水耕栽培がみどり戦略計画に突如導入され批判の声上がる~米国では水耕栽培の有機認証を巡り訴訟に発展
持続可能な食料生産とシステムの構築を目指す「みどりの食料システム戦略(以下、みどり戦略)」の計画に突如として水耕栽培が導入されたことで有機農業関係者から疑問の声が上がっている。
水耕栽培が計画に掲載されていることが明らかになったのは、7月末に行われたみどり戦略の法的根拠であるみどりの食料システム法に関するブロック別説明会においてだ(同法律については8月9日までパブコメが行われている)。説明会に参加した有機農業関係者はこれまでみどり戦略に入っていなかった水耕栽培が突如として採用されると聞いて驚いたという。
水耕栽培は、土壌ではなく、高栄養の溶液の中で栽培される作物であり、その大半は、ビニールハウスや貯蔵容器などの屋内で栽培される。水耕栽培のシステムの多くは、液体を通して植物の根に栄養を供給し、ピートモス、バーミキュライト、パーライトなどの固形資材を使用することもある。水耕栽培の一般的な作物には、リーフレタス、トマト、ピーマン、キュウリ、イチゴ、クレソン、セロリ、ハーブなどがある。
有機農業関係者が問題にしているのは、水耕栽培が土壌を使用しない栽培技術を用いており、たとえ農薬・化学肥料の使用を低減させても、自然環境と調和する農業ではなく、みどり戦略の環境負荷低減事業として認めるべきではないという点だ。
確かに水耕栽培の多くは、植物工場とも呼ばれる工業的な生産方法であり、自然や生態系から切り離された農法である。また投資額も大きく有機農業や環境保全型農業の様に営農確立が難しい分野に導入すると経営リスクとなる可能性もある。
米国では水耕栽培の有機認証を巡り有機農家らが訴訟する事態に
米国で7月下旬、連邦控訴裁判所で米国農務省(以下、USDA)が土壌を使用しない水耕栽培施設を有機栽培のラベルの下で認証し続けることを認めた連邦地裁判決に対して、有機農家や食品安全センターが行う控訴の弁論を行った。そこでは連邦政府の有機食品生産法(Organic Foods Production Act)を根拠に、農家が有機認定を受けるためには土壌の肥沃度を高める必要があるとして、控訴しているのだ。この控訴は、USDAが水耕栽培の作物生産者に健康な土壌を作る義務を免除する自由があるとした下級審の判決に異議を唱えたものだ。
有機農家らは2018年、USDAに対して、水耕栽培農業生産の有機認証を禁止する規則を発行することを求める「水耕栽培規則作成請願書」を提出した。しかし請願が却下されたために裁判を行ってきた経緯がある。
有機農家らと請願書を提出した食品安全センターは、ファクトシート「水耕栽培がオーガニック認証されるべきではない理由」を作成し、この問題を訴えてきた。そこでは以下の2点の影響を強調している。
一点目は、水耕栽培のオーガニック認証が消費者に与える影響だ。そこでは水耕栽培をオーガニックと認証することで、USDAが消費者を誤解させ、有機認証の統合性を損なわせることが指摘されている。
二点目は、有機農家への影響だ。有機農業は従来の(慣行的で近代的な)農業に比べて労働力や経営力が必要な場合が多く、また有機認証には多大な投資も求められる。ファクトシートでは、土壌の健康や生態系の安定に実際に寄与しない水耕栽培農場に有機認証の取得を認めることが土壌を基礎にする有機農家を経済的に不利な状況に追い込むことが主張されている。
みどり戦略では、2050年までに有機農業の面積を全農地の25%まで急拡大する目標が設定されている。そこで必要なのは、既存の有機農業や環境保全型農業の経験を生かして地域農業において戦略を実現していくことだ。水耕栽培といった工業的な技術の拡大は、米国のように既存の農家に影響を及ぼす可能性もある。農業・農村の未来を構想する視点から水耕栽培の拙速な導入には懸念せざるを得ないのである。
(参考資料)
”WHY HYDROPONICS SHOULD NOT BE CERTIFIED ORGANIC(水耕栽培がオーガニック認証されるべきではない理由)”MARCH 03, 2020,Center for food safety
”Media Advisory: Public Oral Argument in Appeal Challenging Court Decision Authorizing Labeling of Soil-less Hydroponic Operations as Organic”JULY 26, 2022,Center for food safety