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小池都知事「会心の一撃」で、議会の利権構造を変えられるか 「政党復活枠」200億円を廃止!

高橋亮平日本政治教育センター代表理事・メルカリ経営戦略室政策企画参事

議員側がねじ込む予算

東京都の小池百合子知事が11月25日の定例記者会見で、当初予算編成で慣例の「政党復活枠」200億円の廃止を表明した。

議会についてあまり知らない人から見ると、どういうことなのかいま一つ掴みにくい話かもしれないが、この「政党復活枠」の廃止は、議員の求心力となる利権構造にメスを入れる画期的な一撃になる可能性がある。

東京都ではこれまで、毎年12月に都議会の各党から予算要望を受け、翌年1月上旬に予算原案を作成。この原案に基づき各党は、1月中旬に業界団体などの意向を踏まえた2度目の予算要望を都に行う。

これを受け、知事側は「政党復活枠」と呼ばれる200億円の財源から追加計上し、「予算案」を確定させていた。

単純化させて説明すれば、東京都の職員が知恵を絞り、全体最適の観点から配分を考えた際には予算がつかないものについて、議員側が別の力学で優先度をつけ加えるというものだ。

よく言えば、「都庁からは見えない都民一人ひとりのニーズを議員が吸い上げて反映する」ということなのだろうが、うがった目で見れば「力学を捻じ曲げてでも議員側がねじ込む予算」とも言えなくはない。

地方議員に限った話ではないが、支持者や後援者の要望をどれだけ実現できるかは、政治家の求心力の中心となる。

特に都道府県政においては、許認可関係の利権誘導も見られるので、こればかりではないが、予算をどれだけ取って要望に応えられるかは、政治家にとって最も大きな要素でもあり、こうした仕組みが利権構造として「政治家の力」になってきたわけだ。

東京都の予算全体から見れば200億円など大した規模にはならないが、それでも毎年確実に政党からの要望を反映するという予算がなくなるということは、議員側のダメージは大きく、議会の役割を大きく変えるキッカケになる可能性がある。

「小池知事vs都議会自民党」第2ラウンド

今回廃止になる「政党復活枠」は各政党から要望を受けるものだが、小池知事からすれば、この廃止の裏にあるのは間違いなく「憎き都議会自民党の利権の根源を断ち切ってやる」との思いだろう。

勿論これだけで利権を根絶できるわけではないが、議員たちにとっては大きな痛手となることは間違いない。

それだけに都議会自民党との関係悪化は目に浮かぶし、小池知事は当然、そのことを前提として踏み込んだのだと考えられる。

その意味で、現段階ではメディアの扱いも小さいが、小池知事から都議会自民党に対する「宣戦布告」であり、ボディブローのように徐々に効いてくる一撃になったのではないかと思うのだ。

都知事選挙の際には、「小池百合子候補vs都連+都議会自民党」といった構造だったものが、築地市場の豊洲移転問題で、小池知事と議会が一体となって「vs都庁の古い体質や職員」という構造になりかけていた。

それが、ここへきて改めて「小池都知事vs都議会自民党」の原点に還り、もう一度、都議会の利権構造に踏み込んで行こうという意図が見え隠れする。

今後、この構造がどうなっていくかを是非、厳しく見守っていってもらいたいと思う。

利権構造改革の本丸へつなげろ

今回の「政党復活枠廃止」に関する記事等を見ていると気になるところがある。

「各党の要望は年末の1回のみとし、知事が直接、公開の場で業界団体からヒアリングをする……」

「政党復活枠」については廃止するものの、年末の各党からの予算要望については旧来通り行うということだ。

この年末の予算要望で各党が要望したものがこれまで以上に知事の予算編成に反映されてしまうことになれば、実態的には議員の利害は変わらないどころか、「政党復活枠」ですらなくなる。しかも、都民からは以前にも増して見えにくくなってしまう。

「都議会の利権構造に切り込む」とした小池知事のことだから、この辺りは徹底的にやってくれるものと信じたいところではあるが、都民の皆さんにも是非、チェックしてもらいたいポイントである。

これまでの悪しき慣例と紹介してきた「政党復活枠」だが、逆に言えば、この制度にもいい部分はある。予算原案と最終的な予算案を比較すれば、各政党が復活枠を使って「ねじ込んできた予算」が目に見えるのだ。

都議会議員たちには是非、どの政党・会派がどのような予算をねじ込み、税金をいくら使ってきたのかを明らかにしてもらいたい。その上で、それぞれの政策の効果を検証してみたいものだ。

