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「腹が減って農作業ができない」北朝鮮が陥った食糧不足の悪循環

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
北朝鮮の兵士(デイリーNK)

農業の機械化が遅れている北朝鮮では、都市部から大量の人を動員して一気に田植えを行う。このような「田植え戦闘」は季節の風物詩となってきたが、最近になって異変が生じている。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。

両江道(リャンガンド)の農業部門の情報筋によると、内閣農業委員会は今月3日、「全国が力を合わせて田植えと草取りを前倒しで終えよう」という農村支援総動員令をかけた。5日から25日が総動員期間だ。同時に、朝鮮労働党中央委員会(中央党)組織指導部も「農村にすべての人力を集中させることについて」という指示を下した。

現地では指示に先駆けて先月25日からジャガイモの種芋を植え始めた。これは例年より10日も早い。また、田植えの開始も今月1日からに前倒しされた。これに伴い、動員も例年より5日前倒しとなった。

しかし、人手が足りないのだ。

(参考記事:北朝鮮「骨と皮だけの女性兵士」が走った禁断の行為

別の情報筋によると、今年は初級中学校(中学校)の生徒まで田植えに動員しているが、人手が足りず、前倒しされた日程に合わせられなかった。そうするとその後の日程もずれ込む。

農場とは異なり、個人の小規模な畑ではジャガイモを例年通りに今月5日から植え始め、20日までに終える。前倒しの理由は「早く暖かくなった」というものだが、「前倒ししたからと生産量が増えるわけではない」(情報筋)という。

それどころか、早く植えただけ雑草も早く生え始めるので、例年なら2回で済む草取りが、今年は4〜5回やるハメになりそうなのだという。ただでさえ人手が足りていないのに、農業の現実を知らない中央が指示を下し、余計な仕事を増やしてしまう結果となった。

人手が足りない理由は、「飢餓」にある。

「多くの農村住民が食べるものがなく、農場に出勤できていない」(情報筋)

一方、農村支援の人手が足りないことについて、情報筋は別の理由を挙げた。

「工場、企業所の労働者はすべて平壌の建設工事や西海(黄海)干拓地の工事、端川(タンチョン)発電所の建設工事など、国家建設に動員され、残っていた35歳未満の若者も、地方工業工場や農村住宅建設に動員された」

当局は、端川のダム建設など従来の大規模な国家的工事に加え、「地方発展20×10政策」に基づく工場建設など、一度に様々な政策を打ち上げすぎた。そのために人手が足りずに中高生や大学生など、一部の人しか農村に動員できないことになったのだ。

さらには食糧不足が、人手不足に拍車をかけた。

「農村支援期間は1カ月なので、その間の食べ物を持ってこなければならないが、1週間から10日分の食べ物しか調達できず、おかずも持ってきていない人が多い」(情報筋)

本来なら動員された人の食べ物は国が保証すべきところだが、動員された人自身が調達することになってしまっている。食糧事情が逼迫しているのは農村も同じで、動員された人に分け与える余裕がない。動員された人々は、まともに働けば腹が減るばかりなので、仕事をサボり動員期間が終わるのを待つだけだ。これでは田植えがはかどるわけがない。

近年、少子化が深刻な北朝鮮だが、特に農村、炭鉱などで労働力が足りていない。当局は都会の若者を無理やり農村などに送り込む「嘆願事業」を行っているものの、うまくいっていないようで、労働力不足は一向に改善する気配がない。

機械化が唯一の解決法だが、燃料が不足しているためそれもままならず、自然災害も多発している。さらに穀物販売を国の専売制度に戻そうとする政策が、食糧不足に拍車をかけている。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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