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英国で総選挙の投票開始 大部分の全国紙が保守党支持を表明

小林恭子ジャーナリスト
ブレグジットを進めるメイ保守党への抗議デモの様子(写真:Shutterstock/アフロ)

8日午前7時、英国各地で総選挙の投票が始まった。投票は午後10時まで続く。

有権者数は約4700万人(英国の人口は約6000万人)。前回2015年の総選挙では投票率は66・2%だった。

投票は単純小選挙区制(First Past the Post=FPTP)だ。各選挙区の立候補者の中から一人を選ぶ。差の大小にかかわらず、最も多く票を集めた人が当選者となる。

「ブレグジットはブレグジット」、「安定した政権」を合言葉とするメイ党首の保守党がどれだけの差をつけて、最大野党・労働党に勝つかが注目だ。

4月、メイ首相が解散・総選挙を呼びかけた時、保守党と労働党の支持率の差は20%を超えていた。しかし、8日朝時点でその差は十数パーセントから数パーセントに大きく縮小している。野党党首コービン氏の選挙中の戦いぶりが国民の支持を得た。どの政党も全議席数650の中で過半数を取れない可能性も出てきた。

大部分が保守党支持

8日付の全国紙を見ると、その大部分は保守党支持を選択している。

大衆紙サン、デイリー・メール、デイリー・エキスプレス、高級紙タイムズ、フィナンシャル・タイムズ、デイリー・テレグラフが保守党支持。

労働党支持はデイリー・ミラー紙と高級紙ガーディアン。高級紙インディペンデント(電子版のみ)の簡易版で、紙版を出し続ける「i(アイ)」はどの政党も支持せず、中立の立場を取る。ニュース週刊誌「エコノミスト」は第3野党の自由民主党を支持する。

投票日、各紙は政治信条に合わせた紙面作りに力を入れる。

コービン労働党・党首をゴミ箱に入れた、サン紙の1面
コービン労働党・党首をゴミ箱に入れた、サン紙の1面

サン(保守党支持)は1面でコービン氏がゴミ箱に入っている合成写真を掲載した。見出しは「英国をコービン・ゴミ箱に捨てるな(Don't chuck Britain in the Cor-Bin)」である。「コービン氏が率いる労働党の候補者を選択すれば、英国をごみ箱に捨てることになるぞ」という意味だろう。Binはゴミ箱のこと。コービン氏の名前の綴りはCorbynで、Cor-Binでも音は同じく「コービン」となることに引っ掛けた洒落だ。Corは「うわっ!」など驚きを表す感嘆詞。

「テッズ、私たちはできる」のページ
「テッズ、私たちはできる」のページ

ページをめくると、メイ首相を応援する記事がある。見出しが「Tez We Can」(テッズ、やればできる」。Tezはサンが作った、テレサ・メイの「テレサ」の親しみやすい呼称。コービン氏(ジェレミー・コービン)は、「Jezza(ジェッザ)」である。 オバマ前大統領による「yes, we can」と言うキャッチフレーズはよく知られている。

ベンチに座るコービン氏の合成写真(サン紙の中面)
ベンチに座るコービン氏の合成写真(サン紙の中面)

数ページ先では、コービン氏が共産主義の本を持ってベンチに座っている合成写真が目を引く。右下にはゴミ袋がいっぱいだ。見出しは「Apocalypse Mao」。Apocalypse Nowは、映画「地獄の黙示録」の原題だ。 Maoは毛沢東のことだが、共産主義者を意味する。労働党に投票すれば、町はゴミで一杯になり、共産主義の国になる・・という描写だ。「店舗は閉鎖され、失業率が上がり、停電が発生し・・・」、まるで地獄絵図のようになるぞ、と脅している。

「嘘つき、テレサ」と報道するミラー紙

労働党支持のメディアのターゲットはメイ首相だ。1面はメイ氏のアップ。「嘘、大嘘とテレサ・メイ」と見出しが付く。

ミラー紙の1面
ミラー紙の1面

2面と3面には、ピノキオを思わせる、長い鼻がついたメイ首相の様々な合成写真がある。「なぜ彼女の発言を一言も信じられないか」という見出しだ。

画像

5-6面では「労働党政府のみが私たちにより良い未来を提供できる」と言う見出しの横には、メイ首相のお尻を蹴り上げようとする公務員や一般市民のイラストがある。「だから、労働党に投票しよう」というメッセージだ。

ミラー紙の中面
ミラー紙の中面

結果はいつ分かる?

午後10時(日本時間の9日午前6時)に投票が終わると同時に、各テレビ局が出口調査の結果を発表する。事前までの世論調査よりも、この数字が最も現実に近いと言われている。

真夜中を過ぎ、午前1時過ぎになると各地の結果が判明する模様。

大部分の議席の当確が分かるのが午前6時ごろ(日本時間の午後2時)。ほとんどの議席の結果が出るのは昼の12時ごろと言われている。

ジャーナリスト

英国を中心に欧州各国の社会・経済・政治事情を執筆。最新刊『なぜBBCだけが伝えられるのか 民意、戦争、王室からジャニーズまで』(光文社新書)、既刊中公新書ラクレ『英国公文書の世界史 -一次資料の宝石箱』。本連載「英国メディアを読み解く」(「英国ニュースダイジェスト」)、「欧州事情」(「メディア展望」)、「最新メディア事情」(「GALAC])ほか多数。著書『フィナンシャル・タイムズの実力』(洋泉社)、『英国メディア史』(中央公論新社)、『日本人が知らないウィキリークス』(洋泉社)、共訳書『チャーチル・ファクター』(プレジデント社)。

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