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鈴木雅之 「音楽は心のワクチン」――コロナ禍でもライヴを止めない強い思い、盟友・桑野信義への熱い思い

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
写真提供/エピックレコード・ジャパン

鈴木雅之はライヴを止めない――それは、コロナ禍で先行きが見えない毎日を生きるファンを、少しでも元気づけたいという強い思いでもある。様々なことがあった40年という時間の中で、音楽は誰かの背中を押すことができると確信しているからだ。いくつかの災害や大震災の時も、心のビタミンにして欲しいと音楽を届け、それを受け取ったファンからは、お返しに笑顔をもらった。また自身も悲しい時や、辛い状況に見舞われた時は音楽が心に支えになった。だからライヴを、音楽を止めない。現在は「音楽は心のワクチン」とメッセージし、前向きな気持ちで生活が送れるようにと全国のファンにエールを送っている。

7月7日大阪フェスティバルホール(Photo/岸田哲平)
7月7日大阪フェスティバルホール(Photo/岸田哲平)

2020年から延期となっていた全国ツアー『masayuki suzuki taste of martini tour 2020/21 ~ALL TIME ROCK ‘N’ ROLL~』は、4月から万全の感染症予防対策に取り組みながら全国各地で行ない、7月19日の鹿児島公演でファイナルを迎えた。このツアーは緊急事態宣言発令地域では直前での振替公演など、難しい状況が続き、制約が多い中での開催となったが、生ライヴが観たいという、待っているファンからの声が届くたびに、共に前に進もうという気持ちを強くしていった。

「お客さんが心の中で一緒に歌ってくれて、笑顔になっていく姿に感動」

各地でファンとマスク越しに心の会話を楽しんできた鈴木は「昨年のツアーが延期となり、それに代わる配信ライヴなど新たなチャレンジも沢山してきましが、やはり生ライヴが観たいとの声もたくさんファンの皆さんから届きました。ソーシャルディスタンス、安全対策をしっかりして、声援もできない中、それでも拍手だけでもみんなの気持ちが伝わって、心の中で一緒に歌って笑顔になっていく姿に僕自身も感動しました。新しい時代の中でのルールに乗っ取ったライヴでも十分楽しめるんだということを皆さんと一緒に証明できたと思います」と、ライヴへの思いを語っている

そして先日7月7日の大阪フェスティバルホール公演の様子は、各メディアで取りあげられた。それは本来はこのツアーに帯同するはずだったが、病気療養中のため欠席していた盟友・桑野信義がステージに帰ってきたことが大きな話題になり、WOWOWで自身初となるライヴ生中継をしていたこともあり、このニュースが日本中を駆け巡った。誰より喜んだのは、鈴木だ。いつも左斜め後ろでトランペットを吹いているはずの桑野がそこにいない淋しさ。幼稚園からの付き合いという親友であり、バンドメンバーである桑野がいない淋しさを感じながら、鈴木はレギュラーラジオ番組で「ステージに一緒に立つ日が来るように、オレたちもずっと、ずっと待ち続けたいと思います」と語り、その復活を信じて待ちわびていた。

「40年分の思いを届けます」

「40年分の思いを今夜届けますからね」というメッセージを届け、スタートしたライヴは、シャネルズ/ラッツ&スターの楽曲のセルフカヴァーや、デビュー前から歌い続けてきた洋楽カヴァー、そして最新オリジナル曲で構成されている40周年記念アルバム『ALL TIME ROCK 'N' ROLL』にパッケージしたグルーヴと空気を生で届け、感じてもらう場だ。つまり鈴木雅之というシンガーの41年目の“生き様”を見せることだ。音楽と出会い、とにかくそれを楽しむことをアイデンティティとして、41年間歌い続けてきた鈴木と“チーム・マーチン”が作りあげた2時間のステージは、圧倒的に楽しかった。鈴木のルーツでもあるドゥーワップでコーラスの楽しさを伝え、ロックンロールで体を揺らす楽しさを伝え、そして誰もが聴きたいと思っていたシャネルズ/ラッツ&スターのナンバーを一緒に心の中で歌う楽しさを伝え、さらに人気YouTubeチャンネル「THE FIRST TAKE」でも披露した「恋人」「路(交差点)」などのソロ曲や、最新ヒット曲を揃える文字通りの“オールタイム”な選曲、大人のロックで、全力で客席を楽しませていた。バンドのエモーショナルな演奏も歌を盛り上げていた。

