アフリカと中東に活動拠点を移した国際テロ組織アルカイダ
戦略転換迫られるアルカイダ
アルジェリアで起きた日本人らの拘束事件は、西アフリカで活動する国際テロ組織アルカイダ系武装勢力「イスラム・マグレブ諸国のアルカイダ(AQIM)」の犯行とみられているが、最高指導者ウサマ・ビンラディン容疑者殺害など、米軍による相次ぐ幹部暗殺でパキスタンやアフガニスタンで勢力を失いつつあるアルカイダが生き残りを図るため、西アフリカなどのイスラム過激派と連携を強めている実態を浮き彫りにした。
英情報局保安部(MI5)のジョナサン・エバンス長官は昨年6月、「2~3年前、MI5の関心の75%はパキスタンとアフガニスタンに注がれていたが、今は50%未満に減少した。英国でテロが起きる危険性は消えつつある。中央アジアで後退を余儀なくされたアルカイダは別の活路を見出そうとしている。アルカイダは戦略転換を迫られている」と指摘した。
オバマ米政権は無人航空機ドローンを使ってパキスタンとアフガンの国境地帯などに潜伏するアルカイダ幹部を次々と暗殺。2011年には米海軍特殊部隊がビンラディン容疑者を殺害した。「アラブの春」と呼ばれる中東民主化運動で親欧米のチュニジアやエジプトで政権交代が実現し、「米国支配を打破するため世界にジハード(聖戦)を」というビンラディン容疑者の呼びかけは説得力を持たなくなった。
アルカイダはリビアやシリアの内戦を利用しようと試みたが、うまくいかず、活路を北アフリカ、西アフリカ、中東に求め、各地のイスラム過激派と連携を模索している。
「アラブの春」で悪化する治安情勢
聖戦思想の影響力を削いだ「アラブの春」はしかし、地域の治安情勢を大きく悪化させた。
フランスがイスラム過激派の勢力拡大を防ぐため軍事介入した西アフリカ・マリでは、リビア内戦の際、サハラの遊牧民トゥアレグ人勢力がリビア最高指導者カダフィ大佐を支持、イスラム過激派は反カダフィ勢力を支援するため越境介入し、大量の武器を手に入れた。
リビア内戦終了後、トゥアレグ人勢力がこの武器でマリ政府軍と交戦、装備が不十分と不満を抱く政府軍の一部が2012年3月、クーデターを起こした。この混乱に乗じて、トゥアレグ人勢力とAQIM系イスラム過激派がマリ北部を掌握してしまった。
マリは西アフリカ随一の民主的な国家で、米国は不安定化する危険性を持つ西アフリカの防波堤として重視してきた。「アフリカの問題にはアフリカの解決策を」をスローガンにマリの治安部隊養成に全力を注いできたが、不覚にもイスラム過激派への寝返りが相次ぎ、ついに旧宗主国フランスが軍事介入する事態に追い込まれてしまった。
今回の軍事介入が、アルカイダ系イスラム過激派にテロの口実を与える恐れも指摘されていた。
誘拐はAQIMの常とう手段
米国の国家テロ対策センターによると、2011年、テロの発生件数は過去5年間で最低となったが、アフリカや南米では最高となり、アフリカでは政情不安に陥ったマリをはじめ、モーリタニア、ニジェール、ナイジェリアでイスラム過激派が勢力を広げている。
AQIMは2006~07年、アルジェリア内戦に起源を持つ「説教と戦闘のためのサラフィー主義者集団」から結成され、武器供与、軍事訓練、資金供与などを通じて西アフリカのイスラム過激派との連携を深めている。アルジェリアなどでのテロ対策は効果を上げ、AQIMはテロ対策の網をかいくぐって勢力保持を図るため、アルカイダの教義に背き身代金目的の誘拐など犯罪行為を多発させるようになっている。
本来、警備が厳重なはずの石油関連施設がアルカイダ系イスラム過激派に襲撃され、外国人スタッフが大量に人質に取られるという事態に、日米欧の政府は人質救出策を協議しているが、西アフリカでの警備実施の見直しを迫られるのは必至だ。
(おわり)