「無知・無関心の広島は恥ずかしい」ガザ侵攻に抗議続ける市民が2万5385筆の署名届ける
イスラエル軍によるパレスチナ自治区ガザへの攻撃に反対し、原爆ドームの前で連日抗議行動を続けている「広島パレスチナともしび連帯共同体」は15日、広島市が8月6日の原爆の日に挙行する平和記念式典にイスラエルの政府代表を招待しないよう求め、今月6日から9日間で集めた署名2万5385筆を市に提出した。メンバーのレベッカ・マリア・ゴールドシュミットさんや湯浅正恵さんらが市役所を訪れ、平和記念式典の運営を担当する市民活動推進課の片桐清志課長に署名の束を手渡した。
市は、今年の平和記念式典に、イスラエル代表を例年通りに招待すると4月17日に発表。一方で、ウクライナ侵攻が始まった2022年以降、ロシアは招待しておらず、「ダブルスタンダード」に対して批判の声が上がっていた。
この方針に対し、「共同体」は、市の発表の2日後には、市役所の前で抗議のスタンディングを実施。さらに、SNSを活用するなどして、インターネットで署名運動を展開してきた。「イスラエルはこれまでも国際人道法や国際人権法に違反しながらも国家としての責任を果たそうとせず、ガザにおけるジェノサイドはすでに半年を越え、閣僚が核兵器の使用まで言及している。広島市は『核兵器廃絶』を訴える『国際平和文化都市』として、イスラエルに対し断固とした態度をとるべき」として、イスラエル代表を平和記念式典に招待しないよう市に要請している。
15日は、1948年5月のイスラエル建国に伴って故郷を追われた多くのパレスチナ人が難民となった日で、パレスチナで「ナクバ(大災厄)」の日と言われているという。この日の署名提出後、メンバーのうち5人が揃って記者会見に臨んだ。
「『二度と繰り返しません』と誓う式典に、イスラエルはずっと来ている。2009年から毎年参加して誓いを聞き、もう1回呼んで何が変わるか。その誓いを裏切り、大量虐殺を平気で続けるイスラエルを何事もなかったことのように招待するのは原爆の犠牲となった人々に対する冒涜だ」。湯浅さんは会見の冒頭でそう語気を強めた。「ロシアを招待せず、イスラエルを招待する判断はダブルスタンダード。国際平和文化都市の名を失墜させる行為であるばかりか、イスラエルによるジェノサイドを容認するメッセージを世界に送ることになる」
続いて、メンバーがそれぞれの想いを語った。
マラカイ・ネルソンさん「ナクバ・デーは80万人以上のパレスチナ人が、現在イスラエルと呼ばれる国から民族的に追放された日。イスラエルは、国際法を無視し、ガザで3万5000人以上のパレスチナ人を殺害し、170万人以上の人々を強制移住させ、西岸でもパレスチナ人に対する弾圧を強めているが、これはナクバが終わっていないことを明確に示している」
田浪亜央江さん「根本的に言えば、ロシアとベラルーシの代表が招待されようがされまいが、広島市はイスラエルを招待してはならないと私自身は考える。パレスチナ人を抑圧し民族浄化を続けているイスラエルとの交流をボイコットするという運動は世界で広がっている。ジェノサイドという言葉を使うかどうかには関わらず、一方的にパレスチナ人を殺害、虐殺しとりわけ今ジェノサイド、ガザで行っているジェノサイドを継続しているイスラエルを平和記念式典に招待することは、パレスチナ人とそれに連帯する世界の市民の長年の取り組みを愚弄するもの」
「イスラエルの植民地政策でナクバが継続し、世界で600万人以上のパレスチナ人が無権利状態で置かれている。ナクバは、パレスチナ人が民族自決権を奪われ続けている不正義を訴える日。3世代にも4世代にもわたってパレスチナ人は攻撃の恐怖にさらされ続け、しかも主権国家の国民として訴える政府を持たない。その異常な状態に私たちはもっと関心を持つべき。世界平和という普遍的な価値を訴えているはずの広島市が、世界のうねりに無関心で、無知であり、非常に視野が狭い姿勢であり続けていることを、世界に知らしめるのは非常に見苦しくて恥ずかしい」
吉美駿一郎さん「社会運動に参加するのはほとんど初めてだが、現場で会った若い人に教わって情報収集はインスタグラムで行っている。そこで爆風で吹っ飛ばされ、足がちぎれた女の子が壁に引っかかっている姿、爆弾で吹っ飛んだ親の肉片をビニール袋に集める子ども、ちぎれた足や手を並べている親、黒く焦げた赤ちゃんを抱いて泣く母親の姿を見たりしている。パレスチナの惨状が僕たちに伝わるように、広島の行動もパレスチナの人々に伝わる。パレスチナの人々は平和記念式典にイスラエルが参加するのを見てどう思うだろうか」
田中美穂さん(ビデオメッセージ)「私は、イスラエルを平和記念式典に呼ばないという署名の趣旨に、正直心から賛同できていなかった。広島が何を訴えてきたかを考えたときに、どこかの国を排除するというやり方は違うんじゃないかと。でもこの7カ月間、一緒に立ってみんなから学び合って、自分の無知・無関心に向き合ってきて、訴えるべきだと思えるようになった。広島のメッセージは大きいけれども、今はそんなレベルではないと学んだ。広島市の言える範囲、自分たちが定義する中での平和だけを訴えていても、核兵器はなくならないし、世界恒久平和もそれでは絶対に実現しない。核兵器廃絶は大事だという言葉が出てきても、本当に具体的に目指しているのか。つつがなく式典が執り行われるということより、どうやったら広島の経験が伝わるか。核廃絶を言葉だけではなくて本当の意味で世界の目標にできるのかを考えてほしい」
レベッカ・マリア・ゴールドシュミットさん「広島で起こった核のジェノサイドの犠牲者を悼む式典に、イスラエルの席はない。ユダヤ人である私の家族もナチによるジェノサイドの犠牲者の1人だが、私の家族の苦しみは、決して今イスラエルが行っているジェノサイドを正当化するものではない。広島で起こったジェノサイドも、広島がイスラエルのような国を受け入れて容認することを決して正当化はできない。今行われているイスラエルの罪を認め、変化をもたらすことは私のユダヤ人としての責任」
「共同体」は、2023年10月13日以降、毎日欠かさずドームの前でスタンディングを行ってきたほか、広島市や広島市議会への申し入れなどの活動もしてきた。ロシアによるウクライナ侵攻時とは異なり、広島市や市議会が声明や決議を発出していないことについて市に訴えたが、市側は、「外交、安全保障は国の専権事項」としつつ、核実験を行うなど核兵器廃絶を阻害する行為の場合などには抗議文を送るなどと説明。ロシアによるウクライナ侵攻では、プーチン大統領が核兵器使用を示唆したため市として抗議した、とした。
こうした市の対応を踏まえ、湯浅さんは会見の最後にこう語った。「広島は原爆の被爆をジェノサイドと考えて本当に普遍的な平和を訴えてきたか。広島市は核実験のみに反対する、つまり原爆が爆発しなければどれだけ放射能を垂れ流そうと、どれだけジェノサイドで世界中の人が殺されようと恒久平和とは関係ないというメッセージを広島は今までまき散らしてきたんではないか。今変わらなければ広島は変わらない。自分たちの定義した狭い平和の中での行動だけでは何も変わらないから、私たちはそこから出ないといけない」
片桐・市民活動推進課長は「今のところ変えるつもりなく招待する方向で準備を進めている。海外の要人には、広島で被爆の実相に触れていただき、核兵器が使われたらどうなるかを知っていただき、持ち帰っていただきたい」と話した。そうであれば、やはりロシアを呼ばないのはおかしいではないか、との記者の指摘に対しては「日本政府の姿勢が間違ったメッセージで他国に伝わってしまい、式の円滑な運営に支障をきたす」と従来の説明を繰り返した。