「テレビはこの15年間で800万人もの視聴者を失った」との話を耳にして
先日ふとしたきっかけで「テレビはこの15年間で800万人もの視聴者を失った」との話を目にする。具体的にどのような資料を元にその数字が算出されたのかまでは確認できなかったが、テレビ視聴者数が今世紀に入ってから減っているとの論調には、興味関心がそそられる。具体的な数字をフェルミ推定レベルで良いので、一度算出しておくのも悪くない。そこで、実際に手持ちのデータで検証してみることにした。
視聴率の動向は「主要テレビ局の複数年に渡る視聴率推移をグラフ化してみる」の通り、当方が定点観測をしている上場テレビ局の決算短信補足資料の蓄積データを用いる。これは関東地域のHUT(総世帯視聴率(Households Using Television、テレビをつけてテレビ番組を生で視聴している世帯)で、毎年上期と下期の2期に分けて提示されている。チャンネル別の区分は無く、録画した番組の再生、家庭用ゲーム機でテレビ画面を使っている場合は該当しない。
また、HUTはあくまでも時間区切りでどの程度の人が見ていたかを示すのであり、今件の「視聴者」を算出する時には、むしろ到達率(1日単位でテレビを観たか否か)の数字の利用が好ましいのだが、もちろんその値は公開されていない。そこでゴールデンタイムのHUTを用い、近い値と見なす。朝だけテレビを観てゴールデンタイムに観ない人はあまり想定しにくい。またテレビの利用は夕食後のゴールデンタイム前後がピークとなることは、他の調査でも立証されている。
人口の元値には総務省統計局の人口推計の値を用いる。年々人口は変化していることから、これを用いることで、視聴率との兼ね合わせによる推定視聴者数の算出の際の誤差を減らすことができる。人口推計は暦年、視聴率は年度を使うため、厳密には3か月のずれが生じるが、元々視聴率そのものも半年区切りで計上しており、それに1年単位で人口変化を掛け合わせることから、誤差そのものは覚悟の上であり、さほど気にしなくても良い。あくまでも概算に違いない。
また今回用いた視聴率は関東地域のもので、地域別では多分に変化が生じている可能性はあるが、こちらも誤差範囲のものとしてあえて無視をする(他地域の数字は手元にない)。
これらの値を元に試算した、日本におけるテレビ視聴者数の推計値変移は次の通りとなる。
今年は2015年であることから、恐らく「15年で」とは今世紀に入ってからを意味するのだろう。その観点で見ると、大よそ800万~1000万人は減っている計算になる。人口は多少の上下を示しているが、視聴者数に大きな影響を与えるような動きは無い。総人口では2010年位まではむしろプラスの影響が与えられている。
一方、試算に用いた視聴率(HUT)はあくまでもテレビ所有世帯における値。今件は全世帯がテレビ保有世帯との前提で、その世帯比率をそのまま人口比率にシフトして計算しているため、テレビ所有世帯が減れば、その分テレビ視聴者数は減る。
内閣府の消費動向調査によれば、カラーテレビの世帯別普及率は大よそ98%前後で推移しているが、地デジへの切り替えなどに伴い単身世帯や若年層世帯では数%の減退が確認できる。
従って実際には、視聴者数の減少度合いはもう少し上乗せされるべきかもしれない。
一方で、NTTドコモのVODサービス「dビデオ」やHuluなど、動画視聴タイプのテレビ視聴も増えている。さらに動画共有サイトの動画を、テレビ視聴のように楽しむスタイルも普及しつつある。映像娯楽文化が衰退したわけでは無く、むしろ多様化し、総人数は増加しているだろう。ただし、テレビCMで直接広告料を計上できるリアルタイム視聴の視聴者数、言い換えればCM視聴者が減少していることは間違いない。そしてその数は、恐らく今世紀に入ってから800万人どころか1000万人ぐらいは居る可能性すらある。
さらにいえばその15年の中で、リアルタイム視聴をする視聴者における、年齢階層別構成比は大きく変化しているはず。しかし残念ながらそれについては試算の手がかりは無い。
現状ならば例えば上記の「平成26年 情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」(総務省)のように、世代別のリアルタイム視聴動向を推し量ることは出来るのだが。
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