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違和感しかなかった巨人・阿部慎之助の胴上げ by ソフトバンク

豊浦彰太郎Baseball Writer
(写真:ロイター/アフロ)

2019年プロ野球日本シリーズは、ソフトバンクの4連勝で幕を閉じた。まずは、両軍の健闘を讃え、ホークスの勝利を祝福したい。

しかし、レレレ、と思う場面が試合後にあった。今季限りで現役を引退する巨人の阿部慎之助をソフトバンクの選手たちが胴上げしたことだ。そして、これを「ノーサイドの精神」として賛美する記事も出た。正直なところ、ぼくには違和感しかない。

激闘の後、選手たちが互いの健闘を讃え合うシーンは見ていて清々しい。ボクシングのような格闘技や、ハードコンタクトを伴うラグビーなどではなおさらだが、野球だってそうだと思う。

しかし、相手をリスペクトするスポーツマンシップの精神と馴れ馴れしさは違うと思う。この境界線の基準は人により違うと思うが、ぼくは観客の前でそこまでやるのはナシだなと思う。プロ野球選手も、試合後は異なるチームの選手同士で遊びにも行くし、オフにはトレーニングも合同で行う。試合中にも、出塁したら一塁手と何やら会話を交わすのもよくあることだ。

しかし、ファンにも見たいものと見たくないものがある。その意味では、観客を前に相手選手を胴上げするのは一線を越えているように思えたし、つい今しがたまで繰り広げられていた熱戦による感動が冷めてしまう思いがした。

そして、ぼくのこの想いにも伏線がある。今まで何度も書いてきたのだけれど、シーズン終盤になると毎年のように引退試合という名の(ぼくに言わせれば)茶番が繰り返される。そして、(一時期に比べるとあからさま度は低下したようには感じられるが)引退する選手に対し手心を加えた投球なり、スイングが提供される。ある意味では、これらはプロスポーツでは厳しく取り締まられるべき敗退行為であり、その背景には「馴れ合い」がある。昨日のホークスによる阿部の胴上げには、それに通じるものを感じたのだ。

また、それを伝えるメディアも同様だ。冒頭に紹介した「これぞノーサイド」と手放しに賛美する記事にも、阿部慎之助の引退会見に阿部シャツを着込んで参加することを受け入れた、取材対象との健全な距離感を忘れたメディアの薄気味悪さがダブってしまうのだ(この記事を書いたライターも阿部シャツ組かどうかは知らないが)。

そんな訳で、昨日の胴上げに関して言えば、ホークスの選手たちにもそれを伝えるメディアにもダンディズムが感じられなかった。唯一の救いは、阿部慎之助自身が相手チームによる胴上げオファーに対し、戸惑いと遠慮の姿勢を見せてくれたことだ。

Baseball Writer

福岡県出身で、少年時代は太平洋クラブ~クラウンライターのファン。1971年のオリオールズ来日以来のMLBマニアで、本業の合間を縫って北米48球場を訪れた。北京、台北、台中、シドニーでもメジャーを観戦。近年は渡米時に球場跡地や野球博物館巡りにも精を出す。『SLUGGER』『J SPORTS』『まぐまぐ』のポータルサイト『mine』でも執筆中で、03-08年はスカパー!で、16年からはDAZNでMLB中継の解説を担当。著書に『ビジネスマンの視点で見たMLBとNPB』(彩流社)

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