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遺伝性血管性浮腫(HAE)の発作を防ぐ最新治療法まとめ|腫れや痛みを抑える薬の種類と効果

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(提供:イメージマート)

遺伝性血管性浮腫(Hereditary Angioedema; HAE)は、突然の腫れや激痛を繰り返す稀な疾患で、患者さんの生活の質(Quality of Life; QOL)を大きく損ねます。今回は、HAEの発作を予防する最新の治療法について詳しく解説します。

【原因は血液中のタンパク質の異常】

HAEの原因は、血液中のC1インヒビターというタンパク質の欠乏や機能異常です。C1インヒビターは体内の血管拡張物質であるブラジキニンの産生を抑える働きがありますが、C1インヒビターが不足したり機能が低下したりすると、ブラジキニンが過剰に作られ、血管から体液が漏れ出して急激な腫れが生じます。

HAEには大きく分けて3つのタイプがあります。

・タイプI (HAE患者の85%): C1インヒビターの絶対的な不足

・タイプII (HAE患者の15%): C1インヒビターの量は正常だが機能不全

・タイプIII (非常に稀): C1インヒビターは正常だが、他の原因で発症

いずれのタイプでも、顔、喉、手足、腹部などに数時間から数日続く発作性の腫れが起こり、強い痛みを伴うこともあります。喉の腫れは気道閉塞を引き起こし、窒息の危険性もある命に関わる病態です。適切な治療を行わないと、発作を繰り返すことでQOLが著しく損なわれます。

【発作の予防が治療の基本】

HAEの治療は、発作時の対処療法と発作予防の両方が重要です。発作が起こった際に、腫れや痛みを和らげ、命に関わる喉の浮腫に対処する治療が対処療法です。一方、発作そのものの頻度を減らすのが予防療法で、特に発作を繰り返す患者さんにとって重要な治療法と言えます。

HAEの発作予防には、いくつかの方法があります。

・C1インヒビター補充療法: 不足しているC1インヒビターを補充することで、ブラジキニンの産生を抑えます。健康な人の血液から精製したC1インヒビター製剤を静脈内投与する方法と、遺伝子組み換え技術で作られたC1インヒビター製剤を皮下注射する方法があります。投与間隔は数日から1週間程度です。

・ブラジキニン受容体拮抗薬: ブラジキニンが受容体に結合するのを阻害する薬です。1日1回の内服薬のベロトラルスタットなどが使われます。

・モノクローナル抗体: カリクレインの働きを阻害し、ブラジキニンの産生を抑える注射薬。2-4週間に1回、皮下注射します。ラナデルマブなどが使用されています。

・男性ホルモン剤: 経口薬のダナゾールなどが昔から使われてきましたが、副作用が問題視され、新薬に置き換わる流れにあります。

複数の作用機序の薬が使えるようになったことで、より安全で効果的な予防治療が可能になってきました。重症度や併存疾患、ライフスタイルなどを考慮して、患者さん個人に最適な治療法を選択していくことが大切だと思います。最新の治療薬は発作を5~8割方抑える効果が報告されており、QOLの改善が大いに期待されます。

【QOL改善への取り組み】

突然起こるHAEの発作は、患者さんの日常生活に大きな影響を及ぼします。腫れや痛みによる身体的苦痛はもちろん、外見の変化による心理的ストレス、学校や仕事を休まざるを得ないことによる社会的損失など、QOLは様々な側面から低下します。

HAEの治療の目標は、単に発作を抑えるだけでなく、患者さんのQOLを向上させることです。そのためには、患者さん一人一人の状況に合わせた治療計画を立てることが重要です。具体的には、

・発作の頻度や重症度、誘発因子などを正しく評価する

・副作用や利便性を考慮して、最適な治療法を選択する

・定期的な診察で治療効果をモニタリングし、必要に応じて治療法を見直す

・セルフケア(発作日誌の記録、ストレス管理、生活リズムの調整など)を指導する

こうしたきめ細かなアプローチにより、QOLの改善を図ります。

また、HAEの代表的な皮膚症状である腫れと痛みへの対策も重要です。皮膚の腫脹は、他人の視線を気にするなど心理社会的ストレスの原因にもなります。皮膚症状をコントロールすることは、身体的のみならず精神的なQOL改善に寄与すると考えられます。

HAEの皮膚症状は、抗ヒスタミン薬や副腎皮質ステロイドでは効果が乏しいのが特徴です。あくまでも原因療法である発作予防治療を基本としつつ、皮膚の腫れに対しては冷却や圧迫、痛みに対しては鎮痛薬の使用など、対症療法も併用していきます。

HAEは稀少疾患ですが、患者さんのQOLに与えるインパクトは計り知れません。医療者には、最新のエビデンスに基づいて適切な治療を提供するとともに、患者さんに寄り添った支援を行うことが求められます。患者会の活動などを通じて、患者さん同士が支え合える環境作りも大切です。

今後も、HAEの病態解明が進み、より効果的で安全な治療法の開発が期待されます。患者さんが社会の中で希望を持って生きていけるよう、医療者と患者さんが協力して取り組んでいくことが何より重要だと思います。

参考文献:

・Betschel S, et al. The International/Canadian Hereditary Angioedema Guideline. Allergy Asthma Clin Immunol. 2019 Nov 25;15:72.

・Busse PJ, et al. Hereditary Angioedema: New Therapies and Expanding Treatment Options. J Allergy Clin Immunol Pract. 2022 Feb;10(2):342-353.

・Lumry WR. Hereditary Angioedema: The Economics of Treatment of an Orphan Disease. Front Med (Lausanne). 2018 Feb 16;5:22.

・Banerji A, et al. Effect of Lanadelumab Compared With Placebo on Prevention of Hereditary Angioedema Attacks: A Randomized Clinical Trial. JAMA. 2018 Nov 27;320(20):2108-2121.

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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