なぜ『ブラタモリ』名古屋編はこんなに話題沸騰したのか?
名古屋地区で歴代1位の視聴率。放映前からメディアで話題に
NHKの人気番組『ブラタモリ』の名古屋編が6月10・17日の2週にわたって放映されることになりました。既に放映済の1回目の名古屋地区での平均視聴率は17・5%(ビデオリサーチ調べ)。同地区において75回目の放送で堂々ナンバー1を記録しました。関東地区13・9%、関西地区11・8%と比べても名古屋の視聴率は飛び抜けて高く、地元での関心の高さが如実に表れる結果となりました。
番組の放映前から「タモリ、名古屋へ!」は大いに話題となっていました。放映が発表された翌5月20日には中日新聞が5段ブチ抜きで速報として掲載。“タモリさんは「エビフリャーのネタなどで名古屋がイジられる原型を作った因縁の人物。地元では驚きと歓迎の声が上がる”と報じました。インターネットでも“歴史的和解”などと書き込みが相次ぎ、朝日新聞、読売新聞もこの話題を掲載。テレビの一番組の事前情報としては異例の広がりを見せました。
80年代のエビフリャーと近年の“名古屋ぎらい”
これほどまでに話題になったのは、タモリさんと名古屋の微妙な関係性、そして現在名古屋の置かれている状況が背景にありました。
80年代頃、「エビフリャー」「ミャーミャー」などの名古屋弁模写はタモリさんの十八番のひとつでした。この頃のタモリさんはきわめて毒気の強い芸風を特徴とし、名古屋はその強烈なブラックジョークの格好の標的でした。ちょうどこの当時から、名古屋は「大いなる田舎」「ジョークタウン」「日本3大ブス産地」といったありがたくないレッテルを貼られ、メディアから揶揄の対象とされることが多くなっていました。加えて名古屋人のトラウマである1988年のオリンピック落選をタモリさんがネタにしたこともあり、名古屋においてタモリさんは「名古屋イジリの元凶」「仇敵」と強く印象づけられることとなったのです。今回の報道やネット上の「敵地・名古屋へ」「名古屋嫌いは誤解?」「歴史的和解」といったフレーズにもそんな過去の因縁が反映されています。
そして数十年の時を経た今。名古屋に対するネガティブな報道は、ゼロ年代の名古屋経済の絶頂期などもあって長らく影を潜めていた感がありました。ところが、昨年の「行きたくない街ワースト1」のアンケート結果や週刊誌の「名古屋ぎらい」報道で、またぞろ名古屋を面白半分にイジる風潮がふってわいたように復活してしまいました。つまり、現在のメディアでの名古屋の扱われ方は、タモリさんが盛んに名古屋をネタにしていた80年代とよく似た状況にあったのです。そして名古屋人の心境は、内容を真に受ける・受けないにかかわらず、「魅力がない」「嫌われている」との世間の声を嫌が応にも気にせざるを得ない状況にあった、と言えます。
そんな折も折、かつての宿敵(?)タモリさんが、町の魅力を掘り起こすことにおいて今最も影響力を持つ『ブラタモリ』で名古屋へやって来る、となったのです。名古屋のマイナスイメージを作った(と名古屋では思われている)張本人が、名古屋の魅力を全国に伝えてくれるとなれば、「魅力がない」の汚名返上にこれ以上効果的な手はない。関係者がそんな風にとらえたのも無理からぬところだったと言えます。
いずれにしてもこのタイミングだったからこそ、ここまで話題となり、地元の期待も膨らんだことは間違いありません。
名古屋市と局がタッグを組んで大々的PR作戦を展開
千載一遇のチャンス!と盛り上がった名古屋市の力の入れようは大変なものでした。
「『ブラタモリ』のロケが名古屋である、と知らされた時点で、“これは何としてもモノにしなければ!”と市を挙げてプロモーションに取り組みました」と名古屋市役所・ナゴヤ魅力向上室の田頭泰樹室長。番組の告知チラシを1万枚配布し、ブラタモリ仕様のラッピングバスを走らせたり、市のマスコット・はち丸君を黒サングラスの“ブラハチマル”に扮装させたりもしました。さらに「局内以外の名古屋城などにもタモリさんの等身大パネルを設置。名古屋テレビ塔のイルミネーションでも番組をPRしました。いずれも過去に例がない取り組みです」とNHK名古屋放送局。このように自治体と局が一丸となって、一テレビ番組のパブリシティとしては異例の大々的な展開をくり広げました。地元での高視聴率は、こうした前のめりなほどのPR戦略が奏功した結果だったとも言えるのです。
マップやWeb記事で放映後も相乗りPRを継続
名古屋市の『ブラタモリ』への相乗りは事前の広報活動にとどまりません。番組で紹介された名古屋城、城下町、熱田神宮をタモリさんと同様のルートで巡ることができる「名古屋ブラリMAP」を作成して各所で配布(近日より)。ナゴヤ魅力向上室のWebサイト「SNUG CITY NAGOYA」でもやはり同様の趣旨のガイド記事「ブラナゴヤ」が番組放映終了に合わせて公開されます(この記事の作成は実は私が担当しています)。
「“名古屋城、名古屋の町が面白い”とあらためて広く知ってもらえる内容は非常にインパクトがあり、社会現象にまでなった。視聴率も裏番組の数字は普段通りの上、エンドロールまで右肩上がりで、『ブラタモリ』のためにテレビをつけて最後まで熱心に観てくれた方が多かったことを証明している。しかし、この効果を継続させるには今後自分たちでどうプロモーションに活かしていくかにかかっています」と前出・田頭さんは言います。
名古屋人は元来、地元のよさに目を向けたり、外へ向けてアピールすることが苦手と言われます。名古屋めしが典型ですが、他所の人が認めてくれて初めて「そうか」と気づくというケースが少なくありません。個人的には、名古屋地区での視聴率が特によかったという結果からも、県外へのPR以上に地元の人がこれを機に町の魅力を見直してくれれば、と期待しています。
もちろん、番組をきっかけに名古屋へ来てくれる人が増えてくれれば喜ばしいこと。あと10年もしたら、タモリさんが“名古屋イジリの張本人”から“名古屋ブームのきっかけを作った功労者”になっているかもしれません(?)。