「今こうしてステージに立っているのが夢のよう。正直もう立てないと思っていた」(桑野)

コンサート終盤「紹介しましょう!私のソウル・ブラザーNo.1、桑野信義!!」という鈴木の呼びかけで桑野が登場した際は、大きな拍手が起こり、客席が感動で包まれた。桑野は「長かったです。本当に今こうして立っているのが、夢のようです。だって正直もうステージに立てないと思っていましたから』と、長い闘病生活を経てステージに戻ってきた思いを、素直に語った。「リーダーに『そろそろファイナルになってしまうからちょっとでもいいから来い』と言われて…」と、鈴木の励ましが大きな力になったことを伝えると、「この御挨拶で私は帰らせていただきます』と桑野らしいギャグも飛び出し、ファンと鈴木を安心させた。

そしてシャネルズのシングル曲「ハリケーン」「街角トワイライト」「憧れのスレンダー・ガール」「週末ダイナマイト」を再構成した「Ultra Chu Chu Medley」を披露。やはり桑野のトランペットは欠かせない。さらにこのツアーのもうひとつの聴きどころである、男性だけのコーラス隊の核となる低音ボーカルを聴かせてくれる、シャネルズ/ラッツ&スターのオリジナルメンバー・佐藤善雄のコーラスも欠かせない。涙を流しながらも熱く盛り上がる客席。そこにいる誰もが忘れられない瞬間になったはずだ。さらに「め組のひと」「ランナウェイ」「夢で逢えたら」と、シャネルズ/ラッツ&スター時代の代表曲を次々と披露し本編が終了。鈴木と桑野は肩を寄せるようにステージを後にした。。

桑野はこの日のステージのことを、後日ブログで報告した。久々のステージということでやはり演奏や歌に不安はあったが「自分でも驚いた!身体が覚えていたんだよ ステージに上がり皆んなのサポートで身体の具合は良くなるは調子はアップするは 『病は気から!』って本当だね 正直もうステージに立てないと思っていたからさ」と吐露し、「それぞれ病気の内容は違えど現在闘っている皆さん&サポートしている皆さん 諦めなければ必ず夢は叶う!こんな俺でも実証してみせたよ!とにかく焦らず、先ずは3年後の寛解に向け 療養しながら一歩一歩進んで生きまっせ!!」と、ライヴが強い気持ちにさせてくれたこと、最強のエネルギーになっていることを伝えた。

鳴りやまないアンコールの拍手に応え登場した鈴木は、ゲストの鈴木愛理と共に、関連動画再生総数6,000万を超える大ヒットとなった「DADDY ! DADDY ! DO !」と、同じくTVアニメ『かぐや様は告らせたい~天才たちの恋愛頭脳戦~』のオープニングテーマ曲の「ラブ・ドラマティック」の2曲を歌い、ダンスも披露した。客席も一緒に振付けを楽しみ、歓声は上げられないが楽しんでいる様子と心の声は、ステージの“W鈴木”に届いているはずだ。

「こんな時期だからこそ一緒に踊って、笑って、泣いて、最後に笑顔になる音楽を届けたい」

鈴木は「ラヴソングを歌い続けて40年とプラス1年。その長い時間の中できっとみんなも俺自身も、色んなことがあったよね。マスク越しのみんなが、だんだん表情が笑顔に変わっていく瞬間を見ていた時に改めて”音楽は心のワクチン”なんだと思いました。そんなラヴソングをこれからもずっと歌い続けていきたいと思っています」とメッセージを送り、ラストナンバーのアンジェラ・アキが楽曲提供した壮大なバラード「ポラリス」を、ひと言ひと言思いを込めて披露。鈴木が40年間積み重ねてきた思いが歌になり、その歌とメッセージは多くの人の心を照らす光、まさにポラリス(北極星)=道標になっている――この日のライヴを観て改めてそう感じた。

「こんな時期だからこそ一緒に踊って、笑って、泣いて、最後に笑顔になる音楽を届けたい」――鈴木雅之はこれからもさらに音楽を、ライヴ楽しみ、ずっとロックンロールでいこうと、決意を新たにしたはずだ。

鈴木雅之 オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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