「資本主義的だ」北朝鮮のエリート大学に内部で批判
車光洙(チャ・グァンス)は、後に北朝鮮を建国した金日成氏が、中国の吉林で暮らしていた1927年、15歳だったころに出会った人物だ。
北朝鮮の公式の歴史によると、車光洙は共産主義に心酔し、1930年7月年に朝鮮革命軍に入隊。金日成氏に従って共に抗日パルチザンとして活動し、1932年10月30日に戦死したということになっている。
当局は、車光洙を持ち上げるキャンペーンをしばしば行っているが、彼の経歴が捏造されたのではないかとの疑惑が以前から存在する。
当時、吉林近辺で中国人の農家に押し入り強盗を繰り返していた金日成氏らのグループが、朝鮮革命軍から小銃20挺を奪い、一団を追っていた高東雷(コ・ドンルェ)や小隊員10人を殺害した。それを知った車光洙が失望、訣別したとの証言がある。
ただ、この証言をした李時燦(イ・シチャン)氏の父親は、殺害された10人のうちの一人であることから、そこは差し引いて考える必要がある。そうだとしても、車光洙が自分より7歳年下の金日成氏の部下として活動したというのは、年齢秩序を重要視する儒教的な価値観からすると極めて奇妙であることは確かだ。
そんな国父の「戦友」の名を冠した大学が北朝鮮にあるが、共産主義者の車光洙が墓から生き返って抗議しそうな金儲け主義の学校だ。いや、国の機能不全からそうならざるを得ないのだ。平安北道(ピョンアンブクト)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。
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車光洙新義州(シニジュ)師範大学は、編入希望者を対象とした入学試験とオンライン面接を行った。その後の18日から3日間、身体検査と体力検査を行った。その結果、10人が合格となった。
北朝鮮の大学は通常、編入生を受け入れることはなく、受け入れたとしてもせいぜい2人までで、10人合格は異例中の異例だ。
車光洙新義州師範大学は昨年から校舎の立て直し工事を行っている。ちょうど旧校舎の取り壊しが終わったところで、これから新築に取り掛かるが、予算が不足している。そこで、急遽編入生を募集したということなのだ。
合格者リストを見ると、その両親や親戚は税関、新義州市保衛局(秘密警察)、朝鮮労働党平安北道委員会や新義州市委員会など、市内の主要機関の幹部だ。大学の内部事情に詳しい情報筋によると、大学は新校舎の建築の予算確保のために、応募者の身辺調査を行った上で合格させた。つまり、金づるとして取り込まれたということだ。
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中には今年2月の入試で不合格となった労働青年(高校卒業後に働きに出た青年)も含まれている。通常、労働青年が大学推薦書を受け取ることは至難の業で、ましてや一度不合格となった大学に入るのは不可能に近い。そのため、この青年のバックには、正体は不明ながら幹部を務める親戚がいるとの噂で持ちきりになっているという。
今回合格した編入生は6カ月間に及ぶ別途の編入コースを経て、来年2月から大学の通常の講義に出席することになる。この編入コースも特別に用意されたものであるため、「資本主義的なやり方で編入が行われた」との批判の声が上がっている。カネとコネを使った裏口入学同然ということだ。
厳しい入試を経て堂々と入学した学生の中には、これでは不公平だと露骨に不満を示す者もいるとのことだ。彼らとて、何らかのバックがあったからこそ入学にこぎつけた点では変わりないと思われるのだが。
漏れ聞こえる不満の声に対して、朝鮮労働党の学内の委員会や学長などは、いずれも問題ないとの立場を示している。
「大学は国から建設資材などを一切受け取れないため、独自に後援者を募るしかない。大学が学生を募集する以外に、後援者を確保する方法はない」(情報筋)
未来の教員を養成する師範大学が学生に「社会の現実」を見せつけているのだ。そうやって、児童、生徒やその親から金品を巻き上げる教師が誕生する。
国がいくら教育の大切さを説いても、予算や資材を配分しない以上、このような行為は繰り返されるしかないのだ。車光洙が夢見た国は、こんなものだったのだろうか。