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モスクワの屋根の上に防空ミサイルシステムが設置。ウクライナの首都攻撃に備えた?

今井佐緒里欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者
夕日を受けるモスクワの空。(写真:イメージマート)

モスクワの屋根の上に、防空ミサイルシステムが設置され始めていると気づいたのは、もちろん住人だった。

1月19日に最初にSNSに登場し始めた写真では、ロシア国防省の8階建ての建物の屋上に設置されていた(下のツイート参照)。

「パーンツィリS1」という、短距離から中距離用のシステムで、航空機、ヘリコプター、巡航ミサイルに対する防御に使用されるという。

ロシア軍は、戦場でいたるところに見られるようになった軍用・商用ドローンなど、より小さな目標に対して使用することも可能だと述べてきた。

ということは、ロシアはウクライナが首都モスクワを、ドローンやミサイルで攻撃してくると思って、備えだしたのだろうか。

公式発表は何もない。

ドゥーマ(国会)国防委員会のエフゲニー・レベデフ議員は、写真は「偽物、モンタージュ」であると確信していると述べた。もちろん完全スルーされて、地元のモスクワの公式メディアは、この話題に触れ続け、自分たちが撮った映像まで放送していたという。

1月20日、ロシアはモスクワが標的になりうると心配しているかどうかを尋ねられたペスコフ報道官は、国防省に言及した。

「彼らは国全体、特に首都の安全を確保する責任があるため、講じられているすべての措置については、国防省に尋ねるほうがよい」と記者団に語った。

同省は、AFPからのコメント要請にすぐに応じなかったという。

情報サイト「シレナ」はテレグラムに写真やビデオを投稿して、以下のように書いている。

https://t.me/news_sirena/9982
https://t.me/news_sirena/9982

モスクワに防空システムを導入している。知られていること

◆モスクワのいくつかの地域で、目撃者がロシアの地対空ミサイルシステム(ZRPK)である「パーンツィリS1(Pantsir-S1)」を発見した。地元の人によると、そのうちの1つは、ロシア連邦国防省の建物にある(写真1)。

◆2つ目はテテリンスキー通り(Teterinsky Lane)のオフィスビルの屋上(写真、動画#2-5)。この建物には、例えば写真スタジオやボーカルスタジオなどがあり、現在ではウラルトラック、カマズトラック、クレーンなどが置かれている。MSK1.RUの特派員がそこに行くと、警備員は軍が「屋根を直している」と彼らに話した。「建設作業員が作業しています。そんなに心配しなくてもいい。ただの計画的な実行ですよ」

◆ロシニ・オストロフ国立公園でも同じことが起きている。木が伐採された秘密の建設現場は、防空システムの現場であることが判明した (写真 No. 6)。 国防省がその装備を扱っていると言われている。 議員や市民活動家は、特別保護地域の木を伐採することの合法性について問い合わせを送ったが、関係部門からの回答は得られなかった。

◆匿名のテレグラムと未確認の情報源が、モスクワのエアシールド(防空網)の拡大について書いている。それらによると、防空・ミサイルの防衛拠点は、今後、首都周辺だけでなく、市街地にも配置されることになる。これに関する公式な情報はないが、設置の写真は、多くの地元住民によって登場している。

(※複数言語で複数の機械翻訳を使った訳)

また、ロシア語の独立系メディアは、モスクワ郊外のノヴォ・オガリョヴォにあるプーチン大統領の住居から約10km離れた場所にも、別のパーンツィリ・システムが設置されたと報じたという。アルジャジーラが伝え

ウクライナ内務大臣の顧問であるアントン・ゲラシシェンコは、プーチン大統領の住居から遠くない地対空機を映しているように見えるビデオをツイッターに投稿した。

「このビデオは1月6日に撮影したと報告されている」「何が起きているのだろう?」と書いている。

いくつかのロシアメディアは、ここ数週間、「パーンツィリ」に加えて、より巨大で移動式で最新型の、超長距離地対空ミサイルシステム「S-400」が配備されたことも報じている。S-400とパーンツィリS1システムは、しばしば併用されているという。

これは、モスクワ北部の国境にある広大なロシニ・オストロフ国立公園の近くと、首都の農業研究所で見られたという報道がされたと、アルジャジーラが伝えた。

S-400ミサイル防衛システム。2022年5月9日、第二次世界大戦でのナチスドイツに対する勝利7 周年を記念する軍事パレードで。モスクワ・赤の広場。
S-400ミサイル防衛システム。2022年5月9日、第二次世界大戦でのナチスドイツに対する勝利7 周年を記念する軍事パレードで。モスクワ・赤の広場。写真:ロイター/アフロ

親クレムリン派のブロガーたちは、19日に、モスクワにミサイルシステムが出現したことは、ロシア軍指導部が今、自国の都市への攻撃を心配していることを示していると述べた。

「それは(指導者たちが)すべてのリスクを完璧に理解し、モスクワや地方に対する攻撃は時間の問題だと理解しているということだ」と、ウクライナ侵攻を支持する著名なロシア人ジャーナリスト、アレクサンダー・コッツは書いている。「先制攻撃の後ではなく、事前に計画をし始めるのは良いことだ」。