地方議会を変える可能性

当初予算編成で慣例の「政党復活枠」の廃止を表明した際、小池百合子都知事はその理由として「予算編成権は知事にある」と説明している。

これはまさに「その通り!」である。

東京都のみならず自治体における予算等に関する権限について見てみると、地方自治法 149条2項で認められている「予算の執行権限」とともに、同1項と2項から「予算案の提出権」についても首長の専権事項とされており、97条2項でも(地方議会は)「長の予算の提出の権限を侵すことはできない」となっている。

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こうしたことから考えれば、そもそも議員が要求したものがそのまま予算化される枠を200億円も用意してあること自体、「地方自治に反した仕組み」であることが分かる。

だとすれば、あるべき姿に戻すのに「議会への説明がないのは議会軽視だ」などと言っている方がおかしいとも思う。

しかし一方で、こうした「政党復活枠」のような枠が用意されているかどうかは別として、ほとんどの自治体において、議会からの要求を受け、その過程において予算化されるということが慣例的に行われているのが実態だ。

だからこそ、今回、日本中の注目を集めている東京都と都議会との関係の中で、小池知事がこの枠組みにメスを入れようとしたことの価値は大きい。

単に東京都議会や都議たちへの影響だけでなく、さらにその先、全国の地方議会へと波及する可能性があるからだ。

支持者などの要望の予算化は議員の権力の根幹であり、その構造がなくなれば、利権構造を維持することが難しくなる。

今回の小池知事の行動は、議会の利権構造や議会と行政の関係といった力学を大きく変えるきっかけになるのではないか。

気に食わなければ組み替えればいい

ただ、そうは言っても、自らの権限が相談もなく奪われるのに、議会側がおとなしく従うとも思えない。

多くの自治体で、議会側の多数と反する立場の首長が当選すると、議会が予算や議案を通さないといった状況になることがままある。

予算については、先に示したように予算編成権のほか執行権限までが首長の専権事項になっている一方で、予算決定権は議会にあるからだ。

予算等に関する議会の権限は、地方自治法96条2項で「議会は予算を定め」とされており、同3項で「決算を認定する」ともされている。

つまり「予算を決めるのは議会」であるということだ。気に食わなければ「通さない」という全面戦争になることも考えられる。

一般に地方議会においては「執行できないと困るのは行政だろ」という力学が働くことがあるのだが、実際には予算執行ができなくて困るのは都民(市民)であり、その意味では首長側だけでなく、議会側にも困ってもらわなければならないのだが……。

こうした中で、都議会を構成する議員の皆さんにあえて言いたいのは、決定権は議会にあるのだから、「気に食わなければ予算を組み替えろ!」ということだ。

先述のように予算編成権は首長の専権事項だが、決定権は議会にあり、予算の組み替え権限も議会にあるからだ。

現在ではほとんど利用されることがなくなっているが、地方自治法97条2項では、議会には「予算の増額修正」権限も与えられている。

つまり、議会の過半数が覚悟を決め、「自分たちの理想の予算」に変更して可決してしまえば、首長にはその範囲での執行権限しか与えられないことになる。

しかし、その場合、旧来のように政策の失敗があった時に、「行政のせい」にすることはできず、予算を組み替えた議会にその責任が回って来ることになる。そもそも決定した人たちが責任を取らないという構造がおかしなことである。

今回の「政党復活枠」の廃止を受け、全国の地方議会は、もう一度、自らの権限の大きさを確認するとともに、「自らが決定した」という責任をしっかりと認識してもらいたい。

また、全国の自治体予算編成において、予算案の提示までに議会や議員との調整など行うことなく、有権者に見える形で調整する「本来あるべき形」へと予算編成のあり方を変える取り組みを始めてもらいたいと期待する。

日本政治教育センター代表理事・メルカリ経営戦略室政策企画参事

元 中央大学特任准教授。一般社団法人生徒会活動支援協会理事長、神奈川県DX推進アドバイザー、事業創造大学院大学国際公共政策研究所研究員。26歳で市川市議、全国若手市議会議員の会会長、34歳で松戸市部長職、東京財団研究員、千葉市アドバイザー、内閣府事業の有識者委員、NPO法人万年野党事務局長、株式会社政策工房研究員、明治大学世代間政策研究所客員研究員等を歴任。AERA「日本を立て直す100人」に選ばれた他、テレビ朝日「朝まで生テレビ!」等多数メディアに出演。著書に『世代間格差ってなんだ』(PHP新書)、『20歳からの社会科』(日経プレミアシリーズ)、『18歳が政治を変える!』(現代人文社)ほか。

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