登場して早々に市場で叩き売られた北朝鮮の新「肖像バッジ」
北朝鮮の国営メディアが6月30日に公開した写真で、朝鮮労働党幹部らが金正恩総書記の肖像画が描かれたバッジを公の場で着用した様子が初めて確認された。
北朝鮮メディアはすでに、金正恩氏の肖像画が祖父の故金日成主席や父の故金正日総書記の肖像画と並べて掲示されている写真を公開している。こうした一連の動きは、「金正恩独裁王朝」の完成に向けた取り組みである可能性がある。
北朝鮮の肖像画バッジは以前から、多様な種類が存在する。金日成単独のものから普及が始まったが、そのデザインも色々ある。金正日氏の肖像画が描かれたものが登場してからも、金日成単独タイプが淘汰されたわけではなく、多様なものが混在して使われてきた。
たとえば2018年には青年同盟が、翻る赤旗を背景に金日成・正日親子の顔が描かれ、その下に「青年前衛」という文字が入った「双像」と呼ばれるバッジをメンバーに配布した。
デイリーNKの現地情報筋によると、新しい物好きの若者たちの間で、このバッジはけっこう人気があったという。
1990年台後半の大飢饉「苦難の行軍」の最中や、それ以降に生まれ育った「チャンマダン(市場)世代」と呼ばれる若者は、配給などを受け取った経験があまりないため、「国や指導者はありがたい存在」との意識が希薄で、忠誠心も低いと言われている。
そういう若者たちの忠誠心を高めるため、若者が欲しがる「双像」をあえて配布した、つまり忠誠心をモノで釣ろうとしたということだ。
しかし、当局の目論見は失敗した。配布直後からこの「双像」が市場で出回るようなったからだ。受け取ってすぐに売り払っている若者が少なくなかったというわけだ。また、中央から双像を受け取った青年同盟の幹部が、一部だけ配布用に回し、残りの多くを市場に横流しした可能性もある。
本来、最高指導者の顔が描かれたものをカネで売り買いしたり粗末に扱ったりすることは重大な政治犯罪と見なされ、極刑の対象にすらなる。
(参考記事:北朝鮮の15歳少女「見せしめ強制体験」の生々しい場面)
例えば、朝鮮労働党機関紙・労働新聞の1面には金正恩党委員長の顔が掲載されることが多いため、読み終わったものは当局が回収する場合もあれば、古新聞として売る場合でも、顔の部分だけ切り取って販売する。
しかし、実利感覚に優れた「市場世代」の若者たちは、少しでもカネになると思えば売り払ってしまうのである。
では、このほど登場した「金正恩バッジ」はどのような運命を辿るのか。さすがに、今すぐ市場に出回ることはないだろう。配布された数も少ないだろうし、誰が売ったのかが発覚しやすい。
それに、金正恩氏をへたに刺激すれば、粛清の血の雨が降りかねないことを北朝鮮の人々は知っている。そんなことになれば誰の利益にもならない。金正恩バッジが市場で叩き売られるのは、もう少し先のことだと思われる。