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Netflix版ドラマ「新聞記者」を観た

鈴木崇弘政策研究アーティスト、PHP総研特任フェロー
権力とは一体何か?(写真:イメージマート)

 今、Netflix版ドラマ「新聞記者」が世界同時配信され、日本ばかりでなく、海外でも注目を集めている。

 このドラマは、東京新聞記者の望月衣塑子さんが書いた著書『新聞記者』を原案にして作成された2019年上映の映画『新聞記者』を基に作成されている。同映画は、2017年にあった加計問題をモチーフにした作品で、監督は藤井道人、主演は松坂桃李とシム・ウンギョンで、上映当時は大きな話題になった作品で、2020年度の日本アカデミー賞6部門を受賞した。

 これに対して、このドラマは、2022年に監督は同じく藤井道人がメガホンを取ったが、主演も米倉涼子になるなどキャストも一新し、内容も森友問題をモチーフにするなど、大きくリメイクされている。

 このドラマは、業界の異端児の新聞記者が、若手エリート官僚などと共に、政治や行政などの巨大な権力に立ち向かいながら、事件の真相を暴いていこうとする社会派ドラマである。

 このドラマは、なぜそのように高い注目を得ているのだろうか。それは、このドラマには、その魅力や訴求力を高めるいくつかの工夫がされているからだ。

 まず、主役級や演技派の多くのキャストが参加していることである。

 このドラマでは、米倉涼子が主役とはなってはいるが、それ以外にも綾野剛、吉岡秀隆、寺島しのぶ、横浜流星などのドラマや映画で主役を張れる実力派が、各場面で中心的役割を担い、多くの主役が存在しているような構成になっている。それらの中心人物をつなぎ合わせる役として、米倉が存在しているのである。

 そしてさらに、それらの中心人物の周辺を、佐野史郎、田中哲司、田口トモロヲ、利重剛、ユースケ・サンタマリア、萩原聖人、石丸謙二郎、吹越満、橋本じゅん、柄本時生、小野花梨、でんでん、大倉孝二など、一般のTVドラマでは考えられないほどの豪華な演技派たちが集結し、脇を固めている。このような重層的でかつ多様なキャストによって、ドラマとしても決して短くはなく、かつ重苦しくかつ骨太なストーリーにもかかわらず、現実味と重厚感を与えながらも、このドラマを一気に視聴させる力があるといえるのである。

 次に、このドラマは、セリフより「表情」が重要であるということである。

 上で述べたキャスティングにも関係するのだが、このドラマでは、多くの言葉よりも、キャストの「表情」が重要な役割を果たしている。それができるのは、このドラマには、これだけ高いレベルのキャストが集結しているからだ。だが、キャストが、多くの場面で見せる「表情」こそが、言葉以上に多くのことを語っていて、このドラマに独特の「空気感」と重厚感を与えており、深みと現実味を増しているといえるのだ。

政治とは何か?
政治とは何か?写真:つのだよしお/アフロ

 そして、このドラマでは、政治との一般人の距離感を縮める工夫がなされている。私たちは、政治や政策は、本ドラマにでてくる何人かの一般人役のキャストも台詞(セリフ)でいっているように、一般的に「わかりにくいこと」「自分には関係ないこと」と思いがちだ。その意味では、政治や政治決定、政策は、私たちにとっては遠い存在だ。

 だが、このドラマでは、政治や権力に関わる側の動きがあり、その動きから生まれる影響や副作用が、当初全く関わりのないはずの一般の人たちと結びついていくことを描いている。その結果、政治・権力や政策などと関係ないと思って視聴している者でも、実はこの問題、ひいては政治・権力などの問題も実は、自分たちにも関わるものだと実感できるようになっているのである。

 このドラマでは、権力・政府・官僚側、メディア側などの行動や活動、一般人・個人の生活や生き方などが、並行して描かれ、当初は別々に動いているのだが、ある出来事からそれらが複雑に絡みあっていく様子を丁寧にかつ説得力をもって描かれていて、どんな立場にいる人にとっても、ドラマの扱う問題が自分の問題として感じることのできるような構成になっているのである。

 筆者は、大学で「政治」や「政策」に関わる授業を担当している。政治や政策は、一般的にいえば抽象的でかつ外部からは見えにくいものなので、少しでも感じたり、リアリティを持ってもらえるように、政治・政策などに関わるいくつかのTVドラマや映画を、授業で活用したり、紹介している。必ずしも多くないのだが、それらのドラマや映画のリストを作成している。このドラマも、そのリストにもちろん付け加える予定だ。

私たちの日常は実は政治や政策とつながっている。
私たちの日常は実は政治や政策とつながっている。写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ

 最後の点としては、このドラマには、多くの「正しい」が描かれていることだ。

 現実の社会、特に政治においては、一つだけの正義や、一つだけの「正しい」が存在しているわけではないのだ。そこにおいては、立場や役割に応じて異なった「正しい」がいくつも存在しているのだ。このドラマは、その現実を明確に描いている。だからこそ、このドラマは、リアリティの高いものに昇華されているということができるだろう。

 筆者は、ここまでNetflix版ドラマ「新聞記者」がなぜ多くの注目を集めているのかについて論じてきた。ドラマのモチーフになった出来事の真偽は別としても、このドラマが描いていることは、現在の政治・官僚側において現実に起きうることだ。

 その意味で、一般の私たちも、政治・政策や権力に普通は関係ないとしても、このドラマを観て、実はそれらの決定や動きが自分たちにも影響を与える可能性があることを理解して、今後の日本社会の在り方について考えるきっかけにしてほしい。

政策研究アーティスト、PHP総研特任フェロー

東京大学法学部卒。マラヤ大学、米国EWC奨学生として同センター・ハワイ大学大学院等留学。日本財団等を経て東京財団設立参画し同研究事業部長、大阪大学特任教授・阪大FRC副機構長、自民党系「シンクタンク2005・日本」設立参画し同理事・事務局長、米アーバン・インスティテュート兼任研究員、中央大学客員教授、国会事故調情報統括、厚生労働省総合政策参与、城西国際大学大学院研究科長・教授、沖縄科学技術大学院大学(OIST)客員研究員等を経て現職。新医療領域実装研究会理事等兼任。大阪駅北地区国際コンセプトコンペ優秀賞受賞。著書やメディア出演多数。最新著は『沖縄科学技術大学院大学は東大を超えたのか』

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