Yahoo!ニュース

ウクライナ軍、ロシア軍のイラン政府が提供した神風ドローン3機を夜に撃墜

佐藤仁学術研究員・著述家
ロシア軍が使用しているイラン政府が提供した軍事ドローン「シャハド136」(写真:ロイター/アフロ)

珍しい夜の攻撃ドローン迎撃シーン

2022年2月にロシア軍がウクライナに侵攻。ロシア軍によるウクライナへの攻撃やウクライナ軍によるロシア軍侵攻阻止のために、攻撃用の軍事ドローンが多く活用されている。また民生用ドローンも監視・偵察のために両軍によって多く使用されている。そして両軍によって上空のドローンは迎撃されて破壊されたり機能停止されたりしている。

ロシア軍は主にロシア製の偵察ドローン「Orlan-10」で上空からウクライナの監視・偵察を行っている。またロシア製の攻撃ドローン「KUB-BLA」や「ZALA KYB」で攻撃を行っている。だがウクライナ軍による地上からのドローン迎撃も激しく、ロシア軍の多くのドローンが破壊されたり、機能停止されたりしている。

ロシア軍は最近では攻撃用のドローンとしてイラン政府から提供された「シャハド136(Shahed136)」を頻繁に使用している。9月に入ってからはウクライナ軍による迎撃で撃墜されて、破壊された写真や動画も公開されるようになった。ロシア軍ではイラン政府から提供された「マハジェル6(Mohajer6)」も使用しているが、撃墜されて破壊された残骸が公開されるのはた「シャハド136(Shahed136)」の方が多い。巡行ミサイルよりも攻撃ドローンの方が安価であるためロシア軍は巡行ミサイルの使用を減らして攻撃ドローンを多く使用しているとウクライナ軍の報道官は語っていた。

2022年9月にはウクライナのオデーサのチョルノモルスクの海上で夜に3機のロシア軍の軍事ドローンが撃墜された動画を英国のメディア、ザ・サンが公開していた。オデーサ州のウクライナ軍の報道官はた「シャハド136(Shahed136)」による攻撃が連続的に行われていると伝えていたので、撃墜されたのもイラン政府が提供した「シャハド136(Shahed136)」であろう。

ウクライナ軍ではロシア軍への攻撃シーンの映像や写真をSNSで頻繁に公開して世界にアピールしているが、ほとんどが昼間の明るい時間に撮影されたものが多い。紛争なので夜は休みということはなく、両軍とも夜にも攻撃と迎撃は行われており、ウクライナ軍もサーマルカメラを搭載したウクライナ製の軍事ドローン「R18」で夜にロシア軍を攻撃している。夜にロシア軍の攻撃ドローンを迎撃して撃墜している動画は珍しい。

▼夜に撃墜されるロシア軍の攻撃ドローン

昼でも夜でもドローンはハードキルで徹底的に破壊へ

ドローンは検知されたらすぐに迎撃されて破壊されるので、戦場では何台でも必要だ。監視偵察ドローンは「上空からの目」として敵の様子を確認することができる。攻撃ドローンは敵を察知したら、すぐに攻撃が行えるし、大型ミサイルほどコストがかからない。

上空のドローンを迎撃するのは、電波を妨害(ジャミング)してドローンの機能を停止させるいわゆる"ソフトキル(soft kill)"と、対空機関砲のように上空のドローンを爆破する、いわゆる"ハードキル(hard kill)"がある。爆弾などを搭載していない小型の監視・偵察ドローンならばジャミングで機能停止させる"ソフトキル"で迎撃できるが、中型から大型の攻撃ドローンの場合は対空機関砲や重機関銃のような"ハードキル"で上空で爆破するのが効果的である。

