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ジョニー・デップ裁判:「私も名誉を毀損された」アンバー・ハードがデップの友人を攻撃

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
ジョニー・デップの支持者たちにキャリアを破壊されたと訴えるアンバー・ハード(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 ジョニー・デップを支持する人たちによるツイート攻撃で、アンバー・ハードのキャリアは凋落したーー。ヴァージニア州で行われている裁判で、話題がデップによるDV被害から、キャリアによる影響へと移った。

 この裁判は、2018年12月、ハードが「Washington Post」にDV被害者として寄稿した意見記事を受け、デップが起こしたもの。名前こそ出していないものの、自分のことを言っているのは明白で、「パイレーツ・オブ・カリビアン」から降板させられたのはこの記事のせいだと、デップはハードに5,000万ドルを要求している。それを受けて、ハードは、自分もデップにより名誉を毀損されたと、1億ドルを求める逆訴訟を起こした。

 ハードが自分の名誉を最も毀損した人物として挙げるのは、デップの友人で弁護士(この名誉毀損裁判を担当する弁護士ではない)のアダム・ウォルドマン。2016年にデップの弁護士になったウォルドマンは、2020年7 月の「Daily Mail」の記事で、ハードがデップからDVを受けたというのは彼女の自作自演にすぎないとコメントした。その記事で、ウォルドマンは、「アンバーと友人は、警察を呼ぶことでジョニーを罠にはめようとした。だが、最初にペントハウス(ロサンゼルスのダウンタウンにあるデップが所有する家)に来た警察官は、しっかり調べたものの、彼女の顔にも家にも何のダメージもないため、帰ってしまった。それでアンバーと友達は、弁護士やパブリシストのアドバイスも聞き、もっとシナリオを考え、ワインを撒き散らし、家の中を荒らして、もう一度警察を呼んだのだ」と述べている。これ以外の機会にも、ウォルドマンは、ハードのDV被害は嘘だという発言をしている。

 ウォルドマンに嘘つき扱いされたせいで自分を悪者と捉える人が増えたと信じるハード側は、その裏付けとして、ロン・シュネルというソーシャルメディアのエキスパートを証人として出してきた。シュネルの調べでは、ウォルドマンのコメントが出た頃、「#AmberHeardIsALiar」などハードにとってネガティブなハッシュタグがついた投稿がソーシャルメディアで確かに急増している。しかし、シュネルはまた、そもそもデップに対するネガティブな投稿はほとんどないのに比べ、ハードに対するネガティブな投稿は格段に多いことも示した。彼によると、2020年4月から2021年1月までの間に、ハードに関するネガティブな投稿は100万個以上あったとのこと。それらネガティブな投稿のうち、4つにひとつはウォルドマンに関係しているともシュネルは述べている。

ハードのエージェントもツイッターによるダメージについて証言

 ハードを担当するタレントエージェント、ジェシカ・コヴァセヴィックも、ビデオを通じ、ハードが受けたダメージについて証言した。

 2018年12月に公開された「アクアマン」は大ヒットしたが、来年公開予定の「アクアマン2」で、ハードは出演場面を大きく減らされている。「『アクアマン』のような大作に出てヒットすると、普通、その役者のキャリアは完全に変わります。良いオファーがたくさん来るようになります。でも、彼女(ハード)にはそれが起こりませんでした。共演者(ジェイソン・モモア)には起きたのに。もちろん彼は主役ですが、その数パーセントですら彼女には起きませんでした」というコヴァセヴィックは、その理由はハードに対するネガティブなツイートにあると見る。

「『アクアマン』が公開された時にはみんな彼女に満足していましたから。考えられるのはそれしかありません」と、コヴァセヴィック。ハードの弁護士から「ウォルドマンのコメント、あるいはそのほかのツイートのせいでミス・ハードが失った具体的な仕事はありますか」と聞かれると、彼女は、タイトル未定のアマゾンが製作する映画を挙げた。「評判が悪くなったから、とは、誰も堂々と言いません。でも、嘘つきだと言われている人と仕事をするのは避けたいのです」とも、コヴァセヴィックは述べている。

 一方、当のウォルドマンは、自分のコメントを否定せず、後悔もしていないようだ。この裁判でも、ウォルドマンは、ビデオでの証言で、ハードが嘘を言っている証拠はあると述べた。決定的なのは、ペントハウスのコンシェルジュなど中立的な立場にある9人もの人が、ハードが警察を呼んだ2016年5月22日からの数日間にハードを見たにもかかわらず、顔にケガはなかったと証言していること。だが、5月27日、ハードは突然、あざのある顔で一時的接近禁止命令を申請しに行き、マスコミを騒がせている。かと思えば、その直後にはまた何もない顔で楽しそうに友人と歩いているところがパパラッチされているのだ。

「ネガティブなツイートは自業自得」とデップのファン

 その9人の名前を具体的に挙げ、ハードのDV被害は自作自演だとあらためて強調したウォルドマンに、デップのファンは大きな賞賛を送っている。ツイッターには「アダム・ウォルドマンの証言はアンバー・ハードにとって地獄となった」「アンバー・ハードは攻撃する人を間違えたね。おかげでもっと事実が伝わってしまったよ」「アンバー・ハードはアダム・ウォルドマンを黙らせたがっている。でも彼女は表現の自由を信じるのでは?この(名誉毀損)裁判でそれを主張しているのでしょう?」などというコメントが見られる。

 ある人は、「ネガティブなハッシュタグはジョニーやアダム・ウォルドマンのせいではない。ひどい人間であるアンバーのせい。責任を他人に押し付けるのはやめて」と書いた。その投稿にはハードについてのネガティブなハッシュタグ複数と、デップを支持する「#JusticeForJohnnyDepp」がついている。デップの支持者がヒーローと崇める人を攻撃したせいで、皮肉にも、これらのハッシュタグがますます飛び交うことになりそうだ。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「シュプール」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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