してしまおうというものだ。同様の意味合いで「水抜き」という言葉が使われたりもする。

現在行われているのは、中央党宣伝扇動部傘下のスポーツ担当部署が行う総和だ。

出国から帰国に至るまでのすべての過程を調査、分析、評価するもので、選手がオリンピック期間中に朝鮮労働党の方針や教育の内容にそぐわない行動をしていないかを確認し、問題があれば処罰を下す。

選手たちは出国前に「韓国を含む外国の選手と接触するな」との指示を受けていたのだが、リ選手、キム選手の行為は、これへの違反に当たる。

次に行われる内閣体育省の総和では、五輪での成績に対する評価が集中的に行われる。

過去に行われた国際大会より良い成績を収めた選手に対する評価と表彰が行われ、成績が振るわなかった場合には批判を受ける。場合によっては処罰を受けることもある。実際に、1〜2カ月の無報酬労働の処分を受けたケースもある。

最終段階で行われるのは自主総和だ。自己批判の後、お互いが批判をし合う相互批判を行う。五輪期間中の自らの「誤った行動」を批判し、他の選手の問題のある言動を批判し、公開の場で反省するといった形だ。

他国の選手との接触があった場合には、積極的に自己批判をした方が政治的、行政的な処分を逃れられる可能性が高まる。

(参考記事:北朝鮮サッカー代表「負けて炭鉱送り」は本当だった…W杯で決勝点の「英雄」にも容赦なし

韓国、中国の選手と共に写真を撮ったリ選手、キム選手の行為は、批判の対象となるものだ。情報筋によると、「一番の敵対国である韓国の選手が隣りにいるのにニコニコしていた」というのが、報告書にまとめられた批判すべき事項だった。キム選手は自撮りのときにニコニコしており、リ選手は、表彰台から降りて、ニコニコしながら他国の選手と長時間やりとりをしたのが問題だった。

ただ、銀メダルに輝き、北朝鮮卓球の名声を世界に轟かせ、「自撮り」で世界を感動させた選手を処罰して、それが世界に知られれば、それこそ北朝鮮の評判がダダ下がりになる。結局は、軽い警告や自己反省で済ませられるかもしれないが、結果はまだ出ていない。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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