地対空ミサイルシステムや防空ミサイルのような大型システムで監視ドローンを攻撃して爆破させるのはコストもかかるし、大げさかと思うかもしれない。しかし監視ドローンこそ検知したらすぐに破壊しておく必要がある。監視ドローンで敵を検知したらすぐに敵陣をめがけてミサイルを大量に撃ち込んでくるからだ。監視ドローンとミサイルはセットで、上空の監視ドローンは敵からの襲撃の兆候である。また部品を回収されて再利用されないためにも徹底的に破壊することができる"ハードキル"の方が効果的である。今回の「シャハド136(Shahed136)」も明らかにハードキルで破壊している。神風ドローンは爆弾を搭載して突っ込んでくるタイプのドローンなのでソフトキルで機能停止させて上空から落下してくるのも危険だから、ハードキルで上空で徹底的に破壊しておいたほうが良い。

「シャハド136」は標的を見つけると、標的に向かって爆弾を搭載したドローン自身が突っ込んでいき爆破するタイプのいわゆる「Kamikaze drone(神風ドローン)」のタイプである。

▼イラン政府からロシア軍に提供された攻撃ドローン「シャハド136(Shahed136)」

攻撃ドローンは「Kamikaze drone(神風ドローン)」、「Suicide drone(自爆型ドローン)」、「Kamikaze strike(神風ストライク)」とも呼ばれており、標的を認識すると標的にドローンが突っ込んでいき、標的を爆破し殺傷力もある。日本人にとってはこのような攻撃型ドローンの名前に「神風」が使用されるのに嫌悪感を覚える人もいるだろうが「神風ドローン(Kamikaze Drone)」は欧米や中東では一般名詞としてメディアでも軍事企業でも一般的によく使われている。今回のウクライナ紛争で「神風ドローン」は一般名詞となり定着している。ウクライナ語では「Дрони-камікадзе」(神風ドローン)と表記されるが、ウクライナ紛争を報じる地元のニュースでもよく登場している。「シャハド136」を紹介する動画やニュースでも「Kamikaze drone」と紹介されている。今回の映像を紹介しているイギリスのメディア、ザ・サンでも「kamikaze drone」と紹介している。

イランの兵器のほとんどは1979年まで続いた王政時代にアメリカから購入したもので、現在はアメリカとの関係悪化による制裁のためアメリカから購入できないので、特にドローン開発に注力している。イランの攻撃ドローンの開発力は優れており、敵国であるイスラエルへも飛行可能な長距離攻撃ドローンも開発しており、イスラエルにとっても脅威である。イスラエルのガザ地区の攻撃の際にはパレスチナにドローンを提供してイスラエルを攻撃していたと報じられていた。またイランでは開発したドローンを披露するための大規模なデモンストレーションも行ってアピールもしていた。

2022年7月からイラン政府がロシア軍に軍事ドローンの提供で協力している。米国の国家安全保障担当大統領補佐官のジェイク・サリバン氏は2022年7月11日にホワイトハウスの記者会見で、イラン政府がロシア軍に対してウクライナ紛争で使用するためのドローン数百台を提供する可能性があると語っていた。イランは7月からロシア軍に攻撃ドローンの訓練も行っていた。米国のシンクタンクの戦争研究所は、イラン政府がロシア軍に対してイラン製の攻撃ドローン「シャハド129(Shahed129)」を46機提供しているとの調査結果を発表していた。米国CNNの報道によると、ロシア軍はイランでウクライナでの戦闘のために、イラン政府が提供した攻撃ドローンの操縦訓練を行っている。CNNによるとイラン製の攻撃ドローン「シャハド129(Shahed129)」のほかにイラン製の監視・偵察ドローン「サーエゲ(Shahed Saegheh・Shahed191)」もロシア軍に提供されるということだった。2022年8月には米国国防総省のパット・ライダー報道官は「イランの飛行場からロシアに向けて軍事ドローンが輸送された。ロシア軍はイラン政府からイラン製の軍事ドローン数百機をこれから調達する予定。入手した情報によると、今回輸送されたイランの軍事ドローンはすでに多くの不具合(numerous failures)が生じている」と語っていた。

▼ウクライナ軍によって公開された「シャハド136(Shahed136)」を上空で破壊する昼間に撮影された動画

▼ウクライナ空軍が公開した破壊された「マハジェル6(Mohajer6)」動画

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

佐藤仁の最近の記事