ガーディアンが報じ

ル・モンドの報道によると、前日の1月18日にラブロフ外相が「あらゆる戦争法にもかかわらず、国際人道法にもかかわらず、ウクライナの対空防衛は住宅地に配備されている」と述べたとい。実に奇妙な「予告」だったのだろうか。それとも自分がしようとすることを相手がしていると前もって非難する、いつものお家芸だろうか。

また、「配備が終わったからか、あるいは友人であっても写真を送るのは危険だということを通行人が思い出したからか、画像の流れは途絶えた」という現地の空気も、同紙は伝えている。

国際軍事技術フォーラム「ARMY-2016」でパーンツィリ-S1ミサイルと砲兵兵器システムがデモンストレーションで発泡。2016年9月。
国際軍事技術フォーラム「ARMY-2016」でパーンツィリ-S1ミサイルと砲兵兵器システムがデモンストレーションで発泡。2016年9月。写真:ロイター/アフロ

ロシアは何を恐れているのだろうか。

クリミアの軍事施設や、先月、ロシア領土の奥深くで戦略爆撃機が使用した複数の空軍基地で、謎の爆発が起きている。

ウクライナ当局は、最大1000キロ移動可能な長距離ドローンのテストを開始したとも語っており、モスクワを攻撃圏内に置く可能性を、ガーディアンは言及している。

ル・モンドは、独立専門家ニコライ・ミトロヒンの言葉を紹介している。

彼によれば、1960年代以降、モスクワの対空防衛は性能が低いと考えられてきた。ウクライナ側が同時に送り込むことができる多数のドローンは、最低でも幾つかのターゲットを攻撃できる可能性が高いだろう。

したがって、司令本部の屋上に設置されたシステムは、クルスク地方とモスクワ地方にある、最初の2つの防衛線を横切った、最初のドローンを撃墜するために使われ、そこで働く兵士たちがシェルターに到着するまでに、5分の余分を与えるだろう、と書いているという。

いったい、どういう爆撃を想定して書いているのか・・・。

このような物騒なものを、街中に置くのも、よその国で使うのも、すぐにやめてもらいたい。

教会の礼拝に出席しようとするロシアの軍人たち。若い人が多い。モスクワ近郊にあるロシア軍の主要大聖堂で。2023年1月15日。この若者達も、プーチンの駒になって死んでしまうのだろうか。
教会の礼拝に出席しようとするロシアの軍人たち。若い人が多い。モスクワ近郊にあるロシア軍の主要大聖堂で。2023年1月15日。この若者達も、プーチンの駒になって死んでしまうのだろうか。写真:ロイター/アフロ

【追記】

ちなみに、この件について、アメリカの戦争研究所は、以下のように述べてい

「ロシア国民に、戦争をより脅威的に描く扇動的なイメージを生成するために、モスクワに防空システムを配備したのである。しかし、クレムリンはウクライナがモスクワを標的にすると信じている可能性は低く、ウクライナでの戦争の長期化とさらなる犠牲に備えて、ロシア国内の情報空間を準備するための情報操作の強化を支援するために、この派手な演出を行った可能性が高い」

「このデモンストレーションはまた、大祖国戦争(第二次大戦)のロシアの神話の中でウクライナの戦争を文脈化するための、新たな情報作戦の一部であると思われる。それはナチスドイツがソ連を侵略したときのように、モスクワとロシアの他の中心地を脅かすものとしてウクライナを不条理に(馬鹿げたものとして)描写することによって、戦争努力とさらなる動員へのロシアの支持を高めることを意図している可能性が高い」

ロシア当局は、ロシア自体には何も起こらないと、国民を安心させるような発言をしていると聞いているので、緊張をつくりだして、長くなりそうな戦争や、動員等への心理的準備をつくりだそうとしているという意見には納得できる。

でも、情報戦だけのはずがない。彼らは、幾つか象徴的にではあっても、防備を考え始めたのだろう。

しかし・・・余談になってしまうが、この研究所は戦況の情報収集には感嘆するし、その分析も参考になる。世界中のメディアで引用されており、ここがうっかりミスで白を赤と言えば、世界中が赤と報道してしまいそうな勢いである。

しかしながら、政治的意図の分析ということになると、ため息や苦笑しか出ないことが結構ある。

本質的にわかっていないというか、アメリカ人だなあ、はるか遠くだなあ、と思ってしまうことが度々ある。歴史が長く、こねくりまわされているヨーロッパ人や日本人のことなんてわからないのが彼らの良いところ・・・というべきか。

単純に、同研究所は若いスタッフが多いみたいなのでこうなるとか、どの組織にも得手不得手があるだけの話なのかもしれない。戦況の情報収集が大変素晴らしいだけに、よけい落差を感じてしまうのかもしれないが。

欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者

フランス・パリ在住。追求するテーマは異文明の出会い、平等と自由。EU、国際社会や地政学、文化、各国社会等をテーマに執筆。ソルボンヌ(Paris 3)大学院国際関係・欧州研究学院修士号取得。駐日EU代表部公式ウェブマガジン「EU MAG」執筆。元大使のインタビュー記事も担当(〜18年)。編著「ニッポンの評判 世界17カ国レポート」新潮社、欧州の章編著「世界で広がる脱原発」宝島社、他。Association de Presse France-Japon会員。仏の某省機関の仕事を行う(2015年〜)。出版社の編集者出身。 早稲田大学卒。